同人用語の基礎知識

キモい/ キモイ

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悪いのは、私を不快にさせたそちらでしょ! 「キモイ」

 「キモイ」(キモい) とは、何らかの人や物に対して 「気持ち悪い」「見ていて不快だ」「嫌悪感を覚える」 といった意味で使われる侮蔑・罵倒語のひとつです。 派生語に 「キモ」「キモーイ」「キモッ」 や 「キショい・キショ」(キッショ/ 気色悪い) があり、ほとんど同じ意味の言葉に 「生理的に無理」 や 「オエ〜〜」、2005年に ネット炎上 を発端に流行した ネットスラング で 「きんもーっ☆」 もあります。

 単体で使うこともありますが、何かに接頭して合成した言葉になることもあります。 例えばキモい おたくキモオタ とか、カメラマン (カメコ) でキモカメといった感じです。 また女子中高生のセリフ風にアレンジした 「マジ キモイ」 みたいな云い方もあります。

 言葉の原型自体はおおむね1970年代頃からあり、膨大に存在する 「○○イ」 という若者言葉にありがちなイ形容詞の一種です。 その後1980年代にその他の言葉と共に広く使われますが、類似の言い回しが廃れる中、この 「キモイ」 は生き残って使われ続け、とりわけ1990年代のお笑い番組などで多用されたことから流行語として広がる一方、新しい若者言葉としてすっかり定着することとなりました。

 直接の造語主、言い出しっぺはどこかにいるのでしょうが、「ナウい」 とか 「いまい」(今っぽくて新しい)、その派生語の 「ダサい」(イケてない) や 「ウザい」(うざったい)「ダルい」(かったるい)「ムサい」(むさ苦しい)、また他人の身体上の特徴をあげつらう 「デブい」(太っている)、「マブい」(かわいい)、「ブスい」「ブサい」(ブサイクだ) などの 「○○イ言葉」 の単なる派生なのでしょう。

 「キモイ」 はこれらに比べると遥かに使いやすい言葉であり、また言葉としての殺傷力というか暴力性も極めて強く、自分の気に入らない相手に対する罵倒表現としてはほぼ最上級のものだと考えられつつも、一方で気軽に乱発乱打されがちの無差別的な差別語だと云えます。  この言葉の持つ大きな特徴は、まず対象を選ばないこと (人・物を問わず、また相手の存在全体から具体的行為まであらゆるものに使える)、そして殺傷力が強いくせに使った相手が罪悪感を覚えにくい構造となっている点が挙げられます。

 これは相手を気持ち悪い存在だと罵倒すると同時に、「相手はどうあれ自分は気持ち悪いと感じた」「むしろ不快な思いをさせられてこちらこそが被害者だ」 との、二重構造の言葉となっているからでしょう。 相手がそれによって傷ついても 「思ったままを口にしただけ」「こちらも被害者だ」 と相殺できてしまいますし、むしろ 「こちらが先に不快な思いをさせられた」「気持ち悪いと感じられる 「繊細な自分の感性」 に比べたら、キモくて鈍感な相手には多少 強い言葉 を使ってもどうせ伝わらない、傷つかない」 という、独りよがりの思考が無意識の自己弁護・免責の効果として働くからです。

 面と向かって人を 「キモイ」 と呼ぶのは相当なものですが、対象を選ばないことから人以外を対象としたものや、自分の気持ちをあらわすための日常会話にも気軽に使われ、口馴染んだ言葉としてつい使ってしまうという部分もありそうです。 ちょっと不快なことがあるとつい 「チッ」 などと舌打ちしたり 「クソ」 などと未意識に毒づく人は結構いますが、「キモイ」 はこれとほとんど同じ レベル の言葉となっており、とくに1990年代にこの種の言葉を盛んに使っていた人たちは、本人もほとんど意識せずについ口から出ているのだろうという気もします。

 それは口癖になっている部分もあるのでしょうし、指し示す範囲があいまいかつぼんやりとしているため、あれこれ頭を使ったり言葉を選ぶ必要もなく、便利だという点もあるのかもしれません。 このあたりも無意識かつ 脊髄反射的 に出てしまう舌打ちやクソと同じでしょう。 あるいは過去に誰かからキモイと云われ傷つき、その裏返しで他人に向かって使うケースもあるのかもしれません。 独りよがりな人は、自分が誰かに傷つけられたら、自分も誰かを傷つける権利を得たと思うことがありますし。 いずれにせよ、いい年をして他人に対してキモイを連発するような幼稚な相手とは距離を置いた方が良いでしょう。

 とはいえ、相手を侮辱する意図の有無に関わらず、本人が何かをキモイと思って口にしたいと思ったら、その口を封じることはほとんど不可能ですし、いちいち 表現の自由 やら内心の自由やらを持ち出すまでもなく、本人の責任においてそう主張するのはもちろん自由です。 しかしキモイというほとんど最上級の罵倒を受けた相手からそれに見合った反論なり罵詈雑言なりを当然浴びる覚悟は、当たり前に持って欲しいものです。 この言葉には、それだけの重みがあります。

「不快な目に遭わされているこちらこそが被害者だ」 の侮蔑・罵倒語

 人を侮辱したり罵倒する言葉には様々なものがあります。 「バカ」「アホ」「間抜け」 もそうですし、前述した 「デブい」 や 「臭い」、あるいは 「ブサイク」「ブス」 もそうでしょう。 これらは今でも使われてはいますが、「キモイ」 ほどの利便性や殺傷力はないと考えられていそうです。

 例えば 「バカ」「アホ」 は代表的な侮辱フレーズですが、それを口にした人間が対象とした相手より学校のテストの点が悪い、学歴に劣るとなると、容易に 「お前の方がよほどバカじゃん」 との反論を受けてしまいます。 また言われた方も反論はせずとも心の中で 「バカにバカと云われてもさほど気にならない」 と受け止められるかも知れません。 さらに字面的には直接的に頭の良し悪しを指す罵倒語なので、勉強して成績を上げるとか、罵倒に対して行動で取り返す手段も (できるできない、反撃として効果的かどうかはともかく)、一応用意されていると云えます。 これはダサいとかムサい、クサいなども同じでしょう。

 一方で 「キモイ」 や 「生理的に無理」 といった言葉の場合、相手の具体的な欠点のどれかを明示的に指すものではなく、ぼんやりとした存在自体に対する強い拒否や嫌悪を示すもののため、反論も行動で見返す手段もよくわかりません。 またあくまで相手が 「気持ち悪い」「不快だ」 と感じた結果だとの形を取っているため、撤回させるのも難しいでしょう。 どう反論しても 「私が気持ち悪いと思ったから気持ち悪いのだ」「気持ち悪く感じたことは事実だ」「先に不快な目に遭っているこちらこそ被害者で、反論されるいわれなどない」 で終わりです。

 結果的に対象とされた方は、誰でも一つや二つは持っている自分の中の強いコンプレックス部分をピンポイントでえぐられている気分になりますし (容姿とかしゃべり方とか性格とか変わった趣味とかニキビとか体臭とかムダ毛とか 病気 とか)、ひいては存在自体を全否定されたような、ほとんど 「キモイから自分の視界から消えてくれ = 死ね」 と同様の意味に捉えられるような強い言葉に感じられるでしょう。

 ある程度の年齢になれば、よほど幼稚な人間の集まっている場でなければ、他者に悪意を持って気軽にキモイなどと投げつけるような人間は周囲にいなくなりますし、自分への自信などが持てていれば気にならなくもなるのでしょう。 しかし他者の目がやたら気になる思春期の頃とか、精神的に参っている時期などに、他者 (とくに同世代の身近な人間や異性) にキモイと云い続けられる辛さや、それをトラウマのように引きずりいつまでも心にこびりつくはめになった人の苦悩は、外部からはちょっと想像を絶するものがあります。

露悪的・自虐的な 「キモイ」 と、賞賛表現としての 「キモイ」

 一方で、露悪的 な、あるいは 自虐 としてのキモイや、ある種の称賛表現としてのキモイの使い方もあります。 ありがちなのは、「一番キモイことを言った奴が 優勝」 みたいな ノリ の、身内内でのあれこれでしょう。 とくに エロ な世界や変態・紳士 の世界では、どれだけキモいかで序列が決まるような部分もあり、キモイが賞賛表現になることもあります。

 また人間離れした凄さとか、尋常ではない素晴らしさなどを、あえて良くない言葉で褒めると賞賛の意味が強まる部分もあります。 例えば 「クソ可愛い」 みたいな感じですね。 単に褒めるだけでなく、そこに 「お前には敵わない」「俺の負けだ」 みたいな、畏怖や尊敬、嫉妬の ニュアンス すら入ることがあります。 このあたりは生きている言葉の妙みたいなものがあります。 例えば 「鳥肌が立った」 も今では肯定的な意味で使うケースが増えていますし、「素晴らしい」 も江戸時代には 「とんでもない」「非常識だ」 みたいな意味だったそうなので、そのうちキモイも ポジティブ な意味が当たり前になるのかもしれません。

 ただし誉め言葉の意味で使うとしても、文脈によっては誤解を受けかねない表現でもあるため、時代を下るにつれて、より分かりやすいかっこ書きの註釈 (誉め言葉)・(褒めてる) などをつけることもあります。 例えば 「キモイ(誉め言葉)」 みたいな感じです。

 また当然ながら他者から罵倒されたり侮辱されることで自虐的な悦びを感じるような SM におけるM (マゾ) の世界では 我々の業界ではご褒美です としても受け取られ、例えば男性が生意気な女の子にキモイなどと罵倒されることを良しとするような ジャンル (例えば一部のメスガキとか) もあります。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2006年10月2日/ 項目を再構成しました)
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