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スラップ/ SLAPP/ 恫喝的訴訟

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労働争議や不正の告発などで…「スラップ」

 「スラップ」 とは、経済的に余裕のあるもの、権力を持つ強者 (多くの場合、行政や企業などの組織、団体) が、相対的に弱者となる個人などを威圧、恫喝、あるいは疲弊させるのを目的として、法的手段をちらつかせたり、法的措置を行うことです。

 言葉としては、「Strategic Lawsuit Against Public Participation」 の略、「SLAPP」 で、欧米などで公共関係団体などが行う戦略的な法務処理全般を指す言葉です。 しかし得てして悪用されるケースもあり (少なくともターゲットにされた側はそう感じる)、日本語では 「スラップ訴訟」 のほか、「威圧的法務」「恫喝的訴訟」「報復的訴訟」 などと呼ぶ場合もあります。

 よくあるケースとしては、一般市民やジャーナリストなどが国や自治体などの公の組織・団体などの不正行為やそれによる被害を指摘・告発すると、それを取り下げさせるために訴訟の勝ち負けは度外視して名誉毀損や業務妨害などで相手を告訴する、あるいは弁護士名で告訴すると通告するなどの方法となります。

 また問題が生じた初期の段階で、それをもみ消すための恫喝としてこうした方法が使われる場合もあれば、報復、見せしめ的に後で裁判を起こす場合もあります。 さらに裁判になったら無駄な引き伸ばしを繰り返し、告発者の裁判費用増加を始めとした経済的・時間的・精神的な圧迫を誘って疲弊させるなどの方法も、同じ考え方の訴訟戦略のひとつでしょう。

 なお 「合法的嫌がらせ」 との意で 「リーガルハラスメント」(リガハラ) という言葉もあります。 こちらはスラップとも関連する ニュアンス を持つ言葉ですが、2022年11月29日になって大きな話題となり、まるで異なった意味で一躍流行語となっています。

法治国家では、裁判で決着をつけるのが 「正しい姿」 なのですが…

 こうした訴訟戦略は、もちろん法に則ったもので法律的には何ら問題のない正しいものです。 法治国家では争いごとや事実認定は、当事者間の話し合いで解決しない場合、最終的には裁判で行うこととなっています。 自分たちを守るために一般の国民や市民が国や自治体、大企業、著名人らの不正や横暴を訴えることも自由なら、その逆も自由でなければなりません。

 また国や行政の側に客観的正当性があり、悪意を持った市民やマスコミが捏造や 飛ばし記事 でデタラメを吹聴しているだけの場合もあり、それに法的な対抗をするのは、国や行政が管理する国民の税金や国の資産、名誉を守るためには、当然のことでもあります。

 しかし経済的弱者や高齢者などは、「長期にわたる裁判を維持するのは無理だ」 と、不本意な和解に応じざるを得ない状況に追い込まれたり、告発そのものを取り下げざるを得ない、泣き寝入りせざるを得ない状況に追い込まれるケースもあり、結果的に不正行為や損害の有無をうやむやに隠してしまう場合もあります。

 建前の上では、法律は平等で裁判も公平なものです。 しかしお金も時間もノウハウも持っている組織や団体が、それを持っていない、あるいは持ち得ない個人と同じ立場・条件で争うことに本当の平等性はあるのか、結果的に国や自治体や大企業による不正告発意見・反対意見の封じ込め、単なる 表現の自由 の抑圧の道具になっているのではないかとの意見もあります。

様々な 「スラップ」 の形

 国や行政などの公の組織や団体だけでなく、大企業や民間団体などが、こうした方法を取る場合もあります。 ニュースなどでよく見かけるものは、企業と労働者との不当解雇や給料未払いなどの労働問題とか、企業の生産活動や建築にまつわる周辺住人との 環境 汚染・破壊に関する争いなどでしょう。

 企業の側と労働者や住民の側、どちらが正しいのか、揉めてしまった以上は裁判で決着をつけるのが本来は正しい姿ではあるのですが、専門の法務部スタッフを揃え業務として行う企業と、仕事を失い経済的にも逼迫しているケースの多い労働者やただの個人である住民との側で平等な裁判を行うのは難しく、裁判のあり方を含め、難しい問題が山積している状態と言って良いでしょう。

 なお一人ひとりは小さく力のない個人が寄り集まって、逆に集団で裁判を起こして国や自治体、企業、場合によっては敵対する個人やジャーナリストなどを訴えるケースもあります。 またジャーナリストやマスコミなどが力を合わせ大きな圧力に対抗することを メディア・スクラム と呼びますが、メディアの力が強まり、逆に権力化すると、これが 「報道機関による弱者攻撃」 の意味に転じている状況もあります。

一般人にとって訴状や裁判は怖いもの…

 弁護士から通告が来たり裁判所からの訴状や通知などは、一般の人が当事者として経験することがほとんどないものなので、それだけで恐怖感を覚えるもののようです (そもそも内容証明や特別送達じたいが結構怖い)。 悪質なスラップの場合、本人ではなく勤務先宛に内容証明を送る場合もありますし (内容によっては逆に訴えられますが)。 また長く商売をしていて民事裁判をそれなりに経ている人でも、費用も時間もかかる裁判は面倒だし、避けたいと思うのが普通でしょう。

 筆者 も実家や自分が商売をしていて民事訴訟 (債権回収とか債務不存在確認とか) や調停は何度もやっているので別に恐怖は感じませんが、やっぱり面倒すぎるのでできるならやりたくはないです。 勝ったところでお金の 回収 は自分でやらなければなりませんし、督促しても無視された場合など、差し押さえをしようとしても銀行口座を突き止めるところからやらなければなりません。 そもそも筆者程度の商売では未払金の請求をするといっても金額が数十万円やせいぜい百万とか二百万円程度だったりして、費用対効果 が悪すぎるんですよね。 幸い訴えたことはあるものの訴えられたことはないのですが、それでも裁判にかかる精神的疲弊はかなりのものですし時間もかかるので、悔しいけれど諦めることもあります (2020年に法改正されてだいぶ簡略化したようです)。

 とはいえ、絶対に許せないと思ったら受けて立ち、費用対効果や勝ち負けを度外視して、とことん戦うのも精神や魂の充足のためには必要な儀式の場合もあります。 人間が生きていくためにはお金が必要ですが、精神や魂を無視しては、お金があっても何のために生きているかわからなくなることもあります。 相手の恐怖や疲弊による委縮を狙うスラップは本当に卑劣な方法だと思いますが、どうしても許せない、人生をかけても戦ってやると思うなら、一人で抱え込まず信頼できる仲間や弁護士に早めに相談するのが良いでしょう。

 ただし弁護士選びは俗に ガチャ に喩えられるくらい当たり外れが運任せの部分もあるので、ネット などで適当に探さず、自分と同じ立場にあって戦っている人と連帯するなど、選び方も重要です (外れると本当にきついです…相手よりむしろこちらの弁護士に怒りを感じたりw)。 最終的に弁護士に依頼するにせよ、可能であれば自身でも法律を勉強し、専門家からアドバイスを得れば本人訴訟で一人でも戦える程度にまで知識を高める努力はあってもいいかも知れません。

 一般に法律は難しいものと考えられていますし、それは実際その通りです。 しかし司法試験を目指すのならともかく、専門家にアドバイスを受けながら自分の裁判に関係する部分だけを狭くピンポイントで学ぶだけなら、専門は何であれ高等教育をそれなりに受けた人であれば、適切な参考書を押さえることで十分理解できる範囲です。 さほど見当違いの戦い方はしなくて済むでしょう。

様々なリスクを考え、最後の決断を勇気をもってするということ

 個人に対するスラップの場合、内容は信用・名誉棄損やそれに伴う威力・偽計業務妨害あたりだと思いますから、デマや虚偽の ネガティブ な情報を流布する、脅迫するといった違法性の高い行為を実際にやっていなければ、仮に原告側がそれを針小棒大にでっちあげて裁判所も原告側有利の判決を出したとしてもせいぜい数十万円程度の慰謝料に留まり、よほど困窮してなければさしたる ダメージ もないでしょう。

 しかし裁判が長引く中で新聞やテレビでニュース沙汰になる恐れはありますし、民事で和解が成立せず相手側の損害賠償請求が一定の範囲以上で認められると、そのまま刑事事件に発展する場合もあります。 そうなると自宅に警察が家宅捜査でやってきたり、私物を押収されたり、自身の身柄が拘束される可能性もあります。 いったんそのような状況になれば、新聞やテレビと云ったメディアで味方になってくれるところは少ないでしょう。 場合によっては実名報道されたり、それによってネットでバッシングを受けて仕事や社会的信用を失い、もちろん多額の裁判費用や時間もかかり、生活面やメンタル面でのリスクも発生します。

 自分に本当に非はないのか、それをある程度客観的に証明する手立てはあるのか、何より自分にとって守るべきものは何なのかを天秤にかけて判断することになるのでしょう。 それで仮に裁判には負けたとしても、自分の大切なもののために全力で戦ったのであれば、結果はどうあれ決して負けなどではないでしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2010年8月29日)
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