同人用語の基礎知識

ボク少女/ ボク女/ ボクっ娘

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ボーイッシュで魅力的? 単なる勘違い? 「ボクっ娘」

 「ボク少女」 とは、一人称が 「僕」「ボク」 の女性のことです。 他にも 「僕女」「ボクっ娘」「ボクメス」 などと呼ぶ場合があります。

 パターンとしては、マンガアニメ など創作物の女性 キャラクター のタイプの1つ、男性から見た 萌え要素 のひとつともなりますが、現実に自分自身を 「僕」 と表現する女性も結構存在し (思春期の女の子が多い)、その 「勘違いぶり」「不思議少女 ぶりっ子」 を 痛い と批判したり、罵倒するような意味で使う場合もあります。

 なお似たようなものに、俺っ娘 というものもあります。

「男性っぽい女性」 をかっこいい、可愛いと感じる心理

 俗に 「男装の麗人」 などと云いますが、女性が男性の衣服を身に着けたり、男性の髪型や立ち居振る舞いをしたり、男口調でしゃべるのを 「かっこいい」 とする空気は、洋の東西を問わず、また昔も今も根強く存在するようです。 「俺っ娘」 もそうですが、「男勝り」「生意気」 を可愛いと感じる男性は多いですし、また 「男っぽい女性」 を好む女性も一定の割合でいつの時代にも存在するようです。

 これは、伝説上、歴史上の人物、「女傑」 に対して憧憬の念を持つことで現れる場合もありますし、歌舞伎や演劇の世界でも、演目として昔からよく見かけるパターンです。 しばしばそれは、「男として育てられた」 なんて 設定 を持ち、「男性として振舞う女性としての自分」 の内面の葛藤、男言葉によって逆に際立つ女らしさの強調など、あらゆる創作物の大きな制作動機でもある 「性」「男と女」 をドラマチックに演出し、日常に非日常を感じさせる最適の 「設定」 だからなのでしょう。

「宝塚歌劇」 に影響を受けた 「リボンの騎士」 サファイア王子

 ごく近年のマンガやアニメ、ドラマなどの世界では、「宝塚歌劇団」(1913年に結成) の熱心な ファン であった漫画家、手塚治虫の 「リボンの騎士」(1958年1月/ 少女クラブ/ 講談社/ 後になかよし) の 「サファイア」 や、やや ニュアンス は異なるものの、「どろろ」(1967年/ 週刊少年サンデー/ 小学館/ 後に冒険王/ 秋田書店) の 「どろろ」(ただし初期設定は男子) などが、一人称が 「僕」 や 「おいら」「俺」 などの女性キャラの初期の傑作とされています。

ベルサイユのばら
ベルサイユのばら」
池田理代子/ 1972年〜
表紙はマリーアントワネット

 また 「リボンの騎士」 と似たようなテイストの作品としては、「ベルサイユのばら」(ベルばら/ 池田理代子/ 週刊マーガレット/ 集英社/ 1972年〜) の 「オスカル」 も忘れられない存在です。 こちらは一人称が 「ぼく」 という訳ではないのですが (幼少期を除く)、「男装の麗人」 という言葉が、これほど似合うキャラクターもいないでしょう。

 作品は大ヒットしアニメ化 (1979年10月10日〜1980年9月3日) する一方、それに先立って 「宝塚歌劇団」 の人気演目 (1974年初演) ともなっています (宝塚市の宝塚大劇場前には、オスカルとアンドレの銅像が建っています)。

思春期の少女らに 「ボク少女現象」 が

つらいぜ!ボクちゃん
つらいぜ!ボクちゃん」 高橋亮子

 ただし、後に 「ボク少女」 の元祖とも呼ばれるほどの影響を与えた作品とキャラといえば、1974年より連載が開始された少女ラブコメ漫画、「つらいぜ!ボクちゃん」(高橋亮子/ 小学館) の ヒロイン、「田島望」 でしょうか。

 主人公 田島望は、見た目も女の子っぽい普通の中学生なのですが、一人称は 「ぼく」 で、初登場ののっけから、遅刻しそうになって学校にダッシュで駆けてゆくおてんば娘。 歌舞伎の 「見栄」 のような決めポーズを取る明るい性格で、憧れの学校の先生と、自分に好意を寄せる年下の男の子とのコミカルな日常を描いた作品でした。

 この 「田島望」、取り立てて 「男勝り」 のキャラというわけでもなかったのですが (小さい時から知っていて、思慕の対象である学校の先生に対しては、とても女の子らしい)、年下の男の子の前では 「細かいことを気にしない明るい性格」 で、独特のコミカルなテンポの作風とあいまって女の子の間で人気を博し、また 「普通の日常を舞台」 としているだけに、読者 らに 「ボク」 と自分を呼ぶ女の子を定着させる一定の役割を果たしたようです。

 実際はこの作品が単独で大きな影響を与えたというより、似たような傾向の作品が1970年代にいくつも存在していて、その相乗効果という感じでした (1974年から連載が開始された手塚治虫 「三つ目がとおる」 の 「和登千代子」(前述したサファイア王女がモデル) の存在感もすごいです…)。

松本ちえこの 「ぼく」
松本ちえこの 「ぼく」

 またこれらの傾向はマンガなどの作品に限りませんでした。 1974年にデビューし、1976年に資生堂のシャンプー 「バスボン」 のCM出演でブレイクしたアイドル歌手、松本ちえこの5枚目のシングル 「ぼく」(1976年11月25日発売/ 一人称ぼくの高2女子の歌をアイドルが歌っていた) などにも、その時代性を見てとれます (CMでは、男の子のように草野球をたしなむ松本ちえこの姿が話題に)。

 その後1980年代になり 「俺」 を一人称とする女性キャラなどがある種のブームとなる中で、その存在感がさらに際立っていったという感じですが、「一人前の女になる前の、どこか 中性的 な少女」 の魅力、そしてそれを自分に重ねて不思議っぽさを身に着けたい少女らに支持され、ある種の 「ボク少女現象」 のようなもの (多くの場合、リアルでそれを行う人は批判の対象だった) を巻き起こす原動力ともなりました。

創作物キャラクターやアイドル… 「ボク少女」 が増殖

 その後はボーイッシュだったり男勝りのキャラクターはほぼ自動的に 「ボク」 もしくは 「オレ」 になるんじゃないか…ってくらい、広く一般化した存在になった 「ボク少女」。 さらにはリアル社会で一人称や口調が男っぽくなるだけでなく、男でも比較的荒っぽい言葉となる 「まじい」「うめえ」「やっちまえ」「ざけんな」 などを当たり前のように使う女性も出現。

 服装なども男女に違いはほとんどなくなり (男性の側が女性の服装や口調に近づくパターンもあります)、まぁTPOをわきまえなかったり、いい大人になってまでその口調では正直見ている方が辛い場合もありますが、中学生から高校生あたりの思春期の活動的な女性の 「ある種の様式」 にも近い扱いを受けるようになっています。

ある意味で 「ボク少女」? 独特な 「ひばりくん」、そして 「マライヒ」

ストップ!! ひばりくん!
ストップ!! ひばりくん!」
江口寿史

 特筆すべき一風変わった存在としては、アニメ化もした人気ラブコメ風ギャグ漫画、「ストップ!! ひばりくん!」(江口寿史/ 集英社/ 週刊少年ジャンプ/ 1981年) のヒロイン?、高校生の 「大空ひばり」 でしょうか。

 ヤクザの大空組組長の 「長男」 である 「ひばり」 くん (15歳) は、どこから見ても美少女としか思えない風貌で、身寄りがなくひばり君の家に 居候 することになる坂本耕作とラブラブになろうとしますが、中身は 「男性」 で 「外見は女性」、しかし一人称は 「ぼく」 でした。

 江口寿史はこの作品の前作品となる 「ひのまる劇場」(1981年) にも、一人称が 「ぼく」 の美少女を 脇役 で登場させていて、「俺っ娘」 とともに、1980年代の 「一人称が男の子風の女の子」 ブームの到来 (後の 「オレっ娘」 で、それはより明確になります) を告げていたのかも知れません。 現在は おとこの娘カテゴリ に入る 「ひばり」 くんも、当時は堂々の 「ぼく少女」 だったと云って良いでしょう。

 なおこの 「ストップ!! ひばりくん!」、当時としては衝撃的だった絵柄 (いわゆるオタク絵でも少女漫画絵でもない、ポップアートのような美少女絵) と、それが週刊少年ジャンプのような雑誌の表紙を飾るというのは、マンガ全体から見ても、極めて大きな転換点、分岐点のひとつとなっていて、「おたく黄金時代」 とも呼ばれる80年代を代表する作品となっています。

 一方、1978年から連載を開始し、1982年にアニメ化もされた作品 「パタリロ!」(魔夜峰央/ 花とゆめ/ 白泉社) も、性別の混乱・混濁が見られる (内容自体は完全な男性同性愛チックな設定なのですが) 独特な作品と云えます。

 ここに登場する男性である 「マライヒ」 は、姿かたちは完全に女性っぽいのに、性格や服装は男性、一人称も 「ぼく」 という設定となっています。 実際は作品中のパートナーであるバンコランの 「女房」 として、いかにも女性的な振る舞いや 趣味、性格を発揮しているのですが、作品の大きさ、重要性から、この種の性差の入り組んだマンガの登場人物の形に、大きな影響を与えているといって良いと思います。

女が雄々しく、男が女々しく…?

 女性が自分を 「ぼく」 と呼ぶこと、それを同じ女性が 「かっこいい」 と思ったり、男性が 「かわいい」 と思うこと、あるいはリアルと創作物とか 「不思議少女」 と 「ヤンキー」 とか…これらはそれぞれがまったく無関係だったり脈絡のない話ですが、同じ頃に盛り上がったのには理由もあったんでしょう。

 評論家やマスコミが云うように 「女性が強くなった」(というより、男性が弱くなった) なんてステレオタイプの意見で分析したつもりになるわけではありませんが、やっぱり世代の持つ空気、時代性ってのは無視できないものがあるのかも知れません。

 なお、これらの流れが後の 「戦闘美少女」 に繋がるとする意見もあるようですが、まったく同じ頃に 「北斗の拳」(1983年) も大人気だったので、「実社会で暴力が否定される中で、男が女に近づき、空想上の戦うという役割をも美少女に委ねた」 ってのは、少々飛躍しすぎというか、もうちょっと精密に考えてみる必要があるんじゃないかって気もします。 いや大筋では結構 同意 なんですけどw

男女の一人称の違い

 ところで女の子や女性が自分のことを自分の名前や愛称で呼んだり、名字で呼ぶなどのケースは、男の子や男性ではあまり見られない特徴の一つともなっていますね。 一人称にはいろいろありますが、男の子や男性は 「僕」「俺」「私」 を、自分の好みやTPOによって使い分けることが可能なのに対し、女の子や女性はおおむね 「私」 の一つしかありません (「あたい」 とか、崩した形の他の言葉がないわけではありませんが…)。 こうしたバリエーションに乏しいのが、その原因の一つだとも云われます。

 また男が自分を名前で呼ぶのは 「みっともない」「恥ずかしい」 なんて思われがちなのに対し、女性の場合、時として 「かわいい」 なんて肯定的に受け止められるケースが多いのも、子供時代ではなくある程度の大人になってもそうした一人称を使い続ける人が現れる理由の一つともなっているのでしょう。

 自分のことをどう周りに伝えるのか、アピールするのかは、小さいようで大きな問題ですが、一般的には男が使うとされる 「僕」 や 「俺」 を一人称に使う女性の言動は、その人なりの自意識や性格などを周囲がうかがい知るひとつの大きなポイントなのかも知れません。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2004年10月26日)
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