「あなたって純ね…」 語りすぎず余韻のある表現 「純」
「純」 とは、純粋とか純情、純愛、純潔、無垢など、真っすぐで混じりっけや打算のない正直で素直な人の心や、それが向けられる 愛 や関係性を指す言葉です。 一般的には肉体関係や性的関係を伴わない精神的な愛、心のつながりという意味で使われることが多いでしょう。
もっぱら恋愛の形や自称他称で人の性格や感情を指すために用い、「純な恋」「あなたって純ね」「俺って純だから」 なら、純粋・純情な恋愛やその心を持っている、あるいは恋愛などに勇気を持てない臆病さで最後の一歩が踏み出せない意気地なさ、不甲斐なさを遠回しに表現する言い回しとなります。 対義語は 「不純」 です。
純粋や純情などは似ているようで細かい違いがありますし、文脈によって意味も変わってきますが、ただ 「純」 とだけ触れて、語りすぎず想像の余地や余韻があるのは、ちょっと気の利いた言い回しだなと思います。 現在でもそのまま使われることがありますが、「純ね」 よりは 「純粋だね」「純情ぉ〜」 あるいは 「ピュア〜」 みたいな、よりはっきりした表現の方が好まれるかも知れません。
「不純ではなく純なんだ」 という価値観
語源と云うか、純という言い回しは 普通 の日本語ではあるのですが、ことさらに若者の間でこの言い回しがされる状況にもっとも大きな影響を与えたであろう言葉として、前述した対義語の 「不純」 があります。 邪心や野心、下心のある曲がった心とか、何らかの不純物が混入・汚染 (コンタミ) した状態を呼んだりもしますが、若者の間でよく使われる不純は、中高生ら未成年による身体的 (性的) な接触を伴う恋愛や性行為を指す 「不純異性交遊」(不健全性的行為) でしょう。 青少年健全育成条例 や警察・学校での少年補導・生活指導において、よく用いられる言葉です。
一般的には不良行為のひとつとされ、責任能力のない生徒の保護や生徒は学業が本分という考え方の元、しばしば学校当局による 「恋愛狩り」 みたいな生活指導も行われていました。 不純異性交遊や恋愛を禁じるのみならず、恋愛になりそうなものの禁止 (服装の乱れとか繁華街での夜間徘徊、すごい学校だと女子のうなじが色っぽくて男子の劣情を喚起するので ポニーテール は校則で禁止とか) も含まれ、それに対する言葉が 「純」 であり、素朴な本来の意味で使われるようになったのか、あるいは若者にとって頭の固い大人が定めたように見える不純への反発や皮肉としてなのかはともかく、精神的なつながりや恋心のみの想いをことさらに 「純」 と呼ぶひとつのきっかけになっています。
またそれより時代をさかのぼって同じく影響を与えたであろう言葉に、純粋な喫茶店を示す 「純喫茶」 といった 「純〇〇」 という言い回しがあります。 現在の喫茶店は純喫茶が中心でわざわざ純喫茶などと名乗ることはなくなりましたが、明治から 昭和 の初期にかけては、コーヒーなどの他にお酒を提供したり女性による男性への接待や性的なサービスを行うお店がありました (1929年・1933年に特殊喫茶として規制対象に)。 飲食店、なかでも喫茶店は営業許可の取得や店舗の改装・什器類の導入費用の負担が比較的低く始めやすい業態である一方、他店舗との差別化も難しいため、様々な経営者や業者が参入し、おのおの独自の接客・接待サービスを合わせて行うケースがあったのですね。
その後もノーパン喫茶が流行 (1980年代初め) したり、現在でも一部のグレーゾーンや違法な自称 コンセプトカフェ などにその名残りっぽいものが多少はありますが (風営法により、喫茶店での性的サービスはもちろん、接待に当たるような接客も違法です)、それらと区別して 「ただの純粋な喫茶店です」 をアピールする名称が 「純喫茶」 なのでした (他にも理容店 (床屋) とか、大昔にはあれこれがあった業態があります)。
これらが人の会話や創作物のセリフとして 「あなたって純なのね」 にいつ頃どうつながったのか、最初の言い出しっぺは誰で 元ネタ が何なのかは不明ですが (現在の使われ方との関係のあるなしに関わらず、なんか古典とかにも普通にありそうですし)、いずれにせよすっかり定着した言い回しになっていたのでした。
![]() | ![]() | ![]() | ![]() | ![]() |
関連する同人用語・オタ用語・ネット用語をチェック
