同人用語の基礎知識

フィクションレベル

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これが高いほど創作性も高い? 「フィクションレベル」

 「フィクションレベル」 とは、マンガアニメラノベ などの創作物における 物語世界観設定、演出に対するフィクション (創作性・虚構性) の レベル (強度) のことです。

 例えば爆弾が爆発したとして、吹き飛ばされた人が 死ん だり大けがをしたり、爆炎が物理法則にあった広がり方をするのならフィクションはリアル (現実) に近いレベルでしょう。 一方で爆発に巻き込まれた人の 髪の毛 がチリチリに焦げたアフロ状態になって口から煙を吐いて終わり、爆炎も記号化されたようなマンガ的な形なら、現実とはほど遠い、非現実・ギャグタッチの虚構レベルとなるでしょう。

 フィクションレベルそれ自体はひとつの作品全体に一定のレベルで適用されることが多いものです。 例えば イラスト で、全体的にマンガチックな画風なのに一部だけ写実的な描かれ方をしたら、違和感を覚えたり、写実的でない部分に強い偽物・虚構感がでたり、あるいはそれに何らかの特別な目的や意図、伏線 などの存在を見るものに感じさせ気構えさせてしまうでしょう。 そこに何らの目的や意図、回収 がなければ肩透かしをくらい、もやもやしたものだけを残す無意味なノイズになってしまいます。

 もちろん目的や意図を持って意図的に異なるレベルを加えることもあります。 例えばシリアスなシーンとギャグっぽいシーンが混在する作品なら、シリアスシーンではフィクションレベルが下がり、ギャグシーンで上がるなどはよくあります。 それに合わせてキャラの頭身が変わったりもします。 また作品のメインとなる テーマ では限りなく リアリティライン が高まるけれど、それ以外は でドタバタギャグになることもあります。 これらは意図的に物語に緩急をつけたり、一方に偏りすぎないバランサーとして用いることがあります。 伏線の提示において、それとなくさらっと、しかし見る側にしっかりと印象や記憶に残すために使うこともあります。

 対義語はリアルレベルとなりますが、リアル (本物・現実) と リアリティ (本物・現実っぽい) とはまた異なりますから、学術・教育用の作品ならともかく、こと娯楽のための創作物については 「らしさ」 優先でリアリティが重視されることが多いでしょう。 俗に 「事実は小説より奇なり」 などと云うように、リアルの方が嘘っぽくなることなど世の中にたくさんあり、それが物語の核心部分になんら関わらず寄与もしないのであれば、受け取り側の注意を無駄にひく邪魔なものになってしまいますから、その場合はあえてリアルっぽさを削ぎ落した方が良いこともあります。 なおリアルをどのくらい作品創りに反映させるのが良いのか、内容にリアルな事実と反する部分がないかなどを総合的に判断することは、一般に考証 (例えば歴史ものなら歴史考証) と呼びます。

フィクションなら、何でもやりたい放題とはいうものの…

 リアルとフィクションの違いはいろいろありますが、創作物の表現に関して云えば、リアルには何らかの制約があるけれど、フィクションには極論すればそれがないという点が挙げられます。 リアルなら、何らかの現象は物理法則や定数に制約を受けますし、物質や富には限りがあるし、時間が止まったり戻ることもありませんし未来も見えません。 人が死んだら生き返らないし、自分以外の人が何を考えているのかもわかりません。

 一方でフィクションは、物理法則など無視した魔法や超能力もありますし、無限にお金がでてくる金の生る木もあるし、時間だって止めようが戻ろうが自由自在です。 死んだ人が生き返るのだって当たり前です。 全てが架空・虚構なので、その気になれば 作者 のやりたい放題、なんでもありなのですね。 しかし実際は、多くの作品でそれらフィクション部分に何らかの制約や制限がかかっていることが多いでしょう。 魔法や超能力は マジックポイント の範囲内でしか使えなかったり、金の生る木も扱いを誤れば枯れることがあるし、時間を操作したら何らかのペナルティを受けるとか、死者をよみがえらせるために何かを犠牲にしなければならなかったり。

 やりたい放題・なんでもありの話はデタラメと同じです。 人は制約の中で作中の人物がどう判断するか、どう工夫するかに興味や関心、共感や、さらには強い 感情移入 を覚えたりしますし、そこにこそ面白さを感じます。 フィクションレベルといった 概念 が作られたのも、なんでもありのフィクションの世界にリアル社会と同じような何らかの制約を加えて、物語をドラマチックに面白くするための工夫といってよいでしょう。

 ウルトラマンと怪獣との 戦闘 が盛り上がるのは、3分間という制限とそれを知らせるカラータイマー、あるいはウルトラマンにも弱点があるといった設定があってこそです。 人はそこに現実世界や自分にもある何らかの制約や困難の関連性を感じ、自分ゴト化して手に汗握るということなのでしょう。 「永遠 の命」 が創作物ではしばしば暗く描かれるゆえんといっても良いかもしれません。

フィクションレベルが高いままでどう感情移入させるか

 前述した通り、なんでもありでフィクションレベルが高すぎると、読者視聴者 ら受け取り手の感情移入を妨げる可能性があります。 いかにも虚構で嘘っぽい話で心を動かすのは難しいものです。 なので、前述した緩急を付けるのと同じように、ある場面では高め、ある部分では下げるような表現方法を行います。

 例えば宇宙人が攻めてきてそれを超能力で撃退するみたいな話の場合、内容があまりに荒唐無稽すぎて、この部分だけで感情移入するのは難しくなるでしょう。 そこで何らかの制約 (共通する現実世界の制約の比喩) を加えるわけですが、しかしそれでも足りない場合は、主人公 ら登場人物の心理描写を丁寧かつ詳細に行ったり、舞台 となる街の風景とか社会のありようをリアリティのある描写とすることで、全体のフィクションレベルを下げリアリティを高めることができる場合があります。

 このあたりはフィクションレベルの逆であるリアリティラインとか、架空世界における設定バランス などを上手く調和させ、あるいは伏線などの受け手の心を揺り動かす仕組みを組み入れてまとめあげることで、かなりの部分がコントロール可能です。 ただし読者や視聴者を選ぶようなマニアックな作品ならともかく、多くの人に支持され受け入れられることを目指すと、受け取り側のレベルによって反応がまちまちで予想することも困難でしょう。

 俗に 「よく訓練された」 みたいに呼ぶことがありますが、様々なフィクションレベルの作品に子供の頃から触れてきた おたく腐女子 らの場合、提示されたフィクションレベルを類似の ジャンル の過去作と無意識に比べたり、フィクションにありがちな表現や作法にもすでに慣れていて、ぶっ飛んだ設定にも 初見 から十分に対応できる基礎ができています。

 宇宙人や超能力が登場したところで 「嘘っぽい」「ありえない」 などとは受け取らず、「そういう作品なんだ」 と素直に受け取って、「これまでに見た宇宙人とどう違うんだ?」「それをどう説得力ある描き方で見せてくれるんだ?」 を無意識に期待します。 フィクションの中に分け入ってリアルとして受け取って楽しむ回路が出来上がっているのですね (こちらも人によって差がありますが)。

 その意味では既存の作品で描かれた様々なフィクション、とくに ジャンル が同じ作品は、受け取り手側を育て鍛えてくれた存在ということにもなります。 もっとも新しい作品でそれら表現方法や作法を洗練された状態で知った読者や視聴者は、その元となる作品に触れた際には 「もう別の作品で見た表現だな」 と感じて新鮮な驚きや感動が スポイル されてしまうでしょう。 これは 先駆者のジレンマ などと呼びます。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2015年7月10日/ 項目を再構成しました)
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