同人用語の基礎知識

ドナドナ

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出荷よ〜 ドナドナ ド〜ナ〜 ドォ〜ナァ〜 「ドナドナ」

 「ドナドナ」 とは、意に反してどこかに連れ去られること、出荷されたり連行されたり逮捕されたりといった時に使う言葉です。 あるいは売り飛ばされること、何かの犠牲に供される場合にも使われます。 日常会話においても動詞化した状態でよく使われ、例えば自分の車や自転車が駐車違反でレッカー移動されることを 「警察にドナドナされた」 と表現したり、車やバイク、パソコンやスマホといった品物を売ったり下取りに出すことを 「中古屋にドナドナした」 などと表現したりします。

 同人 に近いところでは、コミケ などの 同人イベント参加 したものの無理をして体調を崩し、友人に肩を貸してもらって移動したり、救護班に車いすやら担架やら台車やらで運ばれる様をドナドナと呼んだりします。 ちなみにどうしようもない場合は長机を担架代わりにしたり、リヤカーで運んだり、最終的には救急車のお世話になることもあります (暑さ対策 は大切です)。

 ドナドナの 元ネタ としては、NHK 「みんなのうた」 で1966年2月に紹介された有名なイディッシュ民謡 (主に中・東欧のドイツ語系ユダヤ文化の言葉で歌い継がれる民謡) の楽曲名と、歌詞で象徴的に繰り返されるフレーズ 「ドナドナ」 からとなります。

「ダナダナ」 から 「ドンナ・ドンナ」 そして 「ドナドナ」 へ

 「ドナドナ」 の原曲は1938年に作られた 「Dana Dana」(ダナダナ) という歌曲であり、1940年から1941年にかけてイディッシュ語によるミュージカル 「Esterke」(エスターク) で使われたものでした。 その後英訳されて徐々に広がり、アメリカの人気歌手ジョーン・バエズ (Joan Baez) によって 「Donna Donna」 として1961年に発表されたシングルは世界的に大ヒット。 日本でも同名で発売され、その後著名歌手らのカバー楽曲 「ドンナ・ドンナ」 としていくつかのバージョンのものもリリースされています。 有名なものでは、当時人気があったデューク・エイセスやザ・ピーナッツ (1965年発売の 「かえしておくれ今すぐに」 のB面に収録、歌詞は安井かずみ、編曲は宮川泰) のものが知られています。

 その後この 「ドンナ・ドンナ」 は前述した NHK 「みんなのうた」 で 「ドナドナ」 として再紹介されることに。 昼下がりに荷馬車に乗せられ市場に売られていく仔牛の悲しい姿を哀愁に満ちたメロディーで歌うこの曲は、シンプルで想像力を掻き立てる歌詞 (とその日本語訳)、とくに NHK版の 愁いを含む岸洋子さんの歌声もあり話題に。 その後は学校で使われる音楽教科書にも採用されるなど、日本では世代を超えて広く知られる名曲として 認知 されるようになりました。 なお印象的な 「ドナドナドーナードーナー」 部分のドナ (ダナ) は、牛を追うときの掛け声からきているとされます。

「少女革命ウテナ」 で 「ドナドナ」

 ネットスラング として使われるずっと以前から一般でも似たような使われ方をしていたと記憶していますが、おたく 界隈ネタ としても古くから見かけるものでした。 なかでも楽曲を直接的に扱った比較的最近のものとしては、アニメ 「少女革命ウテナ」(1997年4月2日〜12月24日) の第16話 「幸せのカウベル」 に挿入歌として使われたのは話題となりました。

 贈られたカウベルをイギリス最高級ブランドの アクセサリー だと思い込み首に着けた桐生七実が、やがて身も心も牛へと変貌し闘牛さながらに天上ウテナに立ち向かい (というかウテナが持つ赤いセーターに向かって)、結果あえなく倒されるこのエピソード (七実牛) は、「ドナドナ」 のメロディ効果も手伝いギャグなのに物悲しい、しかも作品 テーマ に沿った屈指の名エピソードとなっており、インパクトは格別なものがありました。 同作品のサウンドトラックにも収録され、その存在感は小さくありませんでした。

月曜の朝の満員電車はドナドナの音色が聞こえるよね…

 なお中・東欧のユダヤ人たちの歌であることから、しばしば荷馬車で運ばれる仔牛をナチスドイツによる強制収容所へのユダヤ人輸送になぞらえる意見もあります。 この楽曲が作られたのはドイツがナチス政権下 (1933年〜1945年) の時代ですが、強制収容所への大規模な移送が始まったのはこの曲が作られた後であり、アウシュヴィッツなどの蛮行がドイツの国内外に広く知られるようになったのはそれより後の戦後になってからです。 時系列的に考え、それを直接的に暗喩する歌ではないとされます。

 とはいえユダヤ人たちへの迫害ははるかそれ以前から行われており、全くの無関係ではないとの意見もありますし、戦後英訳されて世界的にヒットしたことから、アウシュヴィッツの記憶とともに第一印象によって時系列を無視したイメージが広がり、そう感じる人が多くいるのは間違いないでしょう。 誤った情報に基づき、必要以上に関連付けて語られがちなサウンド・オブ・ミュージックのエーデルワイスとナチスの関係もそうですが、安易に使うと、文脈によっては誤解を受けかねない言葉だとも云えます。

 それと当時に、死を意味する市場への出荷や強制収容所とは比べるべくもないとしても、「意に反して行きたくない場所に行かされる」 というのは学校にせよ会社にせよ誰でも経験があることですから、容易に自分ゴト化され、「哀れな仔牛と同じや…」「仔牛と社畜、どこが違うんや…」 と身につまされ、使いやすい部分もあるのでしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2005年9月11日)
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