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人権擁護法/ 人権侵害救済法

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耳障りのいい 「人権を守る」 の掛け声ではあるものの… 「人権擁護法」

 「人権擁護法案」(人権擁護法) とは、様々な差別・虐待などの人権侵害行為から被害者を救済し、日本において人権意識の向上と包括的な人権保護・被害救済を目指すための法律案のことです。 自民・公明案が 「人権擁護法」、民主党案が 「人権侵害救済法」(人権救済機関設置法) となっていますが、趣旨や内容は概ね同じものとなっています。

 この法案の原型とも呼べるものは、1996年の、いわゆる同和問題に関する閣議決定 (橋本内閣) にあります。 これは当時、国連総会において決められた、1995年から2004年までの10年間の人権教育についての取り組み、「人権教育のための国連10年」 への対応が必要となっていたことが背景にあります。

 この 「人権教育のための国連10年」 は、冷戦終結後の地域紛争、国家による自国民の虐殺や民族浄化などの多発に対し、その原因が人種や民族間の対立や偏見、差別の存在にあると規定。 また1994年4月にルワンダで発生したフツ族強硬派によるツチ族・フツ族穏健派に対する虐殺事件 (ルワンダ虐殺) などを踏まえ、こうした悲劇を繰り返さないためにも、全世界的に人権意識を高める必要性があるというものでした。 日本でもこうした国際的な考え方により、内閣と法務省によって法的な整備が推進され、人権擁護推進審議会が人権救済制度の改革と新しい人権救済制度の設置を進めることになりました。

 その後 2002年 (平成14年) の第154回国会において最初の法案が小泉内閣によって提出されました。 しかし我が国にはすでに人権侵害を救済する仕組みがいくつも存在すること、国家による虐殺や民族浄化などといった人権侵害行為とは無縁な国であること、さらにこの法案の人権侵害の定義があやふやで恣意的運用による言論の萎縮効果、あるいは言論弾圧の恐れがあるなどの反対意見や慎重論が多く、継続審議を経ながら翌 2003年(平成15年)10月の衆議院解散により廃案となりました。

 ただしその後も内容や名称を変えながら、自民党や公明党、民主党、法務省などが検討を続けており、数年起きに動きが起こり、その度ごとに国民や市民の間から反対運動が盛り上がるといった状態となっています。

強い独立性と権限を持つ 「人権を守る組織」 の創設

メディア規制3法
個人情報保護法案
人権擁護法案
青少年有害社会環境対策基本法案

 この法案では、政府から独立した三条委員会 (国家公安委員会や公正取引委員会などと並ぶ強い権限を持つ独立組織) として法務省の外局に人権擁護委員会 (委員長と委員5人の計6人) を設置。 その下には2万人の人権擁護委員を擁し、全国に細かく配置して人権侵害行為に目を光らせる活動を行うという形になっています。

 この組織に強い独立性と権限を持たせるのは、地域の個人間での小さな人権侵害行為を止めるためのものではなく、元々は国家 (抑圧的な法律や制度、公務員による恣意的な判断) による人権侵害行為を止めさせるためのものだからです。 これは発端である国連総会の決議がそうなっており、独立性と一定以上の法的な力を保つ根拠ともなっています。 しかし日本の法務省では、報道機関などによる人権侵害行為や、個々の日常生活における個別的人権侵害行為にまで取締の権限を拡大。

 人権侵害の救済については、被害者が 「これは人権侵害だ」 と訴えると、各地の人権擁護委員がそれを調査。 それが事実であった場合、加害者に30万円の罰金を課したり、事実関係や実名の公表などの罰則を与え、「人権侵害行為をやめさせること」 ができるというものでした。

メディア規制3法案の中核として大きな反対運動が盛り上がる

 もちろん生まれや育ち、身体の特徴など、本人にどうすることもできない理由で差別したりされたりは、決してあってはなりませんし、差別的な言葉、暴力などもなくすべきでしょう。 それは加害者が国であろうが一般人であろうが、同じです。

 しかしこの法案は急ごしらえで内容が非常にずさんなもので、加害者扱いされた人や団体は、裁判のようにそれに対して異議を唱える仕組みも制度として持っておらず、「人権侵害を行った」 と一旦決め付けられると、身の潔白を晴らす手段も名誉を回復する手段も制度内にないというものでした。 「表現の自由 が侵害される」「何もいえなくなるのでは?」 などの不信感が拭えず、場合によっては 「人権」 を口実に国や公務員の犯罪行為の隠蔽が行われたり、逆に新たな人権侵害問題を起こしかねない、とても危険でお粗末なものでした。

 さらに、「人権侵害」 に目を光らせるこの 「人権擁護委員」 の選出基準が明確でなかったり、当初は国籍条項がなかったりしたため、特定の既存人権団体 (一部で、かねてから不可解な言動が問題視されていたような 特定アジア に関係する民族団体や、宗教団体、その他団体の構成員) から委員が選ばれることによる危惧もありました。 マスコミによる報道も極めて不十分で、「このままでは国民が知らない間に危険な法律が通ってしまう」「特定の国や団体の影響が極端に強まり、何もいえなくなる」 と、危機感が高まり反対運動が行われていました。

 また任意の形を取るとはいえ、事実上 「令状なし」 で被疑者の取り調べや住居などへの立ち入り調査、パソコンなどの物品の押収が可能となっている点も問題視されました。 これは 「令状なしで好き勝手に強制捜査ができる」 という訳ではなく、例えば通常の職務質問などと同等の扱いではあるものの、任意とは云え拒否すれば 「人権侵害を認め隠している」 との扱いを受けたり、そうした扱いを受けるかもしれないと被疑者が感じるのは想像に難くなく、反対派が事実誤認に基づいて恐怖感を煽っているだけだとも云えない内容と云えるでしょう。

 なおこれらの反対意見とは別に、「自治体などが嘱託する2万人もの人権委員に誰がなるのか」「将来的に天下りの温床になるのではないか」 との、税金の無駄遣い、行政改革の視点からの反対意見もありました。 この委員は、いわゆる給料が発生しない非常勤の公務員扱いとなりますが、業務を遂行するための費用や個別の手当は請求できるものとされています。

法律の目的と総則

 この法律の目的は、「人権の侵害により発生し、又は発生するおそれのある被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防並びに人権尊重の理念を普及させ、及びそれに関する理解を深めるための啓発に関する措置を講ずることにより、人権の擁護に関する施策を総合的に推進し、もって、人権が尊重される社会の実現に寄与すること」 となっています (法案1条による)。

 また法案4条では、「国は、基本的人権の享有と法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのっとり、人権の擁護に関する施策を総合的に推進する責務を有する」 として、目的を実現するための責務が国にあると定めています。

 なおここで取り扱う 「人権侵害」 や 「差別」 は、いわゆる同和地区に関するものや在日外国人に関するものだけでなく、女性、労働者、障害者、老人、児童、未成年者など、社会的弱者とされる者に対する人権侵害が包括的に含まれるものとなっています。

2005年の法案再提出騒ぎ、そして鳥取県の人権擁護条例

 2002年の法律案では、マスコミなどへの規制条項が盛り込まれていたものの、これがマスコミからの少なからぬ反発を招いたこともあり、その後はマスコミ規制を除外するなど批判の多かった前回法案の一部を修正しています (ただし法律の可決成立の後、5年後をめどに見直しの条項が入っています)。 2005年2月には第162回国会に再提出する方針を固め、政府与党が議会で圧倒多数の情勢下で、マスコミ報道などがほとんどされないまま可決成立するかの状態となりました。

 この際には、ネット を中心に猛烈な反対運動が盛り上がり、自民党内の反対派も反発。 いわゆるメディア規制3法案のうち、個人情報保護法案のみ成立したものの、同じように反対運動が盛り上がった 青少年有害社会環境対策基本法案 (青環法) (2004年に参議院へ提出したものの、審議未了で廃案) ともども、再度立ち消えとなっています。

 なお国政の場以外でも、鳥取県で片山善博知事が推進する形で 「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」 を2005年9月12日に議会で可決。 2006年3月28日に公布施行されています。 こちらも可決前後に強い反対運動が全国で巻き起こり、条例は実質的に凍結状態 (無期限延期) のまま推移。 2007年、片山知事の退任により平井伸治が新たに知事に就任すると、条例の廃止に向けて動き出すこととなり、2009年4月1日、前月末に可決した条例改正案の施行によって正式に廃止となっています。

2012年、民主党案 「人権救済機関設置法案」 も動きが急に

 2009年8月、民主党が選挙で大勝して政権を奪取すると、同党のマニフェストにも記載された 「人権救済機関設置法案」 が注目を集めることになりました。 この法案は、自民・公明案である人権擁護法案の対案としてかねてから民主党が用意していたもので、前述した2005年の人権擁護法案の提出断念の際には、「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案」(人権侵害救済法案) として提出もされています (その後廃案)。

 政権獲得後も 「早期提出、成立を目指す」 とされ、2009年9月16日に発足した鳩山由紀夫内閣で法務大臣に就任した千葉景子法相も強い意欲を表明。 2010年7月11日の第22回参議院議員通常選挙で現職閣僚でありながら落選しながら、1ヶ月近くも異例の大臣留任を行い活動を続けていました。

批判の多い法務省の 「新たな人権救済機関の設置について」 のQ&Aページ
批判の多い法務省の 「新たな人権救済機関の
設置について」 のQ&Aページ

 さらに2011年5月には、江田五月法務大臣も国会へ提出する意向を表明。 翌2012年4月には、法務省が4月20日の閣議決定を目指し、関係機関と調整しているとマスコミなどが報じています。

 こちらの法案は批判の多かった自公案と違い、地方参政権を持たない人 (外国人) は担当者になれないとの事実上の国籍条項を持っています。 しかし施行後5年の間に見直しが行われるとされている上に、民主党が強く推進する外国人への地方参政権が実現した場合には、なんら制限がないことにもなります。

 また人権侵害救済法が施行した後に、「外国人参政権反対」 を訴えるのが 「差別だ」 とされたら、外国人参政権や地方参政権を防ぐ方法もなくなってしまいます。

 結局この法案も、提出時期を巡りすったもんだの末、2012年4月20日に調整が行われるとの情報が流れた後、同月末になり 「反対が大きく見送り」 との報道もされました。 しかし5月8日の記者会見で小川敏夫法務大臣は、「見送ったと決めた事実はございません。 引き続き提出する努力はしているところでございます」 とした上で、「時期も含めて具体的に提出するということが決まっているわけではございません」 とし、すぐに状況が動く情勢にはないとの認識を述べつつ、その後の含みを残しています。

 その後、2012年8月29日になり、民主党法務部門会議 (座長/ 小川敏夫前法相) の元、人権救済機関設置法案を反対派の意見を押し切り了承、閣議決定を経て国会に提出することとなりました。 衆参両院の情勢から、可決成立する可能性は極めて低いと思われますが、誰が賛成し誰が反対したのかは、今回の法案の行方に関わらず、しっかり記憶しておくべきでしょう (その後、提出を断念)。

公権力による無駄な規制を防ぐために

 この人権侵害救済法に限らず、国民の表現の自由を強く制限、もしくは萎縮させる法律や法案が繰り返し出されています。 その多くは、人権や子供の安全、平和など、「誰も反対できない美しい言葉」 をその名称に持っています。 しかし名称は単なる名称であって、中身を正確に反映した名前となっている訳ではありません。

 そもそも国家権力 (公務員) が国民に対して行う虐殺や民族浄化、差別を取り締まり、あるいは未然に防ぐための国連決議が、逆に国民の差別を国家権力が厳しく取り締まるために設置する機関や法律の根拠になるなど、本末転倒です。

 調べられる範囲で調べ、おかしいと思ったら毅然として反対の声を上げることが大切でしょう。 「表現の自由」 は国が守るべき国民の権利ですが、憲法にも書いてあるように、「ただ国から与えられる権利」 ではありません。 「国民の不断の努力によって守るべき権利」 なのですから。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2005年12月10日)
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