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史実待ち

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本能寺まであと何日…? 「史実待ち」

 「史実待ち」 あるいは 「史実カウントダウン」 とは、現実にあった歴史上の過去の世界 (例えば戦国時代とか幕末、明治大正から昭和初期など) を舞台とした創作物において、作中の時間が進む中で避けることができないであろう歴史的事件 (災害や戦争など) に対して生じる 「あの災害・事件まであと〇日か」 といった状況や感情を指す言葉です。 「歴史ものにおける史実までの残り時間」 といった意味になりますが、単に創作物と史実との関わり合いを指す 概念 としても使われる場合があります。

 例えば戦国時代を舞台とした作品では、事実上の天下人であった織田信長が家臣である明智光秀に討たれた本能寺の変 (1582年)、中部地方で発生し多数の死者を出した天正地震 (1586年)、羽柴秀吉 (豊臣秀吉) が実質的に天下人となった小田原征伐 (1590年)、徳川家康が事実上天下を握った関ヶ原の合戦 (1600年)、豊臣家が滅んだ夏冬の大坂の陣 (1614年/ 1615年) などなど、大なり小なりその時代のあらゆる人々に影響を与えるような大事件がたくさん起こっています。

 この時代の人物、ましてや戦国武将を 主人公 とした 一代記形式 の作品であれば、人生の一部でこれらの大事件に当事者として関わったり巻き込まれたりしますし、その後の主人公や周りの キャラクター たちの人生や物語の展開だって大きく変わることにもなるでしょう。

 そこで 「ある程度史実に立脚した過去世界を舞台とする作品の、物語と史実との関わり」 を、その史実まであとどのくらいの日時なのかを期待して待ったりカウントダウンする形で表現したり、あれこれ 解釈 を巡らすような楽しみ方も生まれました。

大河ドラマでは、毎度おなじみの史実カウントダウン

 史実待ちの考え方や楽しみ方は昔からあるのですが、わかりやすい例としては、歴史ものとして国内では突出した存在である NHK の大河ドラマの ファン の間で 共有 されがちな概念でしょう。 ドラマの テーマ によって、「8月頃に本能寺だな」「11月くらいには大政奉還されて江戸無血開城は最終話寸前の12月だな」 などとあれこれ論評が出たりします。 逆に云えば、特定のキャラや登場人物がどれだけ絶体絶命の大ピンチに陥っても、歴史上死んだ日がずっと先ならば生き延びる可能性が高いと云えます。 この場合は対義語として 「歴史バリア」 と呼んだりします。

 なお完全な架空世界の創作物語であっても、予告編などで繰り返し流された印象的であまりに有名なシーン (例えば映画スキャナーズの頭爆発とか、犬神家の一族の湖中から足が突き出たシーンとか)、あるいは サービスシーン (着替えや入浴など) を、いざ本編を見た時に 「いまかいまか」 と期待して待ち続けるような意味でも使われます。 ネットなどでネタとして取り上げられる マンガアニメ の有名すぎる印象的なコマやシーンも、本編を見る時に 「あれはいつ出てくるのか」 と期待しがちでしょう。

 こうしたものも有名シーンのカウントダウン (あるいは〇〇シーン待ち、〇〇待機、全裸待機) と呼ぶこともあります。 もっとも事前の刷り込みによる期待値が高すぎて、ネットなどで騒がれているわりにはあっさり始まってあっさり終わったりもするので、肩透かしというか、おおむね期待外れに終わることが多いでしょう。

 一方、ネタ としてあえてありえない話をして笑いにすることもあります。 例えば大河ドラマで歴史上負けた側の人物に実力派の役者が抜擢され、神がかり的な好演技によって物語がどんどん盛り上がると、「今回の今川義元は京に登れそうだな」「今年の石田三成はやってくれそうだ」 みたいに茶化すなどです。

史実のカウントダウンが発動したりしなかったり…歴史 if・改変もの

 ところで、ある程度史実に立脚した過去世界でありながら、一部の史実を無視したりそれによって大幅に史実の変更が生じるような作品は、if もの (歴史if) とか改変もの (歴史改変)、歴史シミュレーションものなどと呼ぶ場合もあります。

 こうした作品では、作品舞台の前提となる史実の一部が大胆に改変される場合もあれば (例えば特定の歴史的事件が発生しない、重要人物がいなくなるなど)、世界観 も史実も途中までほぼ現実の歴史を踏襲しつつ、作中登場人物が歴史を変え得るポジションにいて歴史を作り替えるといった形 (国や軍などの重要人物だったり、転生や超能力などで未来を見通す力があるなど) になるものまで、様々なパターンがあります。

 こうしたケースでも、例えば本能寺の変 レベル の大事件は形は変われども組み込むケースが多いものですが (でなければ、わざわざその時代のその時期で作品を創る意味がないでしょう)、まるっきりスルーするような挑戦的な作品もあります。 「あの大事件を防ぐにはどうしたいいのか」 といったテーマの作品もありますから、物語として面白いだけでなく、知的な興奮や if の世界を疑似体験できるような意欲作もあります。 クオリティの高いこうした作品に出合えるのは、視聴者や 読者 としては幸せなことでしょう。

切ない明治・大正・昭和初期の物語

 「史実待ち」 は、史実が知られているあらゆる歴史もので生じます。 とはいえ 「国の形に関わるような大事件が起こった時代」 は結果的に歴史上有名な人物が多く 「人気のある時代」 になりがちで、作品にしやすい上に注目を集めやすいでしょう。 また幕末から明治大正、そして昭和初期の物語では、視聴者や 読者 にとっても比較的身近な時代の話であり、歴史上の出来事が常識として認識されていることもあって、大きな話題になったり作中登場人物の身の振り方や安否についての心配や考証が盛んになるものです。

 明治から大正にかけての物語ならば、日清戦争 (1894年) や日露戦争 (1904年)、関東大震災 (1923年) がありますし、大正から昭和にかけての物語なら、昭和金融恐慌 (1927年)や世界恐慌 (1929年)、二・二六事件 (1936年)、日中戦争 (1937年)、第二次世界大戦 (日本は1941年から) とその敗戦 (1945年) があります。

 これらの時代を舞台としたマンガやアニメ、ゲーム やドラマなどはたくさんありますが、登場したキャラクターがこれら歴史的事件にどう巻き込まれてしまうのか、あるいはそうした災害や事件が生じる前に物語が終わっていても、作品世界の時系列を超えた後の世で彼らがこれら過酷な運命に巻き込まれる状況を思って悲しくなったりもします。

 大正時代を舞台とした作品と云えば、真っ先に 「はいからさんが通る」(大和和紀さん/ 講談社) が思い起こされます。 主人公の 「はいからさん」 こと花村紅緒は、帝国華族にして帝国軍人でもある 許婚 の伊集院忍と、戦争や震災など歴史の激流に巻き込まれます。 物語自体は関東大震災の後に結ばれて幸せな形で終わりますが (番外編では父親となっている)、その後の日本と軍部の歴史を考えると、より過酷な運命がまだまだ待ち構えていると考えられるでしょう。

 もちろんこれは架空の話、創作物の話であって、物語が終われば登場人物がたどる運命もそこで終わるはずですが、思い入れを持って作品に触れたファンにとっては、彼らのその後の運命を思い、切ない気分になることもあるでしょう。

 また2016年に公開され大ヒットした、同名マンガを原作とする映画 「この世界の片隅に」 は、戦時下の広島で貧しく厳しい困難に見舞われながらも明るくつましく幸せに暮らす主人公のすずが、少しずつ戦時下の空気に飲み込まれ、「あの瞬間」、すなわち原爆投下に向けて物語の中で生活を続けます。 これも厳然たる史実があるがゆえに、日常のほのぼのとした描写の中にも緊張感があるもので、作品自体のクオリティの高さもあいまって、大きな話題となる小さくない理由でもありました。

大正ではなく太正、独特の時間軸

 なお一部の作品の中にはこうした状況を踏まえてか、「特定の実在世界や歴史を基本的な舞台としつつも、作品内時間は経過しない」 あるいは 「時代が変わらない」 という独特な設定となっている場合もあります。 例えば同じ大正時代を舞台とするゲーム 「サクラ大戦」 は、大正時代 (正確には太正時代) がずっと続く世界として描かれています。

 この場合は、そもそも大正と太正であるので文化や風俗などに共通点はあっても、作中の出来事と史実としての大正とはまるで別物ではあるのですが、ある種の 割り切り 方として、こうした独特な世界観が提示されるケースもあります。 現実の大正時代はわずか15年ほどで終わりますが、太正時代は延々と続き、「新サクラ大戦」 では太正29年 (1940年で史実では昭和15年) に突入しています。 1990年代に戦記シミュレーションとして一世を風靡した荒巻義雄さん作 「紺碧の艦隊」 の昭和ならぬ照和も、この種の作品が好きな人にはおなじみのものでしょう。

 なお時代も年も経過せず、キャラも年齢を重ねず、しかし春夏秋冬やそれに伴う行事や歳時的な イベント は順に巡ってくる独特な時間の処理は、とくに サザエさん時空 と呼ぶこともあります。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2015年6月16日)
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