使い勝手が良いものの、差別表現にもなりがちな…「治安」
![]() |
| わ!? 何ここ!? 治安悪スギィ!! (有明いく子) |
「治安」(ちあん) とは、国家や公権力によって社会が統制され、安定的に統治されていること、具体的には国家が定めた法が守られ、それを破る犯罪や統治を揺るがす反乱・暴動が少ないか、あっても有効な取り締まりによって封じられ、混乱のないさまを指します。
元々は国や警察、軍隊などによる円滑で安定した統治を指し、必ずしも民衆にとって安全で 平和 な状態を示すものではありません。 例えば封建制や独裁制国家において、民衆がどれだけ国家によって弾圧されていても、為政者によってつつがなく統治が行われていれば治安は良いものとだとされることもあります。
しかし現在では 一般の人たち の間でも、犯罪などがなく自分たちが自由で平穏無事な状態を治安が維持されている状態だと認識されるケースが多いでしょう。
治安が良く保たれている状態は、静謐とか安寧と呼ぶこともあります。 逆に保たれていない場合は、そのまんまの治安が悪いの他、混乱、政情不安・情勢不安といった言い回しになることもあります。 とくに治安が悪い場合、ネットスラング として 「世紀末」 とか 「ヒャッハー!」(マンガ 「北斗の拳」 に由来)、治安の悪い国としてよく知られる 「南アフリカ」「ベネズエラ」「メキシコ」 などの名称が、「○○の南ア」 のような ネガ比喩 として使われることもあります。
「治安」 と 「安全」
日本は一般に極めて治安のよい国だと世界的にも 認知 されています。 殺人や強盗、誘拐、性犯罪といった凶悪事件は統計上極めて少なく、また生活実感としても財布を落としたら警察にちゃんと届けられたとか、子供や若い女性らが夜の街で一人歩きしても安全だとか、終電や地下鉄での居眠りができるとか、都市部近郊で単独での子供の通学や夜釣りやキャンプ、ツーリングが可能とか、様々な理由や傍証が挙げられます。 表現の自由 も思想信条の自由もあり、恣意的な理由で政府から一方的に拘束されたり拷問や弾圧をされる恐れもほとんどありません。
警察に関しては弱すぎても治安が悪化するし強すぎても警察国家的な危険性が増大するしで透明性とバランスが大切ですが、自白の強要を前提とした長期拘留 (代用監獄) や取り調べの可視化がされないなどの問題がありつつも、多くの国のように被疑者をすぐに射殺したり賄賂の要求が当たり前にされるような腐敗は起こっていません。 完璧な組織など存在しない中で、諸外国と比べても十分よくやってくれていると評価しても良いでしょう。
表現の自由と国民の知る権利に基づく報道の自由については世界的に見ても低い位置に甘んじていますが、これはフリーのジャーナリストや海外メディアなどが公的な記者会見へ参入することを妨げている記者クラブ制度の存在や、一部の企業や資本がメディアを支配する体勢 (海外ではしばしば禁じられているクロスオーナーシップ (相互所有) によるメディアグループの形成) といった日本の オールドメディア 自身の問題も大きく影響しています。 別に政府や軍が報道を管制したり弾圧しているわけではありません。
一方で 「安全な国」 というくくりで見ると、実は治安 (世界で上位1〜3位あたりがいつものポジション) ほどには高い評価が得られていません。 例えば安全の評価指標に選ばれることが多い項目に衛生管理や医療体制の充実があります。 日本はこれらもしっかりしていてわけのわからない風土病や伝染病が蔓延することもありませんが、しかし海外の処方箋で薬品の購入ができないなど外国人観光客の医療アクセスに対する懸念はしばしば指摘されます (医療大国日本からすると、そうでない国の処方箋を信用して薬剤を出す方が危険な感じがしますが)。 また地震や風水害、火山の噴火といった自然災害の多さや人口密度の高さ (一般に密度が高いと犯罪発生率も高くなる)、そして刑罰に死刑があることも一つのネックとなっているようです。
災害対策も頑張っているし、警察官が容疑者を毎年何十人何百人も 現場 で射殺する国と裁判を経て年間せいぜい2〜3人の死刑執行があるかないかの国とでどちらが安全や 人権 の観点からマシかという話もありますが、文化や考え方の違いもあり外国人に理解してもらうのは難しそうです。 人口密度については日本ほどの高密度で上位に選ばれる国は他にあまりなく、その結果日本に対して 「必ずしも人口密度の高さが安全に対して不利に働くわけではない」 との評価さえ与えられているので、問題はないでしょう。 かつては犯罪組織の代名詞として世界的にも YAKUZA としてその名を轟かせた暴力団も、暴対法その他の取り締まりで存在感がずっと小さくなってもいます。
他方、国際関係や 軍事的 な面で見ると、政治体制が異なる上に核武装をした個人崇拝・独裁制の軍事超大国に囲まれ、それらの国と領土問題で トラブル まで抱えているのは大きなマイナスポイントです。 戦闘機のスクランブル発進 (緊急発進) 回数の多さや相手国の反日教育やプロパガンダ、認知戦 による敵対感情の高まりもあります。 また国民の国防意識の低さや地域の軍事的緊張・国力と比べた時の軍事費の少なさ、万が一の有事の際には食料や物資類の自給率の低さから困窮することも目に見えており、いわゆる地政学的リスクから見れば危うく見えても仕方がありません。 世界ではつい最近まで戦争や紛争をしていた国、現在も遂行中の国もあります。 有事に対する危機感の覚え方に、日本人とは異なる切実さがあるのでしょう。
日本は先の大戦以降、国権の発動たる戦争をしたことがなく、また他国に対する領土的野心もなくずっと平和で安全な国であり、戦争など大昔の出来事か遠い外国の話です。 しかし領土的野心を隠そうともしない独裁国がすぐ隣にあり、ことあるごとにわけのわからない難癖をつけては日本を口汚く批判し、あるいは挑発して緊張感を高めています。 公式 な統計が公開されている主要国の中で、もっとも多くスクランブル発進 (緊急発進) している国は日本です。 こればかりは自然災害の多さを含めて政治や国民の努力だけでどうこうできる話ではなく、立地 ガチャ の結果を受け入れるしかありません。
一般民間人の間でも、カジュアルに使われる 「治安」
治安という言葉は 日常 の会話や ネット ではよりカジュアルな使われ方もされています。 例えば会社や 学校 で暴力や暴言がない状態は当然として、その場にいる人間が決まりごとに従順でおとなしく身なりもしっかりしている、あるいは 雰囲気 が良い、清潔感 があり静かな 環境 であるなども、治安が良いと表現することがあります。 逆に態度が悪い人が多い、ガラ が悪い、雰囲気が悪くてギスギスとしている、殺伐 としていることは、治安が悪いと表現されることもあります。
やや捻った使われ方をする ネットスラング・おたく用語 として、邪悪・残忍な表情で笑みを浮かべるような様を 「治安が悪い笑み」、そうした キャラ を 「治安の悪いキャラ」 みたいに表現することもあります。 こうした表情や笑いをあらわす言葉には 黒化 とか 闇落ち、暗黒微笑 や 蛇笑い などがありますが、言葉としてはより遠回しな構造となる表現ながら、直接的なあれこれが想起できる面白い言い回しでしょう。 「治安の悪い地域にありそうな笑いやキャラだ」 という意味ではなく、あくまで 「治安が悪い」 が一塊の 「悪くて危ない」 をあらわす フレーズ として使われている点がユニークです。
「治安」 とともにしばしば使われる 「民度」「風紀」
ほとんど同じ使われ方をする言葉に 「民度」 もあります。 こちらも本来の意味からはやや離れ、治安の良い悪いと同様に民度が高い低いと表現して、その場にいる人間の言動や雰囲気、さらには個人やキャラの言動を評価するような使われ方もします。
ただし治安にせよ民度にせよ、個々人の資質を指して評するのではなく、おおむね特定の地域や場所、そこに集う人間を 属性 と皮相的な言動、派手で目立つ事象によってのみ評価し決めつけるものでもあるので、容易に差別や ヘイト表現 に結び付きやすく、かつまた良い悪い高い低いの基準も恣意的になりがちで、使い方が極めて難しい言葉のひとつでしょう。 あまり安易・気軽に使うべき言葉ではありませんが、使い勝手の良さ、誰でも意味が分かる便利さから、時代を経るにつれよく使われるようになってきているかもしれません。 筆者 を含め、その点は強く留意したいところです。
なお治安や民度よりだいぶ軽い類似表現に 「風紀」 もあります。 こちらは社会生活上の規律・ルールを指し、それが守られているかどうかをあらわす表現です。 例えば学校生活における風紀の取り締まりは校則を守っているかどうか、それに関連した 制服 の着用方法といった身だしなみの粛正になりますが、とはいえ実際は、主に男女関係のあれこれ (不純異性交遊) をもっぱら指す言葉として使われることも多いでしょう。
これは大人である社会人の間でもしばしば用いられ、とりわけ水商売や風俗関係の場での風紀は、男性従業員と女性従業員・キャスト (嬢) との恋愛関係や恋愛関係に基づく肉体関係を指す言葉として用いられることがあります。 こういった業界において 「店の女に手を出す」 は一般にかなり強めの御法度・禁忌となっており、当然ながらそれなりの処罰を受けることになるようです。
これは 「店の売り物に手を出した」 という倫理的というか仁義に反する問題もさることながら、店内で恋愛関係が生じることで女性キャスト同士の関係がこじれたり、その恋愛が揉めたり終わった時に女性キャストが退店しがちという点も含め、店の円滑な経営を阻害あるいは破綻させる可能性がかなり強い行いだからです。 いわゆるアイドル業界の恋愛禁止もこれの延長線上にある話で、必ずしもイメージ戦略がどうのとか ファン のためという訳ではありません。 キャストに対する経営側の統制が利かなくなってしまう (色恋沙汰にはそういう力がある) からです。






