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デジタルタトゥー

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ネットに広がった情報は、そう簡単に消えない・消せない 「デジタルタトゥー」

 「デジタルタトゥー」 とは、一度 ネットアップロード されたり 拡散 された情報やデータがいつまでもネット上に残り続け、当事者に不当な不利益を与えてしまう状態のことです。 あらゆる情報が 電子化 され インターネット共有 されてしまう Digital 時代にあって、その情報を一度入れると簡単・完全にはなかなか消せない Tatoo(刺青、タトゥー) になぞらえた造語で、2013年にメキシコの研究者・作家のフアン・エンリケス氏が、TEDカンファレンスのプレゼンで テーマ として取り上げたことから広く知られるようになりました。

 日本ではこのプレゼンをメディアなどが紹介する中でデジタルタトゥーといった考え方や言葉が広がりますが、その後も深刻な 人権上 の問題を防ぐための 「忘れられる権利」(Right to be forgotten) などが欧米中心に提唱される中、その報道や有識者らの情報発信によって定着していきます。 とくに 2019年に HHK で放映された 「デジタル・タトゥー」 というそのまんまのタイトルのドラマによって、一般にも広く周知されるようになっています。

デジタルタトゥーという言葉が生まれる以前の日本のミラー・魚拓文化

 ただし日本においては、掲示板 あめぞう や 2ちゃんねる はじめ、アングラ・匿名系の場において 「悪評や恥ずかしい情報・画像 であっても一度ネットで広がったらもう消せない」 という共通した 概念 が、1990年代末頃には広まっていました。 これ自体は日本だけの問題ではなかったため、他国に比べて特段早かったわけではないのですが、2000年代に入ってネット利用者が急増し、また Winny をはじめとする ファイル共有ソフト における数々の情報流出事件 (つこうた をはじめ、暴露ウイルス などによるものほか) によって国を巻き込んだ騒動や問題が度々起こっていたので、リテラシー の高い人たちの間での関心や認識は、同時期の他国の ネット利用者 より高かったかも知れません。

 これらはネット時代の負の記憶、見せしめとしての 晒し公開処刑 の固定化として、負の刻印・十字架、魚拓、あるいは 黒歴史 として 認知 されます。 胸糞 と呼ばれるような犯罪者 (とくに未成年の凶悪犯や性犯罪者など)、あるいは著しく倫理に反する行為をした人 (いじめ やパワハラ、援助交際 など) の情報をネットに大量にアップして拡散させ、半永久的なネット上の晒し者にするための行為として定着していました。 それは単に一時的に情報を拡散するだけでなく、追跡調査や によって新しい情報を収集して共有する、掲示板などで 定期ネタ として何度も話を蒸し返して風化も許さないという徹底したものでした。

 ネットがあって当たり前の時代、本人に著しい不利益を与える情報がネットに残り続け、誰でも簡単に見ることができる状況は、人権上大きな問題を引き起こすものでしょう。 進学や就職・転職、結婚 といった人生の大きな節目で不利益を繰り返し何度も受け続ける結果となる可能性がありますし、例え実害がなくとも、そうした情報がネットにあって見ることができるという事実だけでも、本人が受ける精神的苦痛は決して小さくはないでしょう。

デジタルタトゥーの様々な形

 デジタルタトゥーには、幾つかのパターンがあります。

 忘れられる権利と共にデジタルタトゥーの典型例としてもっとも広く認知されるのは、罪を犯すなどして警察沙汰となり、それが新聞社などのネットメディアで実名報道され、その情報がいつまでも残り続けるといったものです。 逮捕や起訴・有罪判決直後の段階ならともかく、その後裁判を終えて無罪となったり、あるいは有罪でもその後刑罰を受け罪を償った後になっても情報が残り続けてしまうのは、そもそもの実名報道の是非を含め、人権上もたいへん大きな問題があると云えるでしょう。

 新聞社の場合、伝統的に縮刷版の文化を持ってはいるものの、ネットでの報道では一定期間を過ぎると多くの刑事・民事事件報道が削除されたり閲覧できなくなったりします。 しかし新聞報道という高い信頼性を持った形で第三者が転載したものは残りますし、ネットアーカイブや魚拓といったサービスを使ったバックアップや ミラー が大量に作られることもあります。 また記事が消える前に行った引用や コメント などもネット上に残るので、あまり意味もありません。 これはメディア報道だけでなく、官報でも同様です。 その全てをネットから消すのは著しく困難です。

 別のパターンでは、プライベートな写真や動画なども含む個人情報が、本人の意図しない形でネットに流出し、いつまでも残り続けるといった形があります。 前述した暴露ウイルスによってパソコンの中の情報が流出したり、それを拡散されてしまうといったケースです。 あるいは私怨などにより、近親者が意図的に特定個人の個人情報をネット上に放流するケースもあります。 性行為の様子などを撮影した写真や動画の意図的な流出 (リベンジポルノ) などは、対象とされた人 (もっぱら女性) に対して耐えがたい精神的苦痛を与えるものになるでしょう。

 もうひとつのパターンは、ネットに情報を出した時点では本人にとっても何の問題もなかったものの、あまりに拡散し過ぎてしまったり、あるいは年月を経て本人の生活環境や状況、時代が変わって問題化し、それでも消そうとしても消せなくなってしまったような状態が挙げられます。 例えば職場やバイト先で悪ふざけをしてその様子を撮影した写真などがネットで拡散されてしまう (バイトテロ)、若気の至りで イキっ書き込ん だ極論が年月を経て 掘り起こされ て問題となる、AV (アダルトビデオ) や性風俗関係の職業に就いていて 顔出し で情報発信していたものの、引退 した後になっても長期に渡ってその情報が残り続け、生活に支障をきたすようになるなどです。 一時的に 精神を病んで しまい自傷気味に自分の情報を発信して、その後 消すことができずに後悔するなどのケースもあります。

 これらはそれ単体で大きな問題となることもあれば、拡散によって批判が殺到し 炎上 となり、まだネット上に出ていなかった情報が 特定身バレ によってばらまかれる、それら炎上のあれこれを含めた騒動がネットメディアで報道されてさらに広がるなど、別のパターンと複合して二重三重に拡散・保存されるケースもあります。

デジタルタトゥー化しても、絶望しないために

 デジタルタトゥーや忘れられる権利が話題となる中、それを取り巻く社会の 環境 も少しずつ変化しています。 費用や手間はかかるものの、ネット上の情報をある程度の規模でまとめて消すことも時代を経るにつれ可能となってきています。

 一度ネットに流出したら二度と消せない、仮に消せてもそれを確認する術がないというのはその通りなのですが、検索で簡単に出てくるとかサジェスト (その他のキーワード候補) として常時表示される状態でなければ、実質的に無視できる程度に改善する可能性があります。 もちろん深掘りする人にはどこかにある情報にアクセスされたり、ダークウェブ (特殊な環境下でのみ閲覧できる暗号化されたウェブ) には残るかもしれませんが、Google で誰でも簡単に見ることができる状況とは大きな違いがあります。 近年では Google の検索結果に古い情報が反映しづらくなるなど、それはそれで古い貴重な情報へのアクセスが不便になるといった課題はあるものの、デジタルタトゥー問題に関しては一定の効果が見込める施策も行われるようになっています。

 またネット上で個人情報を拡散したり、それに基づく誹謗中傷を行う人に対して、発信者を特定するための情報開示請求や、法的な差し止め、名誉棄損などの責任追及をより迅速に行うための法的整備も近年少しずつ行われるようになっています。 デジタルタトゥーで困っている人が 「もう二度と消せない」 と絶望せず、過ちを犯した過去があっても人生を立て直して平穏な生活が送れるような仕組みやルールの一層の整備が、今後も求められているのでしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2014年10月21日)
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