同人用語の基礎知識

正常性バイアス

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「まだ慌てるような時間じゃない」 それって 「正常性バイアス」?

 「正常性バイアス」(正常化バイアス) とは、人が予期せぬ事態や災害、危機に直面した際、脳がパニックや過剰なストレスを防ぎ心の平穏を保つための 防御 反応を起こして 「自分は大丈夫だ」「大したことはないだろう」 などと実際に起こっていることを無視したり都合よく 解釈 して過小評価してしまう心理的メカニズムのことです。 結果、緊急時の避難遅れや初動対応の遅れを招く大きな原因となります。 目の前の状況ではなく慣れ親しんだ 日常ルーティン にとらわれ、「いつも通り」を維持しようとするのですね。

 認知 に対するバイアス (偏りや先入観、偏見を意味する言葉) 自体には他にも様々な パターン がありますが、地震を中心に災害の多い日本においては数あるバイアスの中でも人命に関わる危険なものとしてとくに重視され、数々の実例などを通じて大手メディアなどでも盛んに紹介されています。 バイアスという言葉もひと昔前は日本語のままの偏見や思い込み、あるいはベクトル (偏りや角度) などが使われていましたが、近年ではバイアス呼びが広く定着しています。

東日本大震災における生存性バイアス

 2011年に発生した東日本大震災では、この正常性バイアスが多くの人の避難行動に影響を与えたとされます。 地震が発生すると揺れの他に津波がやって来る恐れがありますが、「過去の地震でも津波は来なかったから今回も大丈夫」「さすがに自分がいる地域までは届かないだろう」 と無意識に考え、すぐに高台へ避難しなかった結果被害に遭ったケースが多数見られました。

 また大津波警報が発令されている最中であっても「大げさに言っているだけだ」と受け流すなど、情報の軽視も見られます。 同様に家族や近所の住民などが避難を呼びかけても 「大げさすぎる」「そんなに慌てる必要はない」 と楽観的に考えたり、それでも避難を何度も呼びかける家族らに対し、場合によっては 「いい加減にしろ!」「逃げたきゃ勝手に自分だけ逃げろ!」 などと怒りを爆発させることすらあります。 結果、本人だけでなく家族まで避難が遅れて巻き添えになったケースも数多く報告されています。

 さらに救いがないのは、いったんは避難したものの 「少しくらいなら戻っても大丈夫だ」「家の様子が気になる」 などと考え、周囲の制止も聞かずに危険な場所に戻って被害に遭うケースでしょう。 被害に遭った本人も気の毒ですが、残された周囲の人々も 「何でもっと強く止めなかったんだ」 と自分を攻め続ける結果となり、それはあまりに過酷です。

 同様のケースは火災や 事故 での避難遅れにも見られます。 ビルの火災報知器や警報が鳴っても 「どうせ誤作動だ」「他の人がまだ避難してないから大丈夫」「自分だけ逃げたら恥ずかしい」 などと考え、作業や買い物を続けて避難が遅れる現象は、国内外の事故で繰り返し確認されています。

 また災害や事故ではなく、戦争といったある種の極限状態でそれがやってくることもあります。 例えば先の大戦の末期に大陸にいた旧日本軍の将校らが、諜報員や民間からの 「ソ連が国境付近に大軍を集めている」「日本に攻め込む徴候がある」 といった報告を上げても 「そんなはずがない」「不可侵条約があるからありえない」 と無視し、それどころか誤った報告を上げてくるなと非難や叱責までしていたという出来事もあります。 結果、攻め込まれるまでろくな対策も講じられず、多くの末端の兵士や民間人らが逃げ遅れて塗炭の苦しみを味わう結果となっています。 それ以前からも旧日本軍の情報軽視の姿勢のあらわれは随所に見られますが、戦争でもっとも重要な情報を希望的観測で無視するようではどうしようもありません。

ささいな日常でも容易に生じる正常性バイアス

 何でもない日々の生活の中で、個人的なあれこれで生じる事もあります。 体の調子が悪いのに 「一晩寝れば治る」「病院に行くほどのことでもない」 と様子見を決め込んだり、おたく腐女子 の場合は、夏の 同人イベント で体調が崩れてきたのに 放置 し、満足な 暑さ対策 もせず周囲の人への助けも求めずに我慢してそのまま熱中症で倒れてしまうなどですね。

 大震災や火災、戦争といった人命に直接関わるような非常事態ならともかく、それを受入れてもさほどの心理的なパニックにならないようなささいな体調変化でさえ、人は 「いつものように」 あろうとします。 しかもそれは無意識で本人はまったく正常な思考ができているとその時点では強く確信しています。 いざ倒れて救護室に運ばれるなどして冷静になると、「何であの時はあんなに 「大丈夫だ」 と思えたのだろう」 と、本人が不思議に感じることすらあります。 それくらいバイアスというのは強烈なものです。

 ちなみに 同人誌 などを創っている人なら、印刷所締め切りヤバい 時にこれが発動し、勝手に 脳内妄想 じみた安心材料を追い求めて 「大丈夫、まだ間に合う」 と思ったり、頭の中に自分勝手な 「本当の締め切り」 を作ったりすることもあるでしょう。 これは 脳内締め切り などと呼びます…。

まずは正常性バイアスの存在を知り、平時からの心構えが大切

 正常性バイアスは、人間の脳に備わったある種の自然な防衛機能でもあるため、完全に無くすことは極めて困難です。 しかし 「自分にも起こるかもしれない」「避難は空振りでも構わない」 という意識をあらかじめ持っておくこと、そして災害時には 「周囲が動いていないから」 という同調圧力に流されず、率先して行動する心構えが命を守る上で極めて重要です。 むしろ自分が率先して避難することで他人のそれを促す効果を期待する方が被害を軽減できる可能性が高まるでしょう。

 一方で、緊急事態にあって何とか心を保っていたバイアスが外れてしまった結果、人によっては容易にパニックやヒステリーに陥ったり、それが広がって群集心理として過剰になってしまうこともあります。 小さな非常口に逃げようとする人々が殺到しむしろ逃げられなくなったり、群衆雪崩 (将棋倒し) になって人が押しつぶされたり。 大声でずっと叫び続けて周囲の人間のパニックやストレスを誘発・増幅させる人もいます。

 パニックやストレスに対する耐性は人によって異なりますし、人並み以上に 「いつもの状態」 にこだわる特性を持つ人もいます。 ギリギリの判断が求められる状況にあって、誰も悪くないのに全員が被害に遭うようなことはあってはなりません。 円滑な避難には慌てず騒がず落ち着いた冷静さが大切ですが、この冷静さ、あるいは平常心と正常性バイアスは、ある意味紙一重の部分もあります。

 防災訓練や避難訓練は、非常時に頭ではなく体が勝手に動くようにいつもとは異なる身体的なバイアスを習慣として植え付けるものだとも定義できます。 また防災マニュアルなども、非常時に個々人が判断して行動を起こすのではなく、決まり事としてどうすべきかを植え付けて 共有 するものでもあります。 東日本大震災での教訓として、NHK などでは客観的な状況をただ報道し避難するかしないかを 視聴者リスナー らの判断に委ねるのではなく、「すぐ避難!」「今すぐ高台に!」 といった判断の余地のない呼びかけを 放送 で行うようにもなっています。

 日本は民主主義国家だし、良くも悪くもとても自由がある国なので、たとえ緊急時と云えども人命や財産に関わる部分で国や自治体が住民らに行動を強制することはできません。 法的には避難指示や緊急安全確保といった避難命令に近い警戒レベル情報の発令もできますが、運用は慎重だし出したところで従わない住民を強制的に移動させる法的な根拠も強制力や罰則もありません。 とはいえ 「自主的に判断してください」「お願い」「要請」 だけでは救える命も救えませんし、ここに深刻なジレンマがあると云えます。

 まずはこうしたバイアスが存在すること、それは無意識に生じるもので誰も悪くはないものの、自分や自分の大事な人を守るためには心が平常な時に避難経路を歩いて確認したり防災マニュアルをちゃんと読むなどして 「万が一の時にそれが頭の中に出てくる」 よう心がけることが大切なのでしょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2011年10月10日)
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