働いたら負けかなと思ってる…華麗なる 「ニート」
「ニート」 とは、定職を持たず、また就職・就業のための訓練や教育を受けてない人たちを指す言葉です。 語源は1999年にイギリス政府が労働者の人口統計を取り調査報告書を作成した際に設けた労働者の類型のひとつで、「Not currently engaged in Employment, Education or Training」 の頭文字を取った造語 「NEET」 が元となっています。
この言葉、概念は、早くから日本でも紹介され、また日本の厚生労働省もこの概念を労働人口の内訳のひとつとして扱うなどの取り組みをしていましたが、当時日本はバブル崩壊後の極端な就職難、「就職氷河期」(1993年〜2005年) のピークのような時期でしたので、状況が違いすぎて一般ではあまり話題になりませんでした。
日本独自の精神論が付加され、書籍をきっかけに 「ニート」 が流行語に
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| ニート ―フリーターでもなく 失業者でもなく― |
その後2004年7月になり、東京大学社会科学研究所助教授で経済学者の玄田有史、フリーライター曲沼美恵との共著、「ニート ―フリーターでもなく失業者でもなく―」(幻冬舎/ 1,575円) の刊行、前述した厚生労働省の統計で、年々その数が増え続けている現状が知られることにより、「ニート」 の存在と言葉とが、大きく注目を集めることとなりました。
その際に、イギリスで生まれた本来の 「NEET」 には含まれない概念、「働く意思や意欲すらもない」 が日本独自に付け足され (本来は、「求職活動を行っていない」 という内容でした)、意味が大きく変容しています。 2005年以降はマスコミの偏った報道などにより、「働くことを拒否して、ただ自堕落に生きているだけの連中」 のようなニュアンスにすら、なっているといって良いでしょう。
なお年齢区分がイギリスと日本とでは大きく異なっており、イギリスでは16歳から18歳までの若者を指しますが、日本では 15歳から34歳までとなっています。 この言葉を生み出したのは、労働党ブレア政権下 (1994年7月21日〜2007年6月24日) のイギリスの内閣府、社会的排除防止局 (Social Exclusion Unit) でしたが、当のイギリスではその後ほとんど使われることがなく、むしろ2005年以降は、「日本のやる気のない若者」 を指す言葉として海外に伝播している状況もあります。
イギリスと日本とで年齢に大きな違いがあるのはなぜか
ところで、なぜ日本では15歳から34歳という年齢区分になったのでしょうか。
これは、日本の行政が労働人口の統計を取ったり分析をする際に、義務教育の終わる15歳から10歳刻みで労働者を年代区分し、「若者」 の定義を15歳〜24歳 + 25歳〜34歳の2区分としているからです。 1区分だけですと大学生 (18歳〜22歳程度) を含めると労働人口の割合が少なくなりすぎますし、3区分として44歳までとすると、「若者」 としては範囲が広くなりすぎます。 結果、「若者」 という カテゴリ では、15歳〜34歳がひとつの区切りとなっています。
この2区分の採用は、「フリーター」(フリーアルバイター/ 若年非正規雇用者) が注目を集めた 1987年に、当時の労働省が労働経済白書を取りまとめる中で定義づけた年齢区分となっていて、その後情勢の変化もありましたが、「若者の労働問題を考える場合に、30台前半までを視野に入れる必要がある」 とし、その意義を強調してそのまま踏襲しています。 また高齢者の年金受給開始年齢が60歳から65歳となり、高年齢者等雇用安定法の改正により 「定年」 も60歳から65歳になったことから、15歳から65歳までの5区分の年齢区分の前半2区分を 「若者」 とする定義は、今後も使われることになるのでしょう。
本来のイギリス流の分類方法なら、せいぜい 15歳〜24歳 程度の年代区分が相応しいのですが、日本に言葉と定義が伝わる中で、すでに行政段階で独自の解釈がすでに始まっていると思っても良いのでしょう。
「無職」 や 「プー太郎」「パラサイトシングル」 を経て…
こういった人たちを指す言葉としては、単なる 「無職」 のほか、無職ではなく働く気、労働意欲すらない人を指す言葉として 「プー太郎」 とか、多少オブラートに包んだ 「家事手伝い」「花嫁修業中」、古くは 「モラトリアム」(moratorium) などが日本でも元々ありました。 またそれらとは別に 引きこもり (ヒッキー) などの言葉もありましたし、言葉のカテゴリとしてはやや異なるものの、パラサイトシングル (Parasite single/ 寄生している未婚者) という言葉もありました。
1999年10月20日発売の書籍 「パラサイト・シングルの時代」(筑摩書房/ 山田昌弘) で提唱された 「パラサイトシングル」 は、一時期マスコミの 「甘ったれた若者批判」 にこぞって使われ話題となったものの、あまりの時代錯誤と所得格差問題などへの現状誤認が定義の中に満載で、しかも差別的なニュアンスもあるとして徹底した批判にさらされ、2000年代に入ってしばらくすると、ほぼ死語状態になっていました。
便利な差別的レッテルとして 「ニート」 多用
このような状況の中で新しく登場した言葉 「ニート」 は、為政者やマスコミにとっても、非常に便利な言葉だったのだと思います。 「働けない」 ではなく、自由意志で 「働かないのだ」 と定義することで、彼らに責任の全てを押し付けられるからです。
結果、「ニート」 という言葉は時代を読み解くキーワード・社会現象のひとつとしてマスコミから好んでクローズアップされるようになり、テレビ番組などで相次いで特集が組まれることになり、一種の流行語のようになったのでした (とりわけこの言葉が大きな注目を集めるきっかけとなったのは、「ニート」 を紹介するテレビ番組での、「ニート」 と称する若者の風貌と生活様式、および発言、働いたら負けかなと思ってる でした)。
その後この言葉は、DQN や 童貞 や 厨房、「ハゲ」、ゆとり などと並ぶ、ネット の中で他人を罵倒する際の常套句のようになり、すっかり定着することとなりました。
「ニート」、この先増えるのか、減るのか
ところで日本における 「ニート」 の年齢的な定義は、前述した通り 15歳から34歳までの若者を指します。 バブル崩壊によるいわゆる 「就職氷河期」 と呼ばれているのは 1993年から2005年くらいまでで、「氷河期世代」 はその頃に大学を卒業した人たちの世代となりますが、1993年に大学新卒 22歳の若者が35歳になるのは13年後、つまり2006年となります。
2004年頃から徐々に雇用情勢が良くなり、2006年には新卒に関してはほぼ回復。 一説には 「ニートが減った」「景気回復による就業環境の改善でニート激減」 なんていわれていますが、単に年齢が34歳を超えて、「ニート」 のカテゴリに入っていないだけ…なんて数も、結構あったりするんですね。 また雇用情勢が良くなったのは新卒だけで、氷河期世代 (非正規雇用で職歴がないまま30代になったような人たち) の雇用は依然厳しいままです。 昨今は 「格差社会」 なんてキーワードも叫ばれるようになっています。
一昔前まで、「ホームレスが新聞を読んでいる国は日本だけ」 なんて云われていました。 外国人が日本の国民全体の教育水準や識字率が高いことを驚く 「豊かな日本」 を象徴するようなエピソードとも云えますが、逆に云えばこれは、「新聞が読める人間ですら、ホームレスになりかねない状況だ」 とも云えます。
先を見通し計画を立てるのが 「経営」「経済政策」 のはずですが…
景気が悪くなったら人員カット、景気が良くなったら人員増加…なんて後追いの判断は、「経営」 とか 「経済対策」 などと呼びません。 そのくらいなら経営者や行政官、政治家がいなくても、エクセルの関数で簡単に、しかも正確無比に実施できます。 それとも低コストで人をかき集め、低コストで人の首を切るのが先見性のある 「優れた経営」「正しい経済政策」 なのでしょうか。
資源の乏しい島国日本が、焼け野原から世界の超大国に肩を並べる経済大国になれたのは、東西冷戦など日本側に有利に働く国際状況もあったのでしょうが、基本的には人的資源のおかげでしょう。 限られた仕事と人材を長期的な観点から割り振り、きちんと教育することをせずに、安価な労働力として使い捨てにするような国、国民を守らない国など、国家の体を成しているとは云い難いのではないかと思います。 しかしメーカーや民間企業に労働賃金を上げろと強い規制をかけるだけでは、「だったら安価な労働力を得られる海外に生産拠点を移そう」 となり、国内の労働環境は悪化してしまいます。
2008年になり、再び雇用情勢が悪化していますが、第二の氷河期世代を生まないために、英知を絞ってほしいものです。 「ニート」 の言葉の意味が変質し、同じ言葉が必ずしも同じ境遇にいる人を指すとは云い難いのですが、恐らく大半の 「自他共に認めるニート」 が、好きこのんでニートになっている訳ではないと思います。
こんなちっぽけな島国、狭い国で、負け組も勝ち組もありません。 何故なら税金や社会保険料、年金すら満足に払えない負け組とやらの尻拭いは、結局のところ勝ち組だと思っている人たちが、いずれ高い税金や治安の悪化によるコスト増で拭くことになるからです。
これからは 「ニート」 を 「レイブル」 と呼ぼう
社会的にニートが問題となる中、行政や行政の支援を受けたNPO法人や市民団体などが、様々な就業支援の手立てを講じています。 しかし一向に上向かず低調なままの景気、不透明な先行き (もちろん、先が明確な時代などありませんが) も手伝い、どれも効果を上げていないというのが現状でしょう。
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| 「大阪ニート100人会議」 |
2011年11月23日の勤労感謝の日、大阪府が主催する形で 「大阪ニート100人会議」 が開催。 かねてからニート、引きこもり状態の若者 (39歳以下) の支援と雇用機会創出のための取り組みを行なっていたNPO法人と協力した、新たな取り組みが始まりました。 その際、「大阪ニート100人会議」 という イベント のネーミングのインパクトもさることながら、その後 「これからはニートをレイブルと呼ぼう」 との提言も登場。
このニートの新呼称 「レイブル」 とは、「レイトブルーマー」(英語/ Late Bloomer) の略で、日本語では 「遅咲き」 との意味になります。 この呼びかけの中でニートを 「働く意思を持って行動を起こしているにもかかわらず、仕事に就けていない若者」 とし、「ニートは怠け者ではないのだ」 との問題提起をも行なっています。
マスコミが煽った負のレッテルとしてのニートを定義から再構築するのは意味があると思いますが、「単なる求職者でいいじゃないか」「余計な言葉を作ること自体、負のレッテルの再生産をしているだけだ」 との強い批判もあります。 それが単なる言葉の言い換え、言葉遊びとなって、「ニートは減ってレイブルは増えた」 にならないよう、実効力のある取り組みを心から期待したいものです。
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