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刑罰法規に触れる

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刑罰法規に触れる性行為… 「刑罰法規に触れる」 って何?

東京都青少年健全育成条例 公開された条例案
東京都青少年健全育成条例
公開された条例案

 「刑罰法規に触れる○○」 とは、日本の法律や条例により罪と罰が決められているもの、行為という意味です。 例えば人の物を盗むと窃盗罪になり、警察に捕まり裁判を受けて懲役や罰金などの処罰がされますが、これらのルールを取りきめて定めたものということになります。

 表現規制の場などでしばしば話題となる 「刑罰法規に触れる性行為」 と云えば、刑法により禁じられている強姦などの性犯罪や、地方自治体などの条例による18歳未満の未成年との淫らな行為、性行為 (淫行) やその類似行為、強制わいせつや痴漢などの性犯罪となります。

 「性行為」 ではなく、単に 「刑罰法規に触れる行為」 とした場合は、法律で違法とされ罪とされるあらゆる行為 (暴力や殺人などの凶悪犯罪から、道路交通法で禁じられている駐車違反や迷惑条例などで禁じられている大声を出すまで) が、これに含まれるケースもあります。

 何らかの好ましからざる行為が行われ、それで被害や迷惑を受けた人がいたとしても、それが法律で罪とされていなければ、違法でなく、取り締まりもできません。 この場合は、「刑罰法規に触れていない」 という状態になります。 逆にきちんと法律や条例で罪と罰が定められていても、警察が適切な捜査を行わなかったり、野放しになるなどして罪を決められず処罰できなければ、「刑罰法規が機能していない」 という状態になります。

2010年、東京都の青少年健全育成条例で 「刑罰法規に触れる性行為」 が登場

刑罰法規に触れる性行為って?
東京都のいう 「刑罰法規に触れる性行為」 って?

 この 「刑罰法規に触れる○○」 という言葉が 同人ネット の世界で大きく注目を集めるようになったのは、2010年11月22日からです。

 2010年2月にネットで紹介された、東京都の 青少年健全育成条例 の改正案において、アダルト要素のある作品 (いわゆる 有害図書有害コミック など) の ゾーニング (閲覧・販売の区分) や 表現規制が焦点となる中、マンガアニメゲーム などに登場する空想上、架空の キャラクター に未成年や年齢の概念を取り入れた 非実在青少年 という言葉が登場。

 こうした無意味であやふやな定義を前提とした規制は、結果として過剰な表現規制を招きかねないとして、大きな批判が巻き起こっていました。 結果、同条例案は審議の先延ばしをした後、6月に否決され一旦廃案に。 その後も再提出の時期がズレ込むなどしましたが、同年11月に内容を一部変更して再び改正案としてまとめられ、12月に都議会で審議に掛けられることになりました。 相変わらず採決直前の提出で、情報周知も一切行われない密室的なやり方でした。

 その際、前条例案でとりわけ批判の声が高かった 「非実在青少年」 という表現は削除されたのですが、その代わりに新しく登場したのがこの 「刑罰法規に触れる性行為」 という表現なのでした。

2010年12月改正案の当該条例案部分

一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの。

二 漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの。

実質的に同じ内容の言い換え…しかも範囲はより拡大することに

 この条例改正案の 「刑罰法規」 とは、淫行条例 (未成年と淫らな行為、あるいは性行為を行うことを禁じる条例) が念頭にあり、要するに内容的には 「非実在青少年」 と同じ、ただの言葉の言い換えなのですが、直接的な年齢に対するニュアンスを用語から排除したことにより、逆に 「成年同士の性行為であっても、法律に触れる行為を行う表現があれば規制の対象となりうる」 という、定義がよりあやふやになり、範囲がますます広がる結果となってしましました。

 さらに法律で禁じられておらず個々人の良心、モラルの問題である、いわゆる近親相姦 (インセスト・タブー/ Incest Taboo) などの表現については、「婚姻を禁止されている近親者間の性行為」 という表現で、やはり規制すべしとしています。

 ところで実際に犯罪を起こすことと、犯罪を行っている表現を想像で描くこととは、法や条例で同じように禁止したり規制すべきことなのでしょうか。 アニメやマンガに限らず、映画や小説ではこれ以上ない凶悪犯罪であり人権侵害行為である 「殺人」 の描写などがたくさんあります。 しかし現実の殺人事件には命を奪われる被害者が存在しますが、創作物にはそれはあり得ません。 これではまるで、「非実在青少年」 から 「非実在犯罪」 に規制のお題目が変わっただけです。 あげく定義はよりあやふやになり、恣意的取り締まりの可能性が増える可能性が増大しています。

 もちろん誰かの名誉を著しく損なう表現や、爆弾や毒物など犯罪にしか使えない道具の作り方を詳細に説明した作品などは、その作品自体に問題があると思われますが、作品それ自体が誰かの人権を奪うものでない以上、「刑罰法規に触れる行為の描写はダメ」 は、さすがに行きすぎでしょう。 現実の殺人や窃盗は忌むべき存在ですが、それを空想の創作物として描くことを規制してしまっては、世の中に出回っている多くの創作物がダメになってしまいます。

「マンガ」 と 「アニメ」 を狙い撃ち

 なお条例案にはわざわざ 「実写を除く」 とあります。

 これはヌードグラビアが掲載された駅やコンビニ売りの週刊誌やスポーツ新聞などが念頭にあると思われますが、ここまであからさまにマンガやアニメだけをターゲットにした条例案も珍しいでしょう。 「その他」 の部分も、「CG やゲーム」 を想定しているとの明確な審議答弁がありました。 2010年11月29日に行なわれた 「私たち漫画家は、都青少年育成条例に断固反対します!」 記者会見では、「漫画やアニメを狙い撃ちにしている」 と強く批判しています。

 また 「小説」 などの文章表現も除いた条例となっていますが、これについて都青少年治安対策本部の浅川英夫参事は、「小説は読む人によって様々な理解がある。その点、漫画やアニメは誰が見ても読んでも同じで一つの理解しかできない」 との、驚くべき都側の見解を述べています。 筆者はこの意見が正しいとは全く思いませんが、仮に正しいとしても、ではどうして 「実写を除くのか」 との整合性もなく、「とにかく漫画とアニメを規制するんだ」 との都側の決意がわかる内容ともなっています。

 ちなみに規制を推進している東京都知事の石原慎太郎氏は、かつて 「行きずりの女性を拉致し強姦輪姦して殺す」 といった過激な性描写のある小説を発表しています。 これらの作品は18禁でもなければ区分陳列もされていませんが、「小説を除外したのは文学を規制することへのためらいの他にも、石原氏個人への反論を封じる狙いもあったのではないか」 との疑惑も招く事態となっています。

「ギリシャ神話」「古事記」「源氏物語」 はどうなる…? 混乱する表現の最前線

 近親相姦を忌むべきものと考える人は多く、それが現代の日本人の一般的なモラルであるとの意見があります。 これはおそらく、その通りでしょう。 しかしそれは現実に行うことについて問題があるのであって、例えば源氏物語のコミック版や、ヨーロッパの王侯貴族の物語、クレオパトラはじめ世界中の偉人の多くに近親相姦や近親婚があり、規制のレベルによってはそれらを描くのはダメになってしまうのかとの懸念もあります。

 現在の価値観やモラル、あるいは法律にそぐわない内容がダメなら、歴史物など描けなくなってしまいます。 18歳未満と性行為を行うことは、現代では淫行となり違法ですが、それは戦後になって決まったことで、それ以前は罪も罰もありませんでした。 戦国時代や昭和初期を描いた物語を、平成の法律で制限すべきでしょうか。

「何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」 部分は改善

 なお一部には評価すべき改善点もあります。 筆者が前回の条例案で非常に危惧していた、創作物の 単純所持禁止 に繋がりかねない児童ポルノの根絶等についての部分、「何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」 が、今回は 「都民は、児童ポルノを根絶することについて理解を深め、その実現に向けた自主的な取組に努めるものとする」 になっています。

 この条例案は2009年に国会で廃案となった 児童ポルノ法 における単純所持禁止と無縁ではありません (前回の改正案を取りまとめる議事録にもしっかり出てきます)。 都の条例で 「都民」 ではなく 「何人」 と表現して、罰則なしの努力規定ながら、所持を明確に制限するような文言を条例にいれるのは非常に危険で、将来の国の法規制に繋げるための地ならしだとしか思えませんでした。

対策は行われているのに、規制派の野放し主張は昔から変わらない謎

 子供に見せないためのゾーニングや有害図書指定の仕組みはすでにあり、自主規制 も行われています。 規制を推進している人たちは、しばしば 「コンビニや書店に児童ポルノが並んでいる」「アダルトコミックを子供が自由に手に取って見ることができる状態だ、野放しだ、蔓延している」 などと主張しています。 しかしアダルト要素のある書籍は段階的に強い自主規制対策が実施されています。

 1996年からの 成年コミックマーク から始まり、2010年の現在ではその多くが区分陳列され、さらに雑誌一冊一冊に小口シール留めがされていて、子供が立ち読みで本を開くことなど出来ません。 ページを開いて中身を見るためには、レジで年齢認証を終えて購入しなければならないのです。

 こうした対応は、出版社などが膨大な費用 (1冊あたり30円) をかけ、月間およそ2,000万冊、年間2億4,000万冊もの雑誌類で出荷の度に施しています。 また書店や一部コンビニは、一般向けのマンガ単行本でもビニールで覆って販売しています。

 規制を推進、あるいは賛成している人たちは、コンビニや書店でアダルト雑誌やアダルトマンガ本を実際に手に取って現状の対策を確かめたことが本当にあるのでしょうか? 思い込みや昔の記憶のまま止まっていませんか? 別にアダルト雑誌やアダルト漫画は 「野放し」 になどなっていません。 また出版社側の自主規制から漏れて一般向け雑誌に仮に不適切な内容があるのであれば、これまで通り既存の条例で有害図書指定すれば良いだけです。 それをせず、「子供に見せないために」 を方便に、あやふやな基準で網羅的な規制を条例で定めて自治体が行うことに問題はないのでしょうか。

 膨大な出版物が出ていますから、ごく一部に不適切な内容のものが一般雑誌に入ることもあるのでしょうが、それが堂々とコンビニで立ち読みができる状態で大量に陳列されているのを、筆者は東京で見たことがありません。 規制賛成派はどこのコンビニで、どのエロマンガが一般書棚に大量に並び、誰でも見れるよう販売されていたのを見たのでしょうか。 そしてそれは、規制派がいう 「蔓延している」 という状態だったのでしょうか。

 「コミック出版社の自主規制が不十分だったから行政による規制を招いた」 と主張する人もいますが、コミックなど出版物とはケタ違いに厳しい自主規制が行われていたゲームも、今回一括で規制対象とされています。 これはどう説明するのでしょうか。

 「不当に賛美し又は誇張」 とありますが、誰が不当か正当かの判断を、合理的に行うのでしょうか。 逆に 「刑罰法規に触れる」 とされているのに、「正当な賛美」「適切な誇張」 などが、ありえるのでしょうか。 「児童ポルノ法」 の 「単純所持禁止」 の問題もそうですが、良く分からない聞く者の錯誤を狙うような紛らわしい名前の言葉を新しく作って 「とにかく規制すべし」 では、納得できる人は少ないのではないでしょうか。

子供を守るのは親の責任、家庭の責任です

 子供を守るのは親の責任、大人の責任、そして家庭の責任です。 ひいては行政の責任であり国や自治体の責任でもあるでしょうが、家庭がその役割を行政に判断基準ごと丸投げするのでは本末転倒です。 個々の家庭に権力が入り込むこと、個々の家庭の教育や育児に権力が入り込むことについて、もう少し慎重であって欲しいと思います。 そして行政がやるべきは規制ではなく、支援であるべきです。

 育児放棄や児童虐待で、1年間に命を落とす児童が全国で100人以上もいます。 乳幼児の場合は事件化することも少なく、実数はもっと多いとも云われますし、死亡にまでは至らないものの、心身に深い傷を負う児童の数は、その数十倍とも云われます。 またそもそも、児童への性的虐待や児童性犯罪の多くが、家庭内で起こっています。 児童の安全を脅かしているのは、何よりも親の子供への無関心ではないのでしょうか。

 家庭内の育児放棄や虐待を、警察や児童福祉関連の担当行政部署は、「児童福祉法」 や 「児童虐待防止法」 により規制されているにも関わらず、「児童の健全育成は、第一義的には親の責任だ」「公権力が家庭内に力づくで入るのは難しい」 と二の足を踏み、予算不足だ人員不足だと主張して、毎年100人以上死んでゆく子供たちを放置しています。 それはひとつの厳しい現実ではあるのでしょう。

 しかしその一方、どうして 「マンガ」 や 「アニメ」 の規制だけは、頼まれてもいないのに (東京都への各種苦情は年間15万件に達しますが、そのうちアダルトコミック関連の苦情は、わずか20件前後ほどです)、政治家や一部団体が署名まで集めて、そそくさと規制しようとするのでしょうか。 大勢子供が死ぬ家庭内の児童虐待は 「家庭の問題だ」 と放置しておいて、なぜマンガやアニメの規制だけは、「家庭には任せていられない」「民間の取り組みを待ってられない」 と積極的に乗り出して、業界団体との対話も拒否し、一方的に決めようとするのでしょうか。

 目的が他にある。 そう思われても仕方がないのではありませんか?

出版社や読者らの反対意見が多数ある中、可決成立に

コミック10社会
秋田書店
角川書店
講談社
集英社
小学館
少年画報社
新潮社
白泉社
双葉社
リイド社

 結局この条例案は、2010年12月13日に与野党の都議会総務委員会で合意がなされ、出版業界や漫画家らの激しい反発にも関わらず、15日の本会議で可決、成立しました。

 6月の段階で反対していた最大会派の民主党が賛成に回ったのが大きく、「作品の芸術性などをくみ取り慎重に運用する、検討時間を十分に確保する」 との付帯決議はついたものの、同党幹部は 「反対の声が大きいのは承知しているが、子を持つ親ら、声無き多数派を配慮し賛成した」 と述べています。

 その間、出版社や出版倫理協議会をはじめとする各種業界団体、漫画家やその団体などが反対を表明し、この条例案を可決しないこと、廃案とすることを求めた陳情も300件あまりも行われ、反対集会やデモも行われました。 中でもコミック出版社大手10社で作る 「コミック10社会」 は、角川書店が先鞭を付ける形で、毎年春に開催され来年で10回目となる、「東京国際アニメフェア」 2011 への参加や一切の協力を拒否するとの声明を12月10日に発表しました。 集英社をはじめ、自社出版物が原作となりアニメ化されたアニメやキャラ作品の出品も拒否する方針で、都の対応に強く抗議しています。

 これに対し、規制を推し進め、「東京国際アニメフェア」 の実行委員長でもある石原慎太郎都知事は、「(アニメフェアに) 来なきゃいいよ、そんな連中は来なくて結構だよ」「来年吠えづらかいて来るよ」 と批判。 かねてからこの条例に関して漫画や漫画家、漫画雑誌社や性的マイノリティに対する侮蔑的で差別的な暴言を吐きまくっていた都知事でしたが、条例を求めた東京都青少年問題協議会での協議員の数々の差別的発言と共に、話し合うつもりもなく、まともな議論もしないまま条例改正を押し通す姿勢は、強く批判されるものでしょう。

 また2010年12月22日には、画家らで作る 「日本漫画家協会」「21世紀のコミック作家の会」「マンガジャパン」 の3団体が連名で、この条例に強く反対と抗議の声を挙げています。 この条例は今後段階的に民間の自主規制への取り組みを求めながら、2011年7月に施行されます。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2010年11月28日)
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