同人用語の基礎知識

非実在青少年

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架空のキャラを守ると現実の青少年も守れる? 「非実在青少年」

「非実在青少年」
出版や放送事業者が集中する
東京都での規制は、全国に
大きな影響を及ぼす可能性が

 「非実在青少年」 とは、文字や図案、音声などにより未成年 (18歳未満) と認識することが可能な マンガアニメゲーム などに登場する空想上、架空の キャラクター のことです。 東京都の青少年健全育成関連部会による造語で、「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案」 において公式に初めて登場しました。

 文字通りの 「実在しない青少年」 という意味になりますが、同条例改正案の第三章 「不健全な図書類等の販売等の規制」 第七条では、次のように規定されています。

年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの

 同条文ではこうしたものを 「非実在青少年」 とし、その上で、

(これら)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

 を 「不健全図書」 とし青少年への提供を禁じると共に、罰則なし、努力規定ながら、成人を含め広く都民がこれらの図書の 単純所持の禁止 に励むよう、規制するとしています。

 つまり未成年の記号としてよく使われ、見たものが未成年を想起する可能性のある セーラー服 などの学生服を着用していたり、未成年っぽく見える絵柄 の や声を持つキャラクターが、画面上でエッチなことをする創作物は一括して全て規制しましょう、未成年だけでなく、大人であっても持つことをやめるよう努力しましょうという条例改正の、規制基準ともいえる概念と言葉になります。

 なおこの時の条例案は6月に提出されたものの、否決され結局廃案。 その後、同年9月に提出とされましたが延期となり、12月になって、今度は 刑罰法規に触れる との文言を規制対象とし、「非実在青少年」 という言葉はなくなりました (後述します)。

本来の青少年健全育成条例の意義から大きく踏み出した規制案

青少年健全育成条例とは?
各地方自治体がそれぞれに設けている罰則付きの条例で、青少年の健全育成にとって有害なもの (だと思われるもの) を規制する為のものです。
 
具体的に何を規制するのかは、知事などが設置する 「青少年健全育成審議会」 で答申されます。
東京都青少年健全育成審議会とは?
東京都 (知事) が 「東京都青少年の健全な育成に関する条例」 第18条の2の規定に基づいて、図書や映画、玩具や刃物などの推奨や規制のための不健全指定、措置命令をする際、世論の代表としてその可否の審議を行い、意見を述べる機関です。
 
各種業界団体、青少年の保護者、市民団体の代表や学識経験者、各会派の都議会議員、および行政機関や都職員らによって構成されています。
東京都青少年問題協議会とは?
東京都 (知事) が会長となり、各会派の都議会議員、都下の区長、市長や学識経験者、関係行政庁と都職員によって構成される組織です。
 
知事直轄で強い影響力を持ち、上で述べた 「審議会」 が定められた 「東京都青少年の健全な育成に関する条例」 に沿って運用の可否を行う実務者組織だとすると、こちらの 「審議会」 は、「条例」 そのものの素案を作ったり、改正するための提言をまとめるなどの諮問機関となります。

 本来の 青少年健全育成条例 においては、アダルト要素のある作品 (いわゆる 有害図書有害コミック など) の取り扱いは、「青少年の健全な人格形成に有害」 であるから、大人や事業者の責任において、未成年者に見せたり販売するのはやめましょう、きちんと ゾーニング (閲覧・販売の区分) をしましょうとなっています。

 この改正案ではさらに一歩踏み込み、前述の通り成年あるいは販売業者であっても、未成年への販売規制の有無以前に、「創作物の単純所持をすること」 も努力目標としてやめましょうという極めて特異な主張 (何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する) が入っているのが特徴です。

 また本来の 「有害図書」 の概念では、「非実在青少年」 という概念以前に、セックス描写などのアダルト要素そのものがすでに未成年者への販売・提供が禁じられていますから、ことさらにアダルト要素の個別的な詳細にまで触れて、二重三重に規制するケースはあまりありませんでした。

 この改正案では、アダルト要素の中でも 「非実在青少年」 の性的描写や不良行動に焦点を当て、これを特に強く取り締まるべき重要なものと規定。 さらにアニメやマンガ、ゲームだけでなく、インターネットフィルタリング も含め、青少年が触れる可能性のある情報インフラ全てに関わる大きな規制強化としています。

 実在の未成年者と違い、架空のキャラクターに戸籍や年齢はありません。 作者がいくら 「このキャラは20歳なんです」「設定では1万歳なんです」 と主張したところで、見た目が子供っぽく見える、未成年者に見えると規制する側が思ったら、「これは非実在青少年だから規制します」 が通ってしまうことになります。

 もちろん現時点では規制の対象となっても、青少年保護条例ですから、未成年者への販売が改めて明文化されて禁止されるだけの話です (成人コーナーへの区分陳列の該当作品に指定されるだけ)。

 発禁処分のような書籍類の発行そのものが規制されるわけではなく、あくまで販売方法や販売場所を決める従来通りのものですが、いわゆる 18禁 ものと違い、行政から不健全図書指定されたものは、書店や ネット の通販などの商業流通に乗りづらくなってしまうという問題がありますし、それがこれまでと異なる基準で行われるのは、わざわざ改正するのですから当然でしょう。 また努力目標となっている単純所持禁止も、いつ罰則ありの規制になるか分かりません。

 「架空のキャラに年齢はない」 にも関わらず、ことさらに 「青少年」「未成年」 を全面に出して反対しにくい雰囲気を作りながら、結果的に全ての 「創作物」 を網羅的に規制する足がかりになりかねない、出版社や漫画家、表現者らが萎縮し、行き過ぎた強い 自主規制 を招き自由な表現が阻害されるとの漠然とした不安は、誰しもが持つものでしょう。 さらに 神田神保町中野ブロードウェイ などに集まっている古書店などが所持・所蔵している文化財とも云うべき過去の作品群が、これをキッカケに膨大に失われる可能性もあります。

「青少年のあるべき姿」 を法的に規定、反するものは摘発します?

 条例改正ですから当然なのですが、「青少年の健全な育成」 を再確認し、「非実在青少年」 の創作物への登場を 「そうした行為を是としかねないもの」 とし、改めて規制の根拠としている点も特徴です。

 何も性的な描写だけではなく、「残虐性の助長を招く描写」「自殺や犯罪の誘発を招く描写」 など、「不健全」 とされる項目は従来から多岐にわたっていますが、これらを 「非実在青少年」 と絡め、再度強調しています。 個別的、多岐に項目がわたっていながら、相変わらずそれぞれの基準や定義はあいまいなままで、何を持って架空の登場キャラクターを 「非実在青少年」(未成年) とするのか、何を持って規制すべき不健全、過激な描写にするのかなどの詳細は、一切明文化されていません。

 後日、反対運動の盛り上がりの中で、都の担当者がマスコミ取材に応じ、「これまでの規制となんら変わらない」「18歳未満と判断するのは ランドセル や制服、教室などが明らかに描写されている場合」「性行為もセックスや強姦、近親相姦などだけ」 などの個別基準を発言、報道されましたが、条文に明文化されない以上、何の意味もありません。 せいぜい2年ほどでその部署からいなくなる単なる担当者へのインタビューなど、何の拘束力もありませんし、法的な裏づけにもなりません。

 またそもそも、いち都職員、警察官の判断で規制範囲が変わるような危険な条例など、法治国家では本来あってはならないことですし、「何も変わらない」 のなら、「条例改正」 の理由のひとつ、「このままでは青少年に有害な作品の規制が行えないので改正します」 と矛盾しています。

 もちろん条例の根拠となる 「青少年を有害な情報から守る」 の、「有害な情報に触れることにより青少年が受ける被害や悪影響」 の科学的なデータ、因果関係などの統計や根拠などは、これらの法規制や条例でいつもそうであるように、一切提示されていません。 協議会や審議会で意見を述べた 「学識経験者」 や 「有識者」 の答申によるとのお題目だけです。 それではその 「学識経験者」 や 「有識者」 らはどのような人物で、協議や部会でどのような意見交換を行って、こうした結論を導いたのでしょうか。

前年の国会の児ポ法審議、東京都の協議会専門部会とパブリックコメント、一連の流れ

第28期東京都青少年問題
協議会第8回専門部会
2009年年7月9日

 2010年2月末から3月にかけて大騒ぎとなったこの条例改正案と 「非実在青少年」 の問題には、実は前段があります。

 2009年6月26日に国会の法務委員会で、架空のキャラクターの規制に向けての調査と、単純所持の禁止が盛り込まれた 児童ポルノ法 の改正案が審議され、その後廃案となりましたが、その直後に東京都庁の特別会議室で開かれた協議会の部会の様子が、大きな話題となっていました。

 東京都ではこの国会審議の内容を強く踏まえた上で東京都の青少年問題協議会の専門部会 (専門部会長/ 首都大学東京 前田雅英教授) により協議 (いわゆる規制推進派とされる人物や団体が深く関与していた) の第八回が行われ (7月9日)、また都民の声を聞くためのパブリックコメント (パブコメ/ 11月26日〜12月10日) の募集と、その結果の発表がありました。

 部会の様子は東京都の公式サイトなどでpdfファイルの形で公開されましたが、とりわけ大葉ナナコ委員と新谷珠恵委員の発言が注目を集めました。

■ 大葉ナナコ協議会委員
「酷い漫画の愛好者達はある障害を持っている」「彼らは認知障害を起しているという見方を主流化する必要がある」「彼らに認知障害があり、暴力的だという事が分かっていれば、証拠が無いのに法規制出来るのかという主張を論破出来る」「生育歴とか、神経伝達物質とか、どんな症状があるのかということで、医学的な面からも、そういった人たちの属性を明らかに」「不潔で気持ち悪いし本当に嫌だけどあるよねというところが現状、育児をしている者たちのリアリティで実感」「漫画家たちが議論を持ってきて攻撃する、どう考えても暴力で、エビデンス (科学的根拠) を出す必要もないくらい暴力」

■ 新谷珠恵協議会委員
「漫画家団体に対して説明や調査データを示す必要も無いくらい規制は当たり前の事」「今回はアニメ、漫画に特化していますので、文学として性表現がどうのこうのということと全く違うと思います」「雑誌・図書業界の為にも、きちんとした規制をしてあげる事が、悪質な出版社が淘汰されていくという事にもなる」「何で実在しない児童だと許されるのか全く理解できない。これは女性蔑視と同じだ」「細かい議論が沢山あると思うが、何で反論している人の事まで考えなきゃいけないのか」「マイノリティ (少数派) に配慮し過ぎた挙句、当たり前の事が否定されて通らないというのはどうしても納得できない」

まるで 「私が見たくないものは規制します」 といわんばかりの議論

退廃芸術狩りとは?
1930年代を中心に、ナチスドイツによって行われた、芸術運動のひとつ。 「不健康・不道徳・反社会的な芸術を好むものは、脳や精神、遺伝子に異常や欠陥のある生まれながらの犯罪者であり、排除しなくてはならない」 とした。
 
古典的・保守的な画風の絵画を保護する一方、印象派をはじめ近代的絵画やその画家 (ゴッホやセザンヌ、ムンク、マルク、シーレ、あるいはダダやピカソの影響を受けた画家 など) を文化や社会を堕落・腐敗させるものとして激しく弾圧。 一部の作品は焚書されたり、国外流出の後に所在が不明となっている。
 
なおここでいう 「不健康・不道徳・反社会的」 とは、当然ながら規制する側である彼らナチスドイツにとっての 「不健康・不道徳・反社会的」 なものであって、普遍的な価値ではない。
 
こうした抽象的で耳障りのよい言葉は、聞くものが 「自分にとっての不健康・不道徳・反社会的なもの」 を言葉から連想して 「自分とは関係がない」「規制は当然だ」 と思い込みやすい。
優生学とは?
人間の血統や遺伝子に優劣をつけ、社会的、人工的に手を加えることで、「より優れた人間、社会を作ろう」 とする考え方。
 
家畜や植物の交配や、進化論などの考え方がベースとなり、「天才的頭脳を持つ人間や、身体が屈強な優れた人間をつくる」、ひいては 「強くて優れた民族による国家をつくる」 ことを目指した。
 
しかしその結果、「劣った血統や遺伝子、民族は無用どころか人類にとって害悪であるから、根絶やしにしなくてはならない」 という考えを導くこととなり、ナチスドイツのユダヤ人絶滅政策・民族浄化などの論拠とされた。
 
なおユダヤ人が劣った血統や遺伝子を持ち、絶滅させられて当然の忌むべき民族であるのは、ナチスの宣伝によれば 「歴史的・科学的根拠を示す必要がないくらい、当たり前の話」 とされた。

 これらの主張はあまりに乱暴なものでしょう。

 委員らの発言を見ると、まるで退廃芸術狩りを行ったナチスドイツばりの優生学的な時代遅れの差別論とも思えるもので、科学的根拠は一切ないが、それでもどうやったら規制できるのかとの意見に終始するものでした。

 また国会で規制強化の必要性を参考人として述べたアグネス・チャン氏らの主張を手放しで絶賛し (「アグネス氏の理路整然とした主張に規制反対派は反論すらできなかった」…などという趣旨の、事実と異なる驚くべき発言もありました)、児童ポルノ法改正案と同等のものが必要との認識である程度一致した協議ともなっていました。

 これら部会の議事録のうち、一部の発言はピックアップされ、文章テンプレートとして規制に反対している人たち、慎重な立場を取る人たちの手により 掲示板ブログTwitter などで流布。

 情報共有されネット上で強く批判されていて、「規制を推進している人たちが、いったいどういう人たちなのかがよくわかる」「廃案となった国の児ポ法改正案を、地方自治体の都で実現するものではないか」 との懸念が、巻き起こっていたのでした。

 なお時系列が前後しますが、規制案の可決成立前後に、協議会の座長でもある石原慎太郎都知事も、「(同性愛者は) どこかやっぱり足りない感じがする。 遺伝とかのせいでしょう。 マイノリティーで気の毒ですよ」(12月7日記者会見で)、「世の中には変態ってやっぱりいる。 気の毒な人で、DNAが狂っていて。 やっぱりアブノーマル」(12月17日記者会見で) など、差別的な発言を繰り返しています。

業界団体や、都民、国民らの反対意見も一顧だにしない結論

 また全国から 1,581通集まったパブコメの発表も、全体の8割が規制に反対の意見、賛成は1割にも満たなかったにも関わらず、規制反対、慎重論の意見は逐一全てに強い反論がされ否定。

 都民や全国の市民だけでなく、一方の当事者でもある書籍出版協会・雑誌協会、日本出版労働組合連合会などが出した反対意見も黙殺。 逆に、ごくわずかな規制推進意見を全肯定し尊重するものとなっていました。

第28期東京都青少年問題協議会
答申素案及び都民代表の募集に
ついて」 の結果概要

 これも、2007年9月13日〜23日に実施され10月に発表された児ポ法改正案に関する内閣府の世論調査 (国民の9割以上が単純所持禁止やマンガやアニメの規制に賛成したとの調査報告) と不透明なやり方が同じ、恣意的な情報操作ではないかとの懸念がありました。

 事実誤認と非科学的な印象論、差別的で排他的なだけの提言と、都民や国民、市民らの意見など一切聞きませんといわんばかりの態度。 これらのいきさつが前年から年明けにすでにあり、実際の条例改正案や 「非実在青少年」 なる概念が2010年春に出る前から、マンガやアニメ、ゲームなどの規制問題に注目している人たちの間で、東京都の大きな問題として話題となっていたのですね。

 元々東京都では、出版社などが集中していることもあり、この種の規制は 「自制的」 に運用されてきたとの印象を多くの人が持っていました。 しかし今回の規制案では東京都側が情報開示や周知活動を怠り、ネット上に情報が出た時点では可決成立が間近というタイミングであったことも、「こっそり知らない間に通そうとしたのではないか」「これまでの信頼を裏切るものだ」 との、強い疑念を持たせるものでした。 

なぜ、いち地方自治体である東京都の規制問題がこれほど重要なのか

山田啓二のチャレンジ
マニフェスト(京都府)
「青少年を性的対象として扱う
図書類の実態把握・分析を
行います」(大阪府)

 東京都がこれほどまでに注目を集めるのは、数多くの出版社や元売り会社 (取次会社)、テレビラジオのキー放送局、大手ゲーム制作会社などが集中し、人口がもっとも大きな自治体であること、秋葉原乙女ロード、世界最大の古書店街である 「神田神保町」 の存在や、コミケ が開催される 東京ビッグサイト などの存在などが、分かりやすい直接の要因となっています。

 しかし問題はそれだけに留まりません。 と云いますのは、しばしば東京都などが先鞭をつけた規制が、「都がやっているのなら、こちらの自治体でも」 とか、「自治体が取り組んでいるのに国が放置するわけにはいかない」 と、他の自治体や国家レベルでの規制強化の根拠にされるケースが多いからです。

 こうした規制は、行政などの 「横並び体質」 などもあり、波及しやすいものです。 また規制推進をはかる団体などが、同時に複数の自治体に働きかけるケースが多く、同じような時期に集中して規制強化の条例案や調査が始まるという特徴もあります。

 事実東京都の問題と前後して、現職の山田啓二京都府知事が知事選に向けたマニフェストで、「(京都で) 日本で一番厳しい 「児童ポルノ規制条例」 をつくります」 と宣言 (同年3月19日)。

 その後大阪府も類似の規制を行うための検討や調査、パブリックコメントの募集 (同3月25日、「青少年を性的対象として扱う図書類の実態把握・分析を行います」 の中で、実在、非実在を問わず、とくに女性向けコミック誌の規制、ボーイズラブ の規制検討を明記) などを相次いで開始。

 埼玉県では、青少年が携帯電話などによりネット上の有害情報を閲覧することを防止するため、保護者や事業者に義務を課し、フィルタリングを解除するには保護者が 「理由書」 の提出をしなくてはならないとの条例改正案が審議される (3月26日、類似の規制は兵庫県がすでに実施している) など、日本中で規制強化の火の手があがる状況となっています。

東京都による不合理な規制強化に反対の声が噴出…採決は延期へ

『非実在青少年』規制を考える
『非実在青少年』規制を考える
と題した集会の反対アピール
ニコニコ動画などで中継された

 翌2010年になり、「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案」 が登場。 しかしマスコミが報道することはなく、サイト上にも掲載されず、市民が都議会図書館で文書閲覧、複写請求して入手、2月27日にネット上の ブログ に公開したものでした。

 「非実在青少年」 という言葉が広まり、ネットやそれ以外の場で強い反対運動が巻き起こったのはこれ以降となりますが、審議入りが目前に迫っていたこともあり、予断を許さない状況となっていました。

 その後、出版社や書籍流通、印刷、IT関連企業など、数多くの業界団体や人権団体、マンガ家やクリエーターが反対を表明。 3月19日採決の予定だった改正案は、「周知ができていなかった」「十分な審議が尽くせない」 との理由で、同年6月1日まで審議の先送りとなりました。

 今回規制推進を図ったのは、協議会の 「規制反対派にはおなじみのいつもの団体と人物」 と、都議会の自民党・公明党議員でしたが、慎重派、反対派の民主党内部にも推進派はいますし (自民に慎重派もいます)、日本ユニセフ協会や各種団体などは、都議会で議席数を伸ばし、国政でも政権与党となった民主党に強力なロビー活動を行っているとの情報もあります。

 まだまだ予断を許さない危険な状況と云ってよいでしょう。

「非実在青少年規制」 と 「条例改正案」 の問題点のポイント

■ すでに民間が自主的に十分な対策を行っている

 改正以前の条例でも、性的表現や青少年の人格形成に有害とされる図書類の未成年への提供はすでに禁止されているし、性的行為を描いた作品は実写であってもマンガであっても、あるいは被写体が成年であっても未成年であっても、「ゾーニング」(書店などでの区分陳列や、本をビニールで覆って中身が見えないようにするなど) の対象となり、規制や業界側の自主規制、対策が行われている。

 また仮にその範囲に含まれない作品、自主規制が不十分な作品類があったとしても、現行の条例に基づく措置命令によって個別に規制することが可能となっている。 すでに規制されているものの中から、とくに 「非実在青少年」 をわざわざピックアップして 「再規制」 するのはなぜなのか。

■ 児童ポルノが規制されるのは被害者がいるからではないのか

 児童ポルノ とは、現実の児童の性的被害によってのみ作られた成果物、製造過程に犯罪行為を必須とする映像や画像、音声、及びその加工物 (すなわち 児童虐待画像・動画) なのであって、被害者がおらず、実在の児童を必要とせず、犯罪行為を伴わずに全てを想像、空想して描いた架空のマンガやアニメ、ゲームは、そもそも児童ポルノではない。

 マンガ類を 擬似児童ポルノ とか、「マンガ児童ポルノ」 という名称で呼ぶこと、それらを児童ポルノなみに規制せよとの主張には、なんら妥当性がない。 児童ポルノが禁止されてしかるべき存在なのは、被害者である児童の人権を守るためであって、マンガやアニメ、ゲームには被害者は存在せず、また法や条例で規制するための根拠となる保護法益も原則として存在しない。

■ すでに規制されているものを二重に規制するのはなぜか

 青少年が有害な図書を手にすることがないよう規制するのが 「青少年健全育成条例」 なのに、その青少年がすでに手にすることが制度上ない著作物の 「中身」 を、「非実在青少年」 などという言葉を作り 「児童ポルノ問題」 とことさらにリンクさせているのはなぜなのか。 聞くものの 「錯誤」 を狙っていないか。

■ 青少年を守るためではなく、成年の自己モラルを問うのはなぜか

 努力目標とはいえ、成年がこれらの作品の単純所持を行うことを咎める内容が含まれているのはなぜか。 青少年健全育成条例は、「判断力の未熟な青少年に代わり、大人が有害な情報から青少年を守るため」 のものなのに、その大人の側に 「こうした著作物を持たないようにすべき」 とする根拠はなんなのか。 趣旨から逸脱すると同時に、公権力による 「思想・良心の自由」 を侵すものではないのか。

■ 日本における放送出版の中枢である東京でなぜ行うのか

 東京都には放送局の各キー局や大手出版社、元売り会社 (取次会社) が集中している。 とくに出版に関しては、再販制度により書店売りするあらゆる書籍は一旦東京都にのみ存在する取次会社を経由する必要があり (1941年 (昭和16年) の国による出版統制による)、影響が極めて大きい。

 再販制度による書籍流通統制は、時の政府の文部省思想局や内務省指揮下の警視庁特別高等警察 (いわゆる特高警察) による出版検閲、思想検閲のための集中管理のための仕組みであるが (戦後はGHQによる言論統制に利用され存続)、時代が変わっていながら、再販制度やそれに付帯する諸制度、法令の一部はいまだに生きている。 誤解を招きかねない乱暴な規制であるだけでなく、その後また特定意図の元に利用される可能性はないのか。

■ 青少年を無菌室で純潔教育することは可能で、また正しいのか

 そもそも青少年から、ちょっとでも不健全、あるいは有害だと一部の人から思われる作品や情報を全て遮断するのが現実的に可能で、また正しいことなのか。 もちろん青少年の健全育成に努めるのは周りの大人や社会環境の責務であり、行政や公権力もこれに積極的に努力すべきではあるが、その施策の根拠や指針、規制の基準はきちんと検証され、妥当性があるものなのか。 しかるべき公平で見識ある組織や人物が、それを担当しチェックしているのか。 認識に誤りや、主張に予断はないのか。

2010年4月16日、改正案のポイントを解説する2ページの資料を配布

東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案のポイント
東京都青少年の健全な育成に
関する条例改正案のポイント

 2010年4月16日になり、条例改正のための周知活動の一環として、青少年健全育成条例改正案のポイントをまとめた資料を東京都が作成、配布を始めています。

 資料の中には、「Q.3 これまで親子で楽しんできた 「ドラえもん」 など著名な漫画でも、「しずかちゃんの入浴シーン」 など子供の裸の描写が出てくるものがあります。 こういうものを子供たちは見られなくなるのですか?」 などの、極めて具体的な設問とその回答が見られます。

 この設問に対し資料中では、規制は 「性交(セックス)又は性交類似行為(フェラチオ・アナルセックスなど)」を直接、明確に 描写した漫画等に限定」 され、また 「性交又は性交類似行為」 についても、「読者 の性的好奇心を満足させることを目的として、不当にその行為を賛美し、誇張して描いたものに限定」 するので、「ドラえもん」 などの入浴シーンは 「該当しない」 とされています。

 ただし 「性的好奇心を満足させること」 とか、「不当にその行為を賛美」 などは、どこからがNGでどこからがOKなのか分かりませんし、「ドラえもん」 はOKだけれど、ほとんど同じ描写となっている無名作品の 「○○はダメ」 なんてことが、起こりかねない状況に違いはありません。

 またそもそも 「著しく性的感情を刺激」 する作品については、条例を改正するまでもなく、すでに区分陳列など規制がされています。 わざわざ 「非実在青少年」 という概念 (青少年に悪影響を及ぼす、架空の被害者) を作って盛り込んでいるからには、「未成年っぽい絵柄の出てくるちょっとでもお色気シーンのあるマンガは全て18禁にせよ」 との意味だと捉えられても仕方ないでしょう。

 前述した協議会における専門部会の 「事実誤認」「差別発言」 の応酬や、あまりに独善的で結論ありきのパブリックコメントの取り扱いなどを見て、「これならば安心だ」 などと納得できる人は少ないでしょう。 大きな反対の声を見て、「とりあえず成立させるために猫なで声を出しているだけだ」 との指摘もあります。 また都民が努力すべきとした、こうした著作物の 「単純所持禁止」 については、資料中ではまったく触れていません。

「非実在青少年」 が無くなり、代わりに 「刑罰法規に触れる」 を規制…?

 この条例案はその後廃案、「非実在青少年」 という珍妙な言葉もなくなりました。 しかし2010年12月に、内容を修正したとする新しい改正案がまとめられ、審議に掛けられることになりました。 その際、「非実在青少年」 に代る言葉として、刑罰法規に触れる性行為 が、新たな規制対象項目となりました。 詳しくは、当該解説ページをご覧頂きたいのですが、それにしても 「新しい言葉を作ってごまかしながら、議決ギリギリのタイミングでこっそりと提出」 という卑劣なやり口は全く変わりませんね。

 「刑罰法規に触れる性行為」 のところでも解説していますが、マンガや雑誌類の販売店での自主規制は、ほとんど限界に近いレベルにまで至っています。 アダルト要素のある雑誌はコンビニや書店などでは奥まったところに区分して陳列されていますし、さらに出版社などが膨大な費用をかけ、本を開くことができないよう、小口をシール留めするなどして、立ち読みもできない状態になっています。 その数は月間およそ2,000万冊、年間2億4,000万冊に達していて、中身を見るためにはレジで年齢確認をして購入してからでないとできなくなっています。

 またアダルト要素のない一般向けのマンガ雑誌 (少年ジャンプやマガジンなど)、その他の一般向け雑誌類の一部も、現在は立ち読み防止を兼ねてレジ前に並べたり、紐や輪ゴムで本全体を結束し、中身を見ることができない状態になっているケースもあります。

 「刑罰法規に触れる」 のところでも書いていますが、「アダルトなマンガがコンビニで子供でも見れる状態で並んでいる」「野放しだ」 という規制推進派は、本当にコンビニの雑誌コーナーで、実際にマンガ雑誌を手に取ってみたことがあるのでしょうか? 出版社や取次、書店やコンビニでは、継続して自主規制の努力を行っています。 膨大な数の雑誌や書籍がでていて、1つの漏れもなく全ての書籍に適切なチェックはできない場合もありますが、月にせいぜい数冊程度の範囲であり、決して 「蔓延」 などしていません。 また小学生のお小遣いで数百円もする偏ったコミック雑誌を買う余裕などないでしょう。 お小遣いを渡している親のチェックもあるのです。

 大昔の記憶や単なる思い込み、他の規制推進派の言う嘘や、ネットに貼られているアダルトコミックの画像だけを見て判断していませんか? どんな本を読んでどんな本を読むべきでないか、それは親と子が話しあって決めるべきことではありませんか? これ以上の規制は、「漫画を売り場から消せ」「この世から消せ」 と言っているに限りなく近いように思われます。

 ついでに云うと、「海外ではゾーニングされている」「先進国ではしっかり区分されている」「日本は野放しだ、遅れている」 と規制を推進する側の方々はよくいいますが、これも本当でしょうか。 欧米でも駅のスタンドや空港の売店などに、表紙や紙面1面にヌード写真を使ったタブロイド紙や雑誌類が並んでいるケースがあるんですが。 別に欧米がそうだから日本もそうしろと云うつもりはありませんが、少なくとも 「先進国の中で日本だけが遅れているから規制しろ」 の根拠にはならないと思うのですが、どうでしょうか。

「表現の自由」 は、与えられた権利ではなく、獲得し守るものです

 憲法21条の 表現の自由 には、「権利はただ享受するものではなく、国民自らが守られるように努力しろ」 と書いてあります。 悪条例や悪法に反対するのは、公権力の暴走を許さない良識ある国民、都民の 「義務」 だと云えます。 何が自分にできるか考え、今まで通りにアニメやマンガ、ゲームなどが楽しめるように、できる範囲で努力したいものです。

 表現の自由は、「自由だから何をやってもいい」 という事ではありませんが、その判断は国民個々人が自分の良心や倫理、判断基準で公共の福祉のために行うとあり、「国や自治体が勝手に検閲や規制をしてはいけない」 とあります。

出版社や読者らの反対意見が多数ある中、可決成立に

東京国際アニメフェアは分裂開催へ
東京都の表現規制問題を受け、「東京国際アニメフェア」(東京ビッグサイト) が分裂 2011年は東日本大震災で両イベント共中止 翌2012年は分裂開催となった
東京都の表現規制問題を受け、「東京国際
アニメフェア」(東京ビッグサイト) が分裂
2011年は東日本大震災で両イベント共中止
翌2012年は分裂開催となった
幕張では 「アニメコンテンツエキスポ」 が開催された (2012年3月31日〜4月1日)
幕張では 「アニメコンテンツエキスポ」 が
開催された (2012年3月31日〜4月1日)
 11月22日に提出された、修正された条例案は、2010年12月13日に与野党の都議会総務委員会で合意がなされ、出版業界や漫画家らの激しい反発にも関わらず、15日の本会議で可決、成立しました。

 6月の段階で反対していた最大会派の民主党が賛成に回ったのが大きく、「作品の芸術性などをくみ取り慎重に運用する、検討時間を十分に確保する」 との付帯決議はついたものの、同党幹部は 「反対の声が大きいのは承知しているが、子を持つ親ら、声無き多数派を配慮し賛成した」 と述べています。

 この条例は今後段階的に民間の自主規制への取り組みを求めながら、2011年4月に販売規制、7月に施行されますが、どのような作品が規制とされるのかの詰めはこれからですし、出版社側がどのような自主規制をして行くのかもこれから決まる話です。

 マンガの区分陳列の条例はこの改正案の前からあり、今回は 「改めて基準を変えてもう一度同じことを決めます」 というのが不安や混乱を招き、疑惑や憶測も招いていますが、これは改善するのでしょうか。

 条例案は成立しました。 2011年4月から販売規制が始まり、7月に施行というスケジュールですが、これがそのままの形で施行されるのかは今後の成り行きも大きく関係しますし、これですべてが決まった、終わったという訳ではありません。

 都はガイドラインパンフレットを作成し配布するとしていますし (これはこれで大問題で、それ以前に提示されたものもあまりに杜撰な内容で、それが出版社側が態度を硬化させた原因でもありますが…)、むしろこれからが正念場だとさえ云えます。 しっかりと行政の対応を見て、発言すべき時に発言し、自分たちの声を政治の世界に届ける努力を続けることが大切です。

東京都条例、改正までの経過

2010年2月24日
東京都の諮問機関 「東京都青少年問題協議会」(青少協) により作成が進められた条例改正案を、都が議会に提出。
2月27日
市民が都議会図書館で文書閲覧、複写請求して入手した条例改正案をネットのブログで公開。 「非実在青少年」 という概念をはじめ、あまりの内容にネット上で強い反対運動が巻き起こる。
3月7日
明治大学国際日本学科准教授の藤本由香里氏が、【重要】都条例「非実在青少年」の規制について を mixi の自身の日記で公開。 またこのアピールを Twitter で行い、ネットで大きな反響を呼ぶ。
3月15日
東京都庁で漫画家のちばてつやさん、里中満智子さん、永井豪さんらが民主党に意見書を提出。 また条例改正案に強い反対意見表明の記者会見。
4月16日
条例改正のための周知活動の一環として、青少年健全育成条例改正案のポイントをまとめた資料を東京都が作成、配布を開始。
5月25日
漫画家1,400人と出版大手10社が反対声明を発表。
6月14日
都議会総務委員会で審議。 自民党、公明党が賛成したが、都議会の最大会派である民主党や共産党、生活みらいネットワークなどの反対多数により、改正案が否決。 1999年4月23日に就任以来、3期11年間の石原都政で初めての条例案の否決だった。
16日
本会議でも改正案が否決される。 都側は9月をメドに、修正したものを再度提出すると発表。
6月〜
東京都内で大規模な条例改正可決、規制賛成のための戸別訪問による署名活動と、PTAや労働組合による規制賛成の署名活動が本格化。 また都側が中心となり、一部の過激な表現がされた漫画を持参し、PTAや地域団体を中心に説明会を実施。 前後して81回行われた。 規制反対派も反対運動を展開。 反対のための署名を集める傍ら、デモやシンポジウム、集会などを実施したり、都議会議員への陳情や要請、反対意見の送付などを行った。
9月
予定されていた9月の条例改正案の提出と審議を先送り。
11月22日
「非実在青少年」 という言葉を削除し、また規制対象として強制わいせつや強姦、近親相姦などを不当に賛美・誇張するように描いたもの 「刑罰法規に触れる性行為、ほか」 とした改正案を再提出すると都が発表。
29日
漫画家のちばてつやさん、秋本治さん、大手出版社の代表らが反対を表明。 また漫画家3団体も都条例改正案に反対の声明。 石原都知事はこれについて、「バカだね、そいつら。頭冷やしてこい」 とコメント。
12月7日
石原都知事が都議会本会議で、代表質問において条例改正案の必要性を訴える。
10日
コミック10社会が 「東京国際アニメフェア2011」 へのボイコットを表明。
13日
都議会総務委で、都議会最大会派の民主党が改正案に賛成。 可決する。
15日
都議会本会議で賛成多数で可決、成立する。 反対は共産党、生活みらいネットワーク。
17日
石原都知事、記者会見で 「世の中には変態ってやっぱりいる。 気の毒な人で、DNAが狂っていて。 やっぱりアブノーマル」 と発言。
22日
画家らで作る 「日本漫画家協会」「21世紀のコミック作家の会」「マンガジャパン」 の3団体が連盟で、新条例に強い反対と抗議を表明。
 

改正後の余波 (アニメイベント分裂開催)

2011年3月
東京都主催の 「東京国際アニメフェア」(TAF) と、分裂した 「アニメコンテンツエキスポ」(ACE) ともに、東日本大震災 (3月11日) に伴い開催中止に。
2012年3月22日
〜25日
アニメフェアが分裂開催に。 東京都主催の 「東京国際アニメフェア」(TAF) は、前回 (TAF2010) に比べ、来場者数はおよそ6割程度に留まり、会場の1/4 は中国のアニメ制作企業のエリア (担当者すらいない無人エリア) となった。
3月31日
〜4月1日
「東京国際アニメフェア」(TAF) と分裂した 「アニメコンテンツエキスポ」(ACE) が幕張メッセで開催。 前売り券は発売後すぐに 完売 し、当日券も両日早朝に完売した。 展示内容に大きな違いがあるため (ACE には、いわゆる若者向けのアニメが多かった)、一概には云えないものの、結果的に一般参加者は、ACE を支持した形になっていた。
 

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2010年3月8日)
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