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悪書追放運動

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アメリカのコミック排斥運動と呼応…「悪書追放運動」

 「悪書追放運動」 とは、1955年に日本で始まった最大規模のマンガ追放運動のことです。

 マンガ は低俗であり、子供の健全な教育、成長に極めて有害なので、「読まない 見せない 売らない」(3ない) をスローガンに、東京をはじめ日本全国でマンガ出版社や書店、貸本屋、漫画家らへの抗議が行われました。 また国や自治体、教育委員会への規制強化、出版禁止の陳情、さらには警察への取り締まりの要請なども数年間に渡って繰り広げられ、マンガ表現に強い萎縮効果をもたらしました。

 この運動の直接的な発端としては、アメリカの精神医学者、フレデリック・ワーサム (Frederic Wertham) が提唱していたコミック悪玉論と、それによるアメリカでのコミック排斥運動の高まりの影響がありました。 ワーサムは 「Horror in the Nursery」(子供部屋の恐怖)、「The Psychopathology of Comic Books」(漫画雑誌の精神病理学) といったタイトルで、1948年から雑誌などでマンガの子供に対する悪影響を主張していました。

 1954年にはこれらの主張をまとめた 「セダクション・オブ・ジ・イノセント」(Seduction of the Innocent/ 純潔なる人への誘惑/ 無垢への誘惑) を出版。 これが 「子供からマンガを取り上げることに、医学的、科学的な根拠を与えた」 という形となり、「子供を悪書から守れ」 との機運がアメリカで強く盛り上がる状況に。

 これを受け、日本でも 1949年頃にはマンガの悪影響を訴える声が徐々に出始め、婦人団体、キリスト教系の団体などが運動を開始。 なかでも1952年に設立された 「日本子どもを守る会」 と 「母の会連合会」、及び GHQ により導入を命じられ、同じく 1952年に全国協議会が発足した各地域の 「PTA」 を中心に、「悪書追放運動」 と名付けられた強硬なマンガの排斥運動が巻き起こることとなりました。

戦後雑誌ブームと、低俗出版物追放運動

 この運動に先立ち、雑誌全般に対する 「低俗出版物追放運動」 も行われていました。

 日本は1945年に敗戦を迎え、1952年まで GHQ による統制下に置かれました。 言論の自由を強く制限した 「治安維持法」 などは廃止され、表面上は言論の自由が日本国民に与えられているとされていましたが、実際は戦前からの情報統制の仕組みを利用した、強い言論統制、検閲が、アメリカ占領軍によって行われていた時代でした (出版元売りの東京への集中などは、戦前からの検閲時代の名残ですが、占領時代もその後もそのまま温存されています)。

 ただし新聞や書籍に対する規制に比べ、雑誌は比較的自由だったとされ、いわゆる 「カストリ誌」(3合飲むと酔いつぶれるカストリ酒にかけた、3号で潰れる低俗な雑誌) などが物資不足の中でも多数出版されていました。 ゴシップやいかがわしいエロ記事が掲載された雑誌類で成年向けのものでしたが、これらが槍玉に挙がっていたのでした。

手塚治虫や水木しげるの本が次々に槍玉に挙げられバッシング

 当時の日本のマンガは、現在書店売りされている漫画専門雑誌といった体裁はとっておらず、多くは赤本と呼ばれる粗末な紙に印刷された読み切りの書籍体裁や、貸本と呼ばれる1冊1作品の読み切りやシリーズものの書籍のレンタルがその中心でした。  まだまだ日本が貧しかった時代のことです。

 赤本は戦前にもブームがありましたが、戦後は1947年の 「新寶島」(新宝島/ 育英出版/ 酒井七馬/ 手塚治虫) の大ヒットから再びブームとなり、「貸本」 では、後に 「ゲゲゲの鬼太郎」 シリーズともなる水木しげるの描く妖怪マンガをはじめ、紙芝居で人気だった作品、戦争を扱った作品なども多数発行され、子供たちの人気を得ていました。

 1947年12月には学童社より、雑誌 「漫画少年」 が創刊、1949年には集英社より 「おもしろブック」 が創刊。 マンガの 聖地 ともされた有名な東京都豊島区のアパート、「トキワ荘」 に手塚治虫や石森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄、水野英子らが入居を始めたのが1953年からで、現在に直接続く豊かで新しい時代のマンガが産声をあげ、よちよち歩きをしている時でした。

 しかしアメリカでのコミック排斥運動の盛り上がりと上院議会でのコミック出版社への激しい非難、それに伴う 自主規制 による コミックコード (Comics Code) の登場などにより、日本でも 「マンガを滅ぼせ」「駆逐しろ」 といった強い調子の反対運動が盛り上がることになりました。 運動では、マンガに何回銃や刀が出てきたのか、人を殴るシーン、人が死ぬシーンが何ヶ所あったかなど、作品ごとに事細かにリストアップして糾弾したり、作家に対する人格攻撃なども行われました。

過激な反コミックパフォーマンスも登場

 前後して、1955年2月27日投票 第27回衆議院選挙、1956年7月8日投票 第4回参議院選挙 の選挙戦では、一部の女性らが小学校の校庭にマンガ本を積み上げ、手塚治虫らの漫画本に火をつけて燃やすパフォーマンスを展開、焚書だとして大きな社会問題になります。

 これらのマンガ焼き討ちは、アメリカの反コミック運動でもしばしば行われていたもので、それを取り入れたものなのでしょう。 こうした過激なパフォーマンスは、アメリカでは保守的な道徳・倫理運動が盛り上がる中で、反道徳、反倫理には断固とした対応を取るとの姿勢として一部で実施されていたものでした。 また戦争に敗れた日本でも、戦前までの日本的な道徳、価値観が否定され、アメリカによる倫理や道徳、価値観が急速に導入される中で、時には行き過ぎた形で推し進められたという一面もあります。

荒唐無稽なデタラメを描いて、子供からお金を巻き上げる悪徳漫画家を追放しろ

 後の批判の中には、暴力表現の子供への悪影響以外にも、手塚の描くSF世界を 「荒唐無稽なデタラメで子供を騙している」、水木の描く妖怪物語を 「前時代的な迷信を復古させている」 などとし、「子供を騙してお金を稼ぐ悪徳漫画家を追放しろ、罰しろ」 と、子供のためというより、ほとんど漫画を滅ぼせに近い内容のものも相当あったようです。 中には、「回し読みされる貸本は不衛生であり、子供の健康が脅かされる」 などというものまでありました。

 マンガ誌やコミック本を発行していた出版社などは 「出版倫理化運動実行委員会」(後の 「出版倫理協議会」(1963年) を設置、自主規制のありようや 有害図書 とされた出版物の対応について話しあったり声明を発表する一方、後には各種表示を行ったり自主回収などを行うよう、出版社に対して自主的に通知などを行うための施策 雑誌や出版物等に関する青少年関連施策 を取りまとめる協議を行うことになりました。 しかしマンガバッシングは収まることがなく、それ以降も継続して特定作品を槍玉にあげて排斥運動が盛り上がったり、行政に対する規制の陳情などが繰り返されています。

 各自治体は 青少年健全育成条例 を新たに制定したり内容を強化。 1960年代からは、駅や 公共施設 などに 白いポスト (悪書追放ポスト/ モラルポスト) が登場し、全国に広まります。 同じ1960年代末から1970年代には、永井豪によるギャグ漫画 「ハレンチ学園」 の性的描写と教師・教員・学校を激しくからかう表現描写が大きな問題とされ、PTAや各種婦人団体はじめ、文部省や教育委員会、国会議員なども巻き込んだ大騒動となりました。 同じころ、手塚治虫の学園コメディ 「やけっぱちのマリア」 なども有害図書指定されています。

 規制の波は激しく、漫画界は萎縮することもありましたが、それでも日本のマンガは一進一退をしながら成長を続け、作家たちは果敢に表現の世界を広げてゆきました。 マンガを愛し熱狂的に支持する子供たちがたくさんいたからでしょう。

1990年代にも大きなマンガバッシングが

 1990年、和歌山県の一主婦の訴えにより再び大規模なマンガバッシングが始まります。 子供向けポルノ追放運動 です。 こちらは1989年の、いわゆる連続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤容疑者 (当時) の逮捕と、事件に対するマスコミの執拗で偏った報道による おたく 的なものへの嫌悪なども背景にあり、かつてない規模の追放運動となっていました。

 すでに コミックマーケット は大規模な 同人イベント となっていましたが、会場 の前にマスコミが陣取り、参加者がまるで犯罪者かのようなニュアンスで報道していたものでした。 1991年の第40回目のコミケでは、当時会場として利用していた 幕張メッセ から、開催日直前に会場使用の拒否を通告され (コミケ幕張追放事件)、開催の危機を連続で迎えることにもなりました。

 マンガなどを描いたり出版する側では、有害コミック の排斥が起こるたび、自主規制を徐々に強化し、成年コミックマーク を設けたり、アダルトコミックをビニールで覆う、書店などでの ゾーニング を行うなど、様々な対策を打ち出し実施しています。 しかし 児童ポルノ法青環法 を巡る問題や、2010年には東京都で青少年健全育成条例の改正による新しい規制が取りざたされるなど、表現規制の強化とマンガバッシングは、まだまだ終わりが見えない状態となっています。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2000年10月16日)
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