同人用語の基礎知識

シーライオニング

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あからさまな 「荒らし」 ではないものの、関わると厄介な 「シーライオニング」

 「シーライオニング」(Sealioning) とは、主に ネット掲示板SNS などにおいて、不特定多数に対して無知・無邪気・善意を装った大量の質問を行うある種の 荒らし行為、あるいは個人や企業などを標的とした類似行為による嫌がらせを批判的に呼ぶ言葉です。 こうした行為を行う人は、「シーライオン」(アシカ) と呼びます。 個人で行うシーライオニングもあれば、シーライオン何人かで役割分担や協力をしつつ行う場合もあります。

 ただし丁寧な質問や当然の疑問を誠実に提示する人を、その人とは異なる立場の人がことさら悪しざまに 「荒らし呼ばわり」 して 叩く ための負のレッテルとして使われることもあります。 この場合は 「周回遅れの議論」 や 「認識の アップデート ができてない」 といったレッテルが使われる場合もあります。

具体的な 「シーライオニング」 の手口

 例えば 「〇〇は□□である」 という前提でコミュニケーションをしている場があったとします。 シーライオンはそこに 「無知ではあるが善良な参加者」「公平中立な善意の第三者」 のふりをして紛れ込み、「なぜ〇〇は□□なんですか?」 と表面上は丁寧で礼儀正しい文章・態度で質問の レスリプ を行います。 ただしこの質問に親切な参加者がわかりやすく答えてもそれに納得はせず、またろくな反応も感謝もしません。

 さらにそのまま 「その根拠は何ですか?」「私は〇〇は△△だと思うのですが、仮に△△だとしたら、何か問題がありますか?」 などと論点がずれた再質問を慇懃無礼に行ったり、その後また 「やっぱりなぜ〇〇が□□なのかわからない」 と最初の質問に戻って同じ話をループのようにひたすら繰り返したりします。 もちろん他の参加者が回答や対話を諦めて スルー しても 「なぜ答えてくれないんですか」 の質問攻めを続けます。 その際、あからさまではないけれど、人の神経を逆なでするような遠回しの嫌味や当てこすりに聞こえるような表現を無意識っぽくそれとなく混ぜてきたりもします。

 何度質問に答えても納得せず話も前に進まず、返ってくるのは新しい質問や疑問ばかりなので、その場にいる参加者は疲弊したり、あるいはしびれを切らして怒りが生じたりして、場全体の 雰囲気 はどんどん悪化していきます。 また 「そんな質問はよそでやれ」「不快だから消えろ」 などと他の参加者が キレる と、丁寧な言葉で謝罪しつつも 「不当な攻撃を受けた」「仲間外れにされた」 かのような弱者・被害者を装って同情を誘ったり、他の善良な参加者に罪悪感を植え付けたりします。 これが何度も執拗に繰り返された結果、そのコミュニティは崩壊し、場そのものがつぶれたりします。

元ネタは 「Wondermark」 の 「The Terrible Sea Lion」

 この言葉自体は、ビクトリア朝時代の人物や背景を モチーフ に現代的な風刺や笑いを効かせた作風が人気の webコミックサイト 「ワンダーマーク」(Wondermark) に2014年9月19日に掲載された、デヴィッド・マルキさん (David Malki) による マンガ 「The Terrible Sea Lion」(ひどいアシカ) の内容とタイトルに由来します。

人気サイト 「Wondermark」 の 「The Terrible Sea Lion」
人気サイト 「Wondermark」 の 「The Terrible Sea Lion」
(2014年9月19日)

 元ネタ となったこの作品は、蒸気自動車に乗ってドライブを楽しむ男女2人の会話で始まります。 女性がシーライオンへの嫌悪を口にすると、男性がそれをたしなめますが、その会話を聞きつけたシーライオンが背後から突然割って入ってきて、相手の都合も考えずに繰り返し何度も何度もその女性に話の根拠や説明をしつこく求めます。

 これが公開されると 「いるいる、そんな奴」「理解するつもりもないのに質問し続けて相手が諦めたら論破した気になるやつだ」 といった共感が広がり、様々なコミュニティで作品が 共有 されると共に、ネットスラング として 「シーライオニング」 が定着。 ほぼ同じ頃に英語圏のゲームコミュニティを中心に生じた 「ゲーマーゲート論争」(ハッシュタグ #GamerGate で行われた、ゲーム にまつわる女性差別やいじめ、ポリコレ (ポリティカルコネクト) に関するゲーム制作者や企業、ユーザーらの論争) でも議論が過熱・複雑化する中、相手への罵倒として注目を集めました。

 とくに特定の主義主張に基づいて、所かまわず膨大な質問を敵とみなす相手に執拗に行う状態は、荒らしや嫌がらせ、モメサ (揉めさせ屋) といった レベル を超え、手動で行う DoS攻撃 とほとんど同じ迷惑行為だとする批判もあります。

 日本においても女性問題、いわゆるフェミニズムや女性差別問題でこうしたふるまいをする人の存在を通して言い回しが注目され、自分の お気持ち や価値観を質問の形で押し付けるのみで議論が噛み合わない相手に対し、反目し合う双方が互いに相手をシーライオン扱いするような状況も生じています (似たような行為は ヤクザ論法 と呼びます)。 当初はシーライオンという言葉自体、あまり日本で使われることはありませんでしたが、2020年になって元ネタマンガが日本でも流行し、合わせて使われるようになってきています。

善意の第三者のふりをして、その裏では… 「シーライオニング」

 ネットでの荒らしには様々なものがあります。 例えば罵詈雑言や誹謗中傷、意味不明な長文を書き込む、グロサイトや ウイルス につながる有害な URL を書き込む、同じ文章を何度も コピペ で貼り付ける (コピペ荒らし・連投荒らし)、煽る釣る などが代表的です。 これらは荒らしとしてはとてもシンプルでわかりやすく、相手に悪意があるのも明白なので、対策も比較的容易でしょう。

 しかしシーライオニングは 書き込み 自体は丁寧で内容もレス・リプ単体で見ればそれほどおかしくはなく、周囲の人間は荒らしなのか、それとも単にコミュニケーション能力に問題はあるけれど善良な参加者なのか判断が難しいものとなります。 当然ながら有害文字列や超長文などを機械的に排除するといった対策 (サニタイジング) も打ちづらく、ある意味もっともタチの悪い荒らしのパターンだと云えるかもしれません。

ファンを装い個人を追い詰める 「シーライオニング」

 これと同じことを個人に対して行う場合もあり、その場合の被害は甚大です。 最初は好意的なレスやリプ、メール や SNS の DM (ダイレクトメッセージ) を通じて 「あなたの イラスト を見ました、とても素敵です!」 などと ファン を装って近づきます。 しかし一定のやり取りをして親しみや信頼関係ができると、「この部分はどうやって描いているんですか」「今度はどの イベント参加 する予定ですか」「新刊 はいつ出るんですか」 などと執拗な質問攻めが始まり、こちらが答えてもそれは無視もしくは軽くいなして、また次の質問を浴びせかけたりします。

 さらにこちらの返信が遅れたり無視すると、「どうして返信くれないんですか」「ファンなのに悲しいです」 などとこちらの罪悪感を刺激するような被害者っぽいふるまいを繰り返します。 場合によっては途中から微妙な嫌味や当てこすり、お為ごかしのモラハラ (モラスハラスメント) のような意見を複合させて来る場合もあります。 例えば 「あなたのためを思ってあえて言いますが、メールの返信をしないようでは社会人として失格だと見られてしまいますよ」「そういう言葉遣いは私以外にはしない方が良いですね」「みんなが見ている場でその返答はまずいですよ」 などです。

 個人でこうした人に絡まれると、精神的な負担は相当なものがあります。 相手の真意が分からないのも辛いですが、ある種のストーカーと同じで相手はこちらのことを一方的に詳しく知っている存在であるため、「イベントに参加したらどこかで見張られているのかも」「もしかしたら前のイベントに来ていたあの人なのかも」 と疑心暗鬼になりますし、文面は丁寧なために 「相手に悪意があると受け取る自分が悪いのかも」 と思い悩み、どんどん神経が擦り減っていきます。 これならまだ 「バカ」「アホ」「死ね」 と云われる方がマシかも知れません (いやまぁ、これはこれで辛いですが)。

 ちょうど創作活動がスランプに陥っている時、受験や仕事や 病気 など様々な理由で精神や時間に余裕がない時だと、シーライオニングがきっかけで創作活動のモチベーションが大きく削がれ、筆を折る、SNS などの アカウント を消したくなるような気分に追い込まれる場合もあるでしょう。

反応や感想がないのも辛いけど、変なのに絡まれるのも辛い…

 イラストや SS など、創作物を発表して何の反応も感想ももらえないのは辛いものです。 しかし誹謗中傷や脅迫が届いたり、こうした善意のふりをした嫌がらせに巻き込まれるのは、もっと辛いかもしれません。 とくにネット中心で作品発表している人は、同人 に関わる仲間を持たずたった一人だけで活動している方も多く、一人で思い悩んでしまうケースが多いようです。 可能であれば、これら迷惑な人と遭遇した時に相談に乗ってくれる友人や知人は、できる限り作っていくことが大切でしょう。

 対策は色々ありますし、こうした嫌がらせをあまり気にしない性格の人も少なくありませんが、「もしかしてこれはシーライオニングか?」 と思われる DM などが来たら、それと気づいた段階で 「ありがとう」「また見てね」 程度のそっけない な一言返信で終わらせるようにして、やり取りが自然消滅するような形にもっていくのが良いかと思います。 有名な 絵師 に感想を述べたら 塩対応 されたと嘆くファンも多いですが、こういうことがあるとそうせざるを得ないことが多いんですよね。 半分断言しても良いですが、SNS で万単位の フォロワー を持っているような人は、こういった迷惑行為を必ず、それも何回も繰り返し受けているものです。

 シーライオンから被害を受けたら怒りに任せて即ブロックする、反論したりネット上で 晒す、などといったやり方は場合によっては効果があったり、一時的に気分がスッキリしたりもしますが、後で罪悪感が芽生えたり、相手の逆上を招いて トラブル が生じる元となったりもします。 あまりに直接的な対応は、なるべく避けた方が良いかもしれません。 これはシーライオンだけでなく、過度の 「かまってちゃん」 や 「アドバイス魔」 などに対する場合も同様です。

 時間が有り余っていて暇つぶしがしたいなら話は別ですが、彼らにどれだけ時間を費やしても誠実に応えても、まともなコミュニケーションは一切成立しないのですから、自分の時間と精神が削られるだけで何の得もありません。 また罪悪感や自己嫌悪といったものは、気にしない人は気にしないですが、そうでない場合には自分で思っている以上に ダメージ が大きく、また後々まで引きずりがちなものです。 精神的にとても辛いものなので、過去の自分の言動で悔やむことが多いような性格の人は気を付けるようにしましょう。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2018年10月12日)
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