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「五輪エンブレム」 騒動で一般人とは違う 「上級国民」 さま登場

 「上級国民」 とは、何らかの権利や地位、カネやコネを持っていて、不正やそれに近い不透明な行為によって私腹を肥やしたり、一般人なら当然のように科せられる罪や罰から逃げおおせられるような状況にある人物を揶揄する言葉です。

 それ以前から存在する一般的な言葉の 「特権階級」「上流階級」 と似たような意味を持つ ネットスラング (インターネットミーム) ですが、何らかの制度的な裏付けがある立場・地位や、客観的基準によって誰かを指し示すというわけではなく、あくまで公的機関やメディアによる不公平で不透明な対応を揶揄し、その当事者や関係者に対して罵倒・侮蔑する目的でのみ使われるような言葉となっています。 別に上級国民という階級が存在するというわけではありません。

 元ネタ・語源は、2015年に起こった 「2020年夏季東京オリンピック・パラリンピック」 の公式エンブレム (公式ロゴ) コンペの選出を巡るあれこれに端を発します。 またその後、2019年に起こった自動車事故でも大きくクローズアップされ、再度流行語としてブレイクすることになりました (後述します)。

2020年東京オリ・パラの公式エンブレム問題の 「パクリ」 疑惑

TOKYO2020 公式エンブレムとPVを発表 (2015年7月24日)
TOKYO2020 公式エンブレムとPVを発表
(2015年7月24日) 公式サイトで発表された直後に炎上
東京2020エンブレムに関する一部報道について (2015年7月31日)
東京2020エンブレムに関する一部報道について
(2015年7月31日) 公式サイトのニュースリリースで、
組織委員会としてもIOCとしても問題はないと発表
サントリー オールフリー「夏は昼からトート」キャンペーン、一部賞品の取り下げおよび発送中止について (2015年8月15日)
サントリー オールフリー「夏は昼からトート」キャン
ペーン、一部賞品の取り下げおよび発送中止について
(2015年8月15日)

 「2020年東京オリンピック・パラリンピック」 の公式エンブレムを決めるコンペが行われ、応募104点の中から採用されたデザイン案が、2015年7月24日に公式発表されました (公募は前年2014年)。 デザインしたのは、東京都出身の著名なアートディレクター・デザイナーでデザイン事務所代表・多摩美術大学教授の肩書を持つ人物でした。

 しかしその直後、選出デザイン案と酷似する既存デザイン (ベルギーのリエージュ劇場ロゴや、後にはヤン・チヒョルト展のポスターなども) が発見され、いわゆる 「パクリ疑惑」 が勃発。

 騒動が広がるとともにこのデザイナーが過去に関わったそれ以外のプロダクトの検証もしらみつぶしに行われるようになり、こじつけや言いがかりに近いものもあったものの、サントリーのキャンペーンで使われたトートバッグのデザインをはじめ新たな盗作・模倣疑惑が次々と浮上 (後にデザイナーは不手際を認め謝罪し、キャンペーンは賞品を取り下げ (右図)。

 騒動は 炎上状態 にエスカレートし、その過程で不透明な五輪エンブレムの選定方法や選定基準、行政とデザイン業界、大手広告代理店の癒着とも思える 馴れ合い の体質などが憶測も含め様々持ち上がり、「税金を食い物にしている」「業界に自浄能力もその気もない」 と受け取られ騒ぎはさらに拡大することに。

仕事仲間の擁護 「デザインの常識」 が燃料となり炎上も拡大

 とくにこの騒動が持ち上がってすぐに、このデザイナーの友人や仕事仲間のデザイナーが炎上を食い止めようと 工作員 さながらに 「パクリだと批判している人たちは、デザインのことが何もわかっていない素人」「コンセプトが違うのだから全く似ていないし、それがデザイン界の常識」 などといった内容の反論を SNS で行って論争や バトル が始まり火に油を注ぎ続けたのは、騒動拡大の大きな原因のひとつでしょう。

 またパクリ騒動が広がる中、ネットの一部では大喜利的に 「私も五輪エンブレム考えてみました」 といった様々なデザイン案が出てきましたが、多くのネット民が 「これすごい」「良い」 といったフリーデザイナーのデザイン案に対しては、「汚い」「どこがいいのかわからない」「恥知らずが跋扈するクリエイティヴ後進国」「自分が、自殺の名所に立っている事もわからない不思議な感覚」 との批判を殺到させ、問題のデザイナーを擁護し続けたこともイメージ悪化に拍車をかけました (いわゆる 駄サイクル の可視化)。

 しかもこうした擁護を行っていた人物の経歴背景を詳しく見ていくと、それぞれが問題のデザイナーと仕事で密接に関係を持ち、他の公募やデザイン賞の審査員なども仲間同士で持ち回りで行い、お互いに応募したり審査したりを交代で繰り返していた人たちでした。 今回の五輪エンブレムコンペは応募者の制限が厳しく、その中に 「過去の受賞歴」 はじめ一部のデザイナーだけが有利になる項目が多数あったため、「都合よく仲間同士で受賞歴や実績を作り、応募条件を設定し、選出したのではないか」 との疑念が生じるものでした。

 もともと狭い業界内での出来事だけに、仕事や事業の領域がある程度重なるのは仕方がないとはいえ、これらあまりの偶然の一致具合に 「身内への利益誘導を行っていたのではないか」「公募の形をした出来レースではないのか」 との憶測は広がり、大手メディアも報じる大騒動となってしまいました。

 また騒動が起こった7月から8月までの段階ではデザイナー本人や仕事仲間だけでなくその妻も疑惑に 「事実無根だ」 と強く反発。 記者会見などで疑惑の一つ一つに反論を行いましたが、それが 「審査や日頃の業務に関わる不透明なコネ・人脈の存在」「身内の庇い合い」 を強く連想させるものだったこと、しかもその反論がすぐに新事実の発覚によって崩れて説明が二転三転するのを繰り返し 「その場限りのウソばかりついている」 と思われたのは、ネット民 の間で広がった 「カネやコネを使って濡れ手で粟のズルい金儲けをしている」 というイメージに対する強烈な嫌悪感と、この 「上級国民」 という言葉がその後生まれる空気を作る分岐点だったと云えるでしょう。

 さらに付け加えるならば、当初 「コンパクト五輪」 と称し低予算での開催を目指すと公言しておきながら関連予算は膨張の一途を辿り莫大な税負担が避けられなくなったこと、また一般人相手のボランティアに対してはろくに予算を割かず厳しい条件を課していたこと、そもそも東京五輪自体に否定的意見が少なくなかったことなども、前後の 燃料 と合わせ、騒ぎを大きくする要因となっていました。

「しかし一般の国民の方々が納得できないかもしれない」 記者会見が反発を招く

大会組織委員会によるエンブレム使用中止の記者会見 (2015年9月1日)
大会組織委員会によるエンブレム使用中止の記者会見
(THE PAGE/ YouTube/ 2015年9月1日)

 結局この東京五輪エンブレム案は白紙撤回され、五輪組織委員会は9月1日にその説明と騒動に対する釈明の記者会見を開きました。

 しかし、パクリを疑われたデザイナーの 「盗作はしていない」 とのコメントや、デザイン案を採用した審査委員長の 「デザイナーのいう通り、これはオリジナルとして認識できる」「デザイン界としてはそういう理解」「専門家ならそれがわかる」 との発言を紹介するのみで、デザイナーとデザイン案、コンペのありようを全面的に正当化し、「問題はなかった」 と結論するものでした。

 問題がないならなぜ撤回するのかについては 「一般の国民の方々が納得できないかもしれない」「一般国民にはわかりにくい」「デザイナーやその家族に誹謗中傷が続いており、本人から五輪への悪影響を考え取り下げたいとの話があった」 と述べるに留まり、これが 「一般のお前らにはわからないだろうが、単なる誤解であってパクリではないし、俺たちにはそれが常識」「でも誤解されて誹謗中傷されたから撤回するわ」 と開き直っているように見るものには感じられ、むしろ嫌悪感がさらに強まって反発もピークに。

 こうした状況の中、掲示板 2ちゃんねる を利用する人たちの間では記者会見での発言が 実況 も交え逐一まとめられ、「一般国民一般国民って、何様のつもりか」 との批判が噴出。 Twitter などとも相互作用しつつ、一般国民と対比する形で、「上級国民」 といった概念と言葉が生まれ、「さすが上級国民さまは我々一般国民とは違う」 との揶揄が広がることとなりました。

 ネット で嫌われがちな対応に 謝ったら死ぬ病 というのがあります。 記者会見ではそうした病を発症した組織や人がやりがちな、論点ずらしの 「謝罪もどき」 を感じた人が多かったから、さらなる反発を招いたのでしょう。 またこれを報道するメディアの側の追求も核心部分を鋭く突くには弱く感じられ、それが 「オリンピックの放送利権」「メディアに強い影響力を持つ広告代理店への配慮」 を見るものに感じさせ、不信感を高めたことも相乗した結果なのでしょう。

 その後も 「上級国民」 という言葉は、公務員や大手企業経営者、メディアに影響力がある著名人などの犯罪行為における警察側の不透明な対応 (一般人なら即逮捕・起訴されるような事件でも書類送検・不起訴で終わったり) や、事件報道における異例の肩書・敬称問題 (過去の大手芸能事務所タレントの事件報道における、メンバー・司会者・タレント呼称など) の違和感を述べる中で度々使われ定着。

 そして4年後の2019年春、この言葉が爆発的に使われるきっかけとなる事故が起こり、ネットスラングというよりは、一般用語のような広まりを見せることとなりました。 死者2名負傷者10人に及ぶ、池袋母子死亡暴走事故 (東池袋自動車暴走死傷事故) の発生とその対応問題です。

「池袋母子死亡暴走事故」 を起こしたドライバーへの不可解な対応から 「上級国民」 がクローズアップ

「運転やめる」告げていた87歳 猛スピードの目撃情報 (2019年4月19日)
「運転やめる」告げていた87歳 猛スピードの目撃情報
(朝日新聞/ 2019年4月19日)
ドライバーの 「さんづけ報道」 は憶測を呼んだ

 2019年4月19日、東京都豊島区東池袋の路上で、多数の死傷者を出す自動車暴走事故が発生。 母娘2人が死亡し、10名が重軽傷を負う大惨事となりました。

 赤信号を無視し猛スピードで交差点内の横断歩道に突っ込むという事故の内容、その被害の大きさ、ぐちゃぐちゃになった事故車両 (トヨタプリウス) や衝突によって横倒しになったごみ清掃車、巻き込まれ跳ね飛ばされフレーム部分で真っ二つになった自転車など報道された事故現場の凄惨さもあわせ、大きなニュースとなりました。

 なかでもこの事故は、運転者が87歳の高齢者であり事故車両がプリウスだったことが、ネットの間で好奇の目で見られ強い関心を引く原因となっていました。 高齢者の 「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」 ことによる交差点や歩道、店舗への暴走突っ込み事故が高齢化社会と共に増えていること、中でもプリウスは、俗に 「プリウスミサイル」 などと揶揄されるほど、そうした事故で度々名が挙がるクルマだったことなどが背景にあり、「また老人の暴走か」「プリウスか」 と、ネタ としても 叩かれ がちな内容だったからです。

 それとほぼ同時に、全く別の騒動も巻き起こりました。 大手マスコミによる事故報道で、事故を起こしたドライバーの名前が出なかったり、出ても敬称の 「さん」 がついていたり 「元院長」 との肩書がついていたり。 通常事件事故報道で広く行われる 「容疑者」 でなかったのが、「何らかの配慮がされているのではないか」 との憶測を呼んだのでした。

 このドライバーが現行犯逮捕も後日の逮捕もされていないこと、その後の報道で元政府高官で叙勲もされていた著名な人物だったこと、自分の非を認めず謝罪もしないこと、事故直後にドライバーが関連する SNS 等の削除を行うなど手回しがよかったことなどから、「さすが上級国民さまだ、我々とは扱いも常識も違う」 との強い不快感と揶揄を招くこととなりました。

「なぜずっと逮捕も起訴もされないのか」 事故後の経緯に不信感を持ち署名活動も開始

 こうした 「一般人との扱いが違う」 状況について批判が高まると、メディア関係者や法曹・警察関係者らなどが 「それは事情を知らない人間の思い違いだ」 との情報発信をしたことも、騒動に拍車をかける形になりました。

東池袋自動車暴走死傷事故 遺族のブログ (2019年7月20日)
東池袋自動車暴走死傷事故 遺族のブログ
(2019年7月20日)

 情報発信には 「まだ逮捕されていないから容疑者扱いになってないだけ」 との意見がありましたが、過去にもこの事故の前後にも事故や事件で逮捕されていない人間が容疑者として報道されたケースが多数あることで、説得力はあまりありませんでした。

 また 「そもそもなぜ逮捕されないのか」 についても、「高齢だから」「逃亡の恐れがないから」「怪我をしているから」「入院したから」 との情報発信や反論がされましたが、こちらも反例がいくらでもある状態で、さらに怪我が治り退院した後も逮捕されず、交通違反の行政処分がされただけでした。 いずれも 「今回のケースとそれ以外のケースの違い」 を合理的に説明できておらず、むしろ不透明さを際立たせる結果になっていました。

 こうした状況から、妻と3歳の娘を亡くした遺族の男性は記者会見を開いたり ブログ を開設するなどして情報発信を開始。 亡くなった母子の写真や動画を公開し悲しみを訴える一方、加害者に対し 「二人の命を奪った罪は償ってほしい」 と厳罰や法整備を求める署名活動を行うと、事故やその後の対応に怒りを感じた人たちが署名や情報の拡散で支援。 街頭署名や郵送分も含め、合わせて 39万筆もの署名が集まることとなりました。

法の運用に幅があるのは良いが、そこに 「発表できる合理的な理由」 はあるのか

 今回のケースでは、報道内容を見る限り、司法の対応やメディアの側に明白な違法行為は当然ながらありません。 事件事故などはケースバイケースであり、似たような状況でも必ず同じ手続きとなるわけではありませんし、またそうすべきでもないでしょう。 個別に丁寧な対応をするのが望ましい姿です。

 高齢者には留置場に拘束しての取り調べに対する体力や健康状態の懸念もありますし、公務員や資産家などに対して逃亡の恐れを低く判断し逮捕を見送るのも、一方の合理的な理由ではあるでしょう。 容疑者の身柄を拘束し自由を奪う逮捕ですが、別に見せしめや懲罰のために行うのではなく、あくまで逃亡や証拠隠滅を防ぎ公正な捜査を行うためのものです。 逮捕しない方が事件事故の公正・迅速な解決にふさわしい場合だって当然あるでしょう。

 しかし加害者の年齢、加害者の事故後の状態、事故の被害状況、その他の条件などを比較して、ほとんど同じかより軽微だったケースで、現行犯逮捕がされたり実名報道や容疑者報道がされていることなどは多数あります。 それぞれの事故・事件に沿った個別の対応を認めた上で、なおそれだけでは理解できない手続き判断を左右する明確な基準の違いが示されないからこそ、様々な憶測を呼び、批判の声が高まる結果となったのでしょう。

 もちろん司法が恣意的に逮捕を乱発したり自供しない限り長期間拘留したり、逮捕された段階でまるで真犯人であるかのように根掘り葉掘り人となりまで メディア・スクラム状態 で報道するメディアのありようには問題があり、それぞれの手続きを人権に配慮しながら慎重に行うことが必要です。 しかしその慎重さが、まるで 「一部の人だけ」 に行われるような状況なら、手続きに瑕疵がなくとも法の下の平等や公平な報道の理念に反するものになるでしょう。

 今回のケースとそれ以外のケースのどこがどう違うから逮捕も起訴も容疑者報道もされないのかについて、法治国家の警察や検察はもちろん、権力の監視・社会の木鐸を担うと公言するメディアにも、きちんと説明する義務や責任があるのではないでしょうか。 そしてそこに 「合理的に説明できない何か」「そうせざるを得ない空気」 がもしもあるのだとしたら、「上級国民」 なる言葉に、単なる嫌味や中傷ではない一定の正当性があるのを認めないといけません。

「上級国民」 はいるのか、いないのか

 なお 「元々ネットにはメディアや警察を批判的に見る人が多い」「だから自分の見たいものを見て素人考えで上級国民だなどとありもしない話をするのだ」 との意見もあります。 これは順序が逆の話でしょう。 こうした不透明で不可解なあれこれが過去に何度もあったからこそメディアや警察を含む公的組織を批判的に見る人が増えていたのであり、五輪エンブレム問題にせよ東池袋暴走事故にせよ、これほどわかりやすい形でその状況が現れたから、改めて批判しているのでしょう。

 公平な判断が強く求められる状況で全く同じことをしても、ある人は仕事仲間に優遇され、ある人は無視される。 あるいは、ある人は逮捕され容疑者報道されるが、ある人は逮捕されずに匿名やさんづけ肩書で報道される。 こうした不公平で不透明な状態を指して 「上級国民」 と呼んでいるのであって、「上級国民などという存在は単なる妄想であって実在などしない」 との論は、そもそもの前提が間違っています。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2015年12月8日
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