動きやすく暖かい、見た目もかわいい 「タイツ」
「タイツ」(Tights) とは、腰からつま先までを覆う一体型の衣料品のひとつで、伸縮性のある素材で作られた比較的厚手のレッグウェアのことです。 名称は英語の tight (タイト/ きつい、ぴったりした) で、脚に張り付くように着用するレッグウェアとしての原型は 靴下 や ストッキング などと同じです。 オーソドックスな衣類であり、時代や文化、用途にあわせた変化が生じる中で、とくに中世から17世紀あたりまで使われていた男性用のホースやブリーチなどが強い影響を与えています。
現在広く用いられているタイツについては、フランスで 舞台 で用いるダンス用衣装として考案されたものが原型とされます。 バレリーナが用いるバレエタイツと呼ばれるものですね。 一般的には、1726年にパリ・オペラ座の踊り子 マリアンヌ・ド・キュピス・ド・カルマゴ (La Camargo) が、スカート の丈を短くして 露出 した脚に着用したものをその起源とするようです。
動きやすいタイツはバレエの表現の幅を広げる
女性のフォーマルなダンスといえば、ロングドレスに ハイヒール を履いて横方向に回りながら優雅に舞うといった形が中心だった時代、舞台衣装のスカートを短くし (バレエスカート)、ヒールのない 靴 (バレエシューズ の原型) を導入して男性ダンサーのような縦方向の跳躍技 (空中技 (アントルシャ) や素早い足の動きを披露した ダイナミック な舞台はその斬新さから大きな注目を集めます。
現在バレエで思い浮かぶ動きや衣装の多くを女性として最初に行ったり作った人物であり、とくにアントルシャ・カトルと呼ばれる、ジャンプして空中で足を2度前後に打ち付ける技法を女性として史上初めて舞台で成功させた踊り子としても知られます。
カルマゴは大人気となり、ダンス界に数多くの模倣者を生み出す一方、舞台上で見せた様々な工夫は社交界でも模倣されました。 それはタイツや靴などの服装だけでなく 髪型 にまで及び、フランス、ひいてはヨーロッパ貴婦人らのファッションリーダーのような存在感を持つほどだったようです。 その後は新しいレッグウェアとして一般層の ファッション に取り入られる一方、旧来のストッキングやホース、ブリーチ同様に防寒・保湿といった実用性も持つ 下着 や ボトムス としても徐々に一般に普及しました。
素材は吸水性・通気性・保温性に優れ肌触りがよい綿 (コットン) や亜麻 (リネン)、伸縮性のある絹 (シルク) などの天然素材が中心ですが、ぐっと時代を下ると人工的に作られたナイロンやポリウレタンなどが比較的薄手のものに使われるようになります。 一方で、これらと並行する形で太めの毛糸で編まれた分厚い毛糸タイツ (ウール・パイルタイツ) などもあります。 編み地によって平編タイツ、リブ編タイツ、経編タイツといった分類がされ、温かさや可愛らしさから今も人気の アイテム のひとつとなっています。
脚を露出するコスプレではタイツが重宝
現代の おたく に近いところでは、女性の コスプレ で薄手・肌色 のタイツがよく用いられます。 極端な ミニスカート や脚を大きく出すコスチュームの場合、パンチラ などを防ぐためのタイツ着用は一種の マナー に近い部分もあります (コスチュームによっては生足は過度の露出として扱われることもあります)。
また全身を覆うタイツ (全身タイツ/ 全タイ) は、お笑いや仮装用の衣服として用いられる一方、顔まで覆うようなタイプのものは、着用者の個性や人間・生き物っぽさを喪失させ無機質なイメージになるとして、一部のマニアの 性癖 に 刺さる として珍重されています。
日本では昭和を中心にバルキータイツが普及
タイツが日本において普及したのは洋装文化が入ってきた明治以降ですが、レッグウェアとしては靴下やストッキングがその中心でした。 一般層にもタイツが本格的に広がったのは洋装が定着した 昭和 に入ってからで、戦前 から戦後にかけてウール糸で編まれた厚手のものが流通していました。 これはバルキータイツと呼びます。 大人が防寒用に用いることもありましたが、とくに小さな子供がよく身に着けていました (あたしもよく穿かされました)。
同じような形をしたものに前述したストッキングがありますが、違いは生地に用いる編み糸の太さ (及び組成) と用途や一部製法の違いによります。 おおむね糸の太さの単位であるデニールによって区別され、一般的に25デニールから30デニール未満の薄いものをストッキング、それ以上をタイツと呼んでいます (25D 程度はシアータイツと呼ばれることもあります)。 なお1デニールは 9,000メートルで1グラムの重さの糸になります。
用途については脚の地肌を美しく見せる美脚効果に優れたストッキングに対し、厚手のタイツは防寒・脚部のサポート機能に優れている点が特徴として挙げられます。 ストッキングと違い厚手のため耐久性が高く、伝線や破れなどもしにくく、多少ほころびが生じても直しやすいのもポイントでしょう。
また前述した毛糸のものを含め、バリエーション が豊富なのもタイツの特徴です。 子供用のものなどは、可愛らしい 柄 や 模様 が編まれたものもあります。 一方でカジュアルなイメージが強く、あまりフォーマルな場では使われないでしょう。 分類上はタイツ扱いの40デニール程度までのものなら、色 や 透け ぐあい、着用する地域や季節によっては 防寒対策 として許容されることもあります。 またフェイクタイツ (フェイクスキンタイツ) のように、表面が素肌のように見える肌を模したタイツもあります。 ムダ毛処理がされてない場合でもストッキングのように透けないため、重宝するという人もいます。
かつては手袋やマフラー、靴下などのように手編みのタイツなどもよく自作されていましたが、趣味 としての手編みや手芸全般があまり流行らない時代となって、比較的手軽に作れる赤ちゃんや小さな子供用のもの以外では、めっきり見なくなりました。 一方で自作ではなくハンドメイド工房や作家による魅力的な手編みタイツは個性的な着こなしが好きな女性などが選ぶこともあります。
タイツやストッキングの流通量は1980年あたりをピークに徐々に減り始めますが、可愛らしい見た目から冬季を中心に何度か短期的なリバイバルブームが生じており、とくに1990年代から2000年あたりの 生足 が当たり前になりつつあった女子中高生や一部の ギャル の間で、比較的大きなタイツブームも生じています。
スパッツやレギンスは街中で用いるボトムス扱いにも
ちなみにタイツと似たもの (タイツの一種) にスパッツ (レギンス/ カルソン) やトレンカがありますが、主に丈 (長さ) とそれに適した用途に違いがあります。 タイツはつま先まで覆いますがスパッツ類は足首くらいまでで、長さによってレギンスなどに細かく分かれます。 短いものではひざ下やひざ上あたりまでの丈のものもあります。 またタイツは防寒を含め上にスカートや 半ズボン などを重ねる インナー としての使い方が多いのですが、スパッツはスポーツ向け、レギンスはよりファッション向けでしょう。
動きやすく楽なので部屋着として利用したり、近年では外出用のボトムスとしてスカートなどを着用せずにそのままスパッツやレギンスのみを着用するケースも増えてます。 これは一般のタイツと違い足先を無視できるため、厚みを増やしたりアレンジがしやすいという部分もあります。 バリエーションの豊富さでスポーツの場以外の街中着としても使われるようになった 体操着 における ジャージ や 短パン などと同等の扱いですね。
これを 「はしたない」「下着のようで恥ずかしい」 とする意見もありますが、元々が中世・近世のホースやブリーチと同じ系譜の衣類なのですから、数世紀を経て先祖返りしただけだとも云えます。 かつては男性もインナー・ルームウェア扱いだったステテコを穿いて近所に出歩く姿がありましたが、ステテコ自体が廃れたために見かけなくなっただけですし。 というか昭和のひと昔ふた昔前はバカボンのパパみたいなステテコにダボシャツ (鯉口シャツ)、ラクダ腹巻に雪駄やら下駄やらの おじさん とか、まぁまぁいましたし。
そもそも服飾史的に考えると、レッグウェア始め服飾品はそれぞれの衣類が分類上の境界線をつなぐ中間の衣類を グラデーション のようにたくさん持っていて、厳密な分類がかなり難しいというか無理が生じる部分があるんですよね。 そもそも同じ衣類でも国や地域、時代やメーカーによって基準や言葉が違ったりもします。
例えば パンスト はアメリカ英語ではパンティホースとか、あるいは単にナイロンと呼んでいた時代もありますし、イギリス英語では基本的に同じタイツです。 タイツとストッキングを50とか60デニールあたりで区分とする地域もありますし、メーカーによっても異なります。 また近年になって ネット で 通販 が始まると、消費者の目に留まりやすいよう、メーカーや販売店、ECサイトが商品説明に似たようなキーワードやタグをまとめて詰め込んで、いよいよ言葉が曖昧になってきています。 一般に 網タイツ と呼ばれるものも、その多くがデニール基準ではストッキングだったりもします。
服飾に関しては史家とか研究者や評論家、市井のマニアなども大勢いますが、一般人 のファッションにダメ出しをしたり流行を追う姿が軽薄に見える場合もあるなどで、何かと煙たがられやすい存在ではあります。 しかしファッションは一見華やかで派手に見えつつも移ろいやすく、継続して把握したり追いつくのが極めて大変な、地味 で大きな努力を要する世界です。
筆者 はファッションに対してたいした関心も見識も持ち合わせていない人間ですが、お気に入りの服を着て外に出るとちょっとした高揚感を覚えますし、大切な人とのお出かけに何を着ようかと悩むことの楽しさも、目についた新しい服に興味を引かれる好奇心も、ほんの少しくらいは理解できるつもりです。 彼らはそこに 「好き」 で人生をかけて飛び込める人たちであり、いつもすごいなと感心してしまいます。







