同人用語の基礎知識

聖地/ 聖地巡礼

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信者は続くよ聖地へ向かい…いまや アニメ による 「萌えおこし」 なんて言葉も

 「聖地」 とは、「聖なる場所」(Holy Sites/ Holy Ground/ Sacred Ground)、「信仰の対象となるような場所」 のこと、「聖地巡礼」 とは、そこを聖地だと崇める人たちが、自らの信仰を高めるため、あるいは信仰の証を立てるため、その場所へ (困難を克服して) 訪れること (巡礼の旅/ Pilgrimage) です。 「聖地礼拝」「聖地探訪」、あるいは宗教的な意味の聖地を嫌ったり、創作物の舞台となったことを狭義で示す 「舞台探訪」 などとも呼びます。

 同人関係者が 「コミケ」 が開催される 「東京ビッグサイト」 をそう呼んで訪れたり、アニメファンなどが好きなアニメ作品に登場する場所、モデルとなった土地をそう呼んだり、あるいは 「秋葉原」「乙女ロード」 をそう呼ぶ場合もあります。 音楽の世界では、歴史的なコンサートが開かれた会場なども 「聖地」 と呼ばれます。

聖地の元ネタ? としては、やっぱりエルサレムの旧市街です

 狭義、本来の意味での 「聖地」 や 「聖地巡礼」 と云えば、宗教における神聖な場所、とりわけ世界三大宗教 (ユダヤ教・イスラム教・キリスト教) の聖地、エルサレム (東エルサレム) へ、信者が聖なる価値を見出し訪れることを指します。

 エルサレムには、聖墳墓教会や嘆きの壁、岩のドームなどの宗教的に極めて重要なだけではなく歴史的にも有名な施設、遺構が建ち並び、1981年にはヨルダンによって申請され、「エルサレムの旧市街とその城壁群」 として世界文化遺産にも登録されています。

 巨大な3つの宗教、それも歴史的に血で血を洗うような激烈な宗教戦争を繰り広げてきた三大宗教の聖地が、歴史的経緯で当然とはいえ1ヶ所にまとまっているだけに、各宗教の信者の巡礼も時期によっては困難を極め、「訪れることが夢」「万難を排して訪れることこそが真の信者の証」 のような特別な意味、意義が、数十世紀に渡って積み上げられてきており、三大宗教のどれにも帰依していない無関係な人を含め、人類が自他共に認める聖なる場所といってよいと思います (ちなみにエルサレムの原型は紀元前30世紀、カナンの時代と云われています)。

その後 「聖地」 は、あらゆるカテゴリで 「象徴する場所」 の意味として慣用句化

 日本は仏教や神道の国ですが、「高野山」 や 「比叡山」、あるいは 「身延山」 などがそうした場所に当たります。 ただし 「聖地」 という呼び名はあまり一般的でなく、「母山」 や 「霊山」、「霊場」「霊地」、「本山」「総本山」 なんて呼び方が多いようです。 ですので 「聖地」 を本来の宗教的な意味で使うことは少なく、ほぼ近代になって 「俗語化された一般名詞」 としての使われ方とその普及が、もっぱらだったようです。

 転じて 「聖地」 は、ある民族なり職業なり芸術なりスポーツなり、あらゆるカテゴリの 「最も重要な場所」「発祥の地、終焉の地のような記念碑的な場所」 を指し示す言葉として使われるようになりました。

 日本における俗語的な 「聖地」 の正確な初出第一号はわかりませんが、世間に大きくその言葉が広まったのは、近代オリンピック (五輪) の日本参加 (初参加は 1912年ストックホルム夏季大会) あたりからでしょうか。

 この時は男子陸上のみの参加で大きな盛り上がりもなかったようですが、1936年のベルリンオリンピックは初のラジオ中継がされたこと、日独伊の軍事同盟の端緒である 日独防共協定が締結され日独友好が盛んに喧伝されたこと、スポーツの振興が国威発揚と軍備増強に直結していた時代だったこともあり、「オリンピックの聖地」「スポーツの聖地」 としてギリシャのアテネが盛んに取り上げられたことにありそうです。

文化作品、アーティスト生誕の地などが聖地化

 その後 「聖地」 は、作家や画家、作曲家などの偉大な芸術家の生誕の地 (生家) などをあらわす呼称として広まり、それはその作家らの作った作品のモデルとなった地や登場する場所への言葉としても使われるようになりました。 それに従い、その作家や作品のファンが、「その場所をひと目見てみたい」 と訪れるようになり、「聖地巡礼」 が始まったようです。

 ところで、こんにちのような言葉の使われ方として一気に広まったきっかけは、ロックコンサートにおける専門誌や週刊誌の報道にあったようです。 「ロックの聖地」 と云えば、アメリカはニューヨーク州サリバン郡べセルで開催される 「ウッドストック・フェスティバル」(Woodstock Music and Art Festival) が有名ですが、1969年8月15日から3日間開催されたこの野外コンサートは 50万人ものファンが集まり伝説化。

 1960年代のアメリカを覆った独特な空気などもあり、日本でも 「聖地」 と盛んに伝えられるようになりました。 以降、特定のイベントや作品を象徴するような場所を 「聖地」、そこに人が集まること (それもかなりの大人数) を 「聖地巡礼」 と、マスコミや一般の人も、普通に使うようになったようです。

おたく系の聖地と云えば、まずは 「トキワ荘」

 漫画ファンや、いわゆる 「おたく」 系の目立った 「聖地」 の最初のケースとしては、東京の豊島区南長崎にあったアパート 「トキワ荘」(1952年12月6日〜1982年11月29日) があまりに有名です。

 漫画家、手塚治虫の 1953年の入居を皮切りに、駆け出し時代の石森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄、水野英子、つげ義春、つのだじろうといったそうそうたる著名漫画家が多数入居 (家賃は月 3,000円)。 それら漫画家が有名となると、「漫画家の聖地」 さらには 「漫画の聖地」 となり、存在を知る者が見物に訪れることが多かったようです。

 後に 「トキワ荘」 の名と場所が広く知られるようになると、すでに著名な漫画家らは退出した後だったにも関わらず半観光地化。 1982年の取り壊しの際には、特別番組がテレビで放映されるほどでした。 …すいません、ここ行きました。 似たニュアンスとして、大手アニメ製作会社のスタジオとか、漫画家のプロダクションの所在地なども、聖地化してましたね。

アニメ版 うる星やつらの舞台、武蔵小金井が注目を

 作品中に登場する場所が 「聖地化」 となって大きく注目を集めたといえば、アニメ化もして大ヒットとなった 「うる星やつら」(高橋留美子/ 少年サンデー/ 小学館/ 1978年〜1987年) に登場する東京の練馬区 (友引町のモデル) でしょうか。

 その後のアニメでは武蔵小金井となりましたが、印象的な放映第一回目の 「あたるとラムの鬼ごっこ」 が武蔵小金井の商店街で行われ、多くの 「うる星ファン」 が、「聖地巡礼」 とばかりに押しかけたようです…っていうか、家がそばなので、あたしも行きました! ><。 もうこの頃から、「おたく」 系、「アニオタ」 系の人たちがこういう場所に行くのを 「聖地巡礼」 と盛んに呼んでいましたね。

 実写である 「特撮」 なんかもそうですが、おとぎの国の物語であっても、どこかに作者がイメージした、あるいは参考にした土地があるものです。 アニメやマンガ、小説のファンなどは、それをもろもろの状況証拠 (作者の生い立ちなども含め) から推理し、当てはまる場所を探して、実際に訪れる。 こういう楽しみは、何も 「おたく」 だけの楽しみではありませんが、思い入れの激しい人が多いこともあり、やっぱりオタク界隈で作品ごとに、よく話題になっていたようです。

アニメ、セーラームーンの舞台、麻布十番と氷川神社が聖地としてブレイク

麻布十番の氷川神社
麻布十番の氷川神社
 この種の 「聖地巡礼」 ネタで絶対に忘れられないのは、アニメ 「美少女戦士セーラームーン」(武内直子/ なかよし/ 講談社/ 1992年3月7日〜1997年2月8日) に登場した麻布十番と、作品中に登場するキャラ、火野レイ (セーラーマーズ/ 第10話「呪われたバス! 炎の戦士マーズ登場」 より登場) の住む 「火川神社」(麻布十番に実在する氷川神社がモデル) でしょう。

 神社ということもあり、「コミケ」 帰りのセラムンファンが大挙して押しかけセラムンキャラの絵を描いた絵馬を大量に奉納。 その様子は当時のアニメ雑誌だけでなく、一般マスコミも大きく報道するムーブメントとなっていました。

 当時筆者は 「パソコン通信」 のセーラームーン関連の場所に入り浸っていましたがw、やれ劇中に登場するゲーセンのクラウンは同名のパチンコ屋で実在するの、私立T.A女学院は麻布そばの東洋英和女学院がモデルだのと、膨大なリサーチ結果が次々アップされ、それらをプリントした紙と地図を片手に訪れるファンが大勢いました…っていうか、あたしも行きました! 絵馬も奉納しちゃったです! それも、サークル仲間で集って、何度も何度も何度も反復で! ><。

アニメ 「らき☆すた」 の大ヒットで埼玉県鷲宮と鷲宮神社がブレイク

 2007年になり、アニメ 「らき☆すた」(美水かがみ/ コンプティーク/ 角川書店/ 2007年4月〜2007年9月/ 原作連載は2004年1月〜) に登場する柊姉妹 (二卵性双生児の柊かがみ、柊つかさ、他に姉が2人いる) の住む神社のモデルとなっている埼玉県鷲宮町の鷲宮神社が注目を集め、ファンが殺到しました。 ネット界隈で話題になっているところに、アニメ雑誌が聖地特集を組み、一気に来訪者が増えたようです。

 おりしも 「YouTube」 などの動画共有サイトが流行っていたこともあり、アニメのシーンと実際の風景を並べて見比べるような動画も多数アップ。 さらにモデルとなった現地で劇中のキャラと同じような動作や踊りを行った動画も次々にアップされ、話題に。 それを受け、鷲宮町商工会が町おこしを開始。 盛り上がりを見て主人公こたなの住む町のモデルとなった幸手市もグッズ類などの制作販売を通して町おこしにつなげるなどヒートアップ。

 2007年12月2日には、聖地化されていた鷲宮神社で公式参拝 (らき☆すた原作者やアニメ声優などが参加するイベント) が開催され、記念グッズの発売や町ぐるみのサービス、記念碑の建立などが行われ、熱心なファン 3,500人が集結。 翌 2008年には、鷲宮神社の初詣客が、昨年の 13万人から、好天も手伝ってか一気に倍増の 30万人に膨れ上がり (実に 17万人増)、萌えを使った町おこし、「萌え起こし」 のモデルケースとしても注目を集めることに。

 その後作品に登場する柊一家を鷲宮が 「住民登録」し、住民票交付を行ったり、2008年9月7日に開催された、毎年恒例のお祭り、「土師祭」(はじ祭) に 「らき☆すた」 キャラの描かれたアニメ神輿 (痛神輿) が登場、120人に担がれて練り歩き、前年比約2万人増となる約5万人が訪れ賑わうなど、大きな話題となりました。

頻繁に話題に上る、物語の 「舞台としての聖地」 一覧 (暫定版)

美少女戦士セーラームーン 東京都港区麻布十番町
Kanon 東京都東大和市
Fate/ Stay night 兵庫県神戸市/ 明石市
AIR 和歌山県日高郡美浜町
最終兵器彼女 北海道小樽市/ 札幌市
機動天使エンジェリックレイヤー 東京都渋谷区恵比寿
おねがい☆ティーチャー 長野県大町市
ひぐらしのなく頃に 岐阜県白川郷
涼宮ハルヒ 兵庫県西宮市
らき☆すた 埼玉県春日部市鷲宮町

 なお東京の新宿や渋谷、秋葉原などは関連作品が膨大にありますし、観光地として名高い神奈川県の横浜や湘南、京都府、作品の設定上避けて通れない場所 (例えば軍事モノにおける呉や、レースモノにおける富士や鈴鹿など) なども、作品の舞台としてはおなじみの場所です。 あまりに多くの作品で当たり前のように使われている場所は、ありがたみも薄れるのか、「聖地」 としては注目されない傾向もありますね。

庶民のささやかな楽しみ、「聖地巡礼」

 聖地巡礼とはちょっと違いますが、江戸時代にも、「お伊勢参り」 などが庶民の 「娯楽」 として存在していました。 神仏と信仰を建前としているので役人や奉公人の主人もむげに断れず (黙って行く人もたくさんいた)、集団で参詣をしていましたが、宗教的な目的はもちろんあるにせよ、それをきっかけに知らない土地へ行き、見聞を広め、また同じような考え方を持っている人たちと交わって親睦を深める。 「神様」 を 「ダシ」 にした、ある種の 「庶民の知恵」 というか、「たくましさ」 を感じます。

 軍隊を派遣して殺し合いで奪い合った聖地が、今は (少なくとも日本では) 好きなアニメのキャラが普段見ている (であろう) 風景を自分も見たい、いつも吸っている空気を自分も吸いたいと訪れる 「癒しの聖地」 となっています。 イスラエル近辺はいまだに血なまぐさい事件や紛争が起こっていますが、筆者なんかは、日本人でよかった、アニメファンで良かったと、心の底から思ってしまいますね。

 なお 「秋葉原」 をアキバ系 (「おたく」) の聖地、「乙女ロード」 を乙女系 (「腐女子」) の聖地とも呼びます。 カテゴリごとに 「聖地」 が生まれるのは当然とは云え、やっぱりアニメやら 「おたく」 関係では、「聖地」 の数がかなりありますね。 まぁそれで地域が活性化するのなら、それもまた良しでしょうけれど。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2007年8月12日)
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