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越境投稿

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文化や常識が違うと、あれこれと軋轢も生じる 「越境投稿」

 「越境投稿」 とは、もっぱら ネット において、外国人や部外者が海外や異なる文化圏の人間に向かって相手のコミュニティへ コメント なりを 投稿 することです。

 とはいえ Twitter や Facebook、TikTok といった SNS や Youtube などの 動画サイト などなど、日本でも影響力のある主なネットサービスの多くが海外企業の 運営 であり、それらでは利用者の居住地域や国籍といった部分も関係なく、世界中の人間が集いシームレスに繋がっています。 なのでわざわざ越境投稿と呼ぶ場合は、その国のローカルなサービスに出向いて投稿する、あるいは海外居住の外国人の投稿に相手国の母語でコメントや レス をするといった行為を指すと云って良いでしょう。

 例えば NAVER (韓国) とか Weibo (微博/ 中国)、bilibili (ビリビリ/ 中国)、Yalla (中国運営の中東向け)、Dcard や Plurk(台湾) といった、もっぱら母国利用者の割合が高いサービスに日本人が日本人として登録して投稿するとか、グローバルなサービスならアメリカ人に英語で リプ を送るみたいな状況が代表的でしょう。

 逆に日本のローカル・ドメスティックなサービス、例えば 2ちゃんねる とかニコニコ動画などに外国人が日本の アニメゲーム元ネタテーマ にした作品を投稿したり、日本語で投稿したり、それらに外国人がレスをする場合も越境投稿とされることがあります。

 なお 「越境」(境界や国境を超える) という言葉は 普通 の日本語ですが、同人用語 では 作品や ジャンル の垣根を超えると云った意味で使われることもあります。 その場合の越境投稿は、別ジャンルの投稿をするとか、複数の作品・ジャンルにまたがったクロスオーバーな作品を投稿するといった行為を指すこともあります。

ネットは世界中つながっているとはいうものの…

 ネットは世界中つながっているのですから、ことさらに越境といっても意味がないというか、ナンセンスに感じられる話ではあります。

 しかし特定の国や地域と強く結びついた比較的ローカルなサービスの場合、同じ言論空間だと思えないほど場の空気や前提とする常識が日本やグローバルサービスのそれとは違います。 ある程度相手国の状況を知っていて現地の人と交流がしたい、その国でビジネスがしたいと思っている人が配慮しながら行うならともかく、いつも使っている国内サービスと同じ感覚で使うと、様々なトラブルが生じる可能性があります。

文化や政治、宗教、歴史観の違いから、思わぬ摩擦やトラブルを生むことも

 日本人が海外企業による運営で特定の国籍の利用者が圧倒的多数となっているサービスに投稿する場合、注意しなくてはならない点がいくつかあります。 例えば身近なところで云えば、中国の IT 関連企業の成長や K-POP 人気などによって中韓のサービスを利用する日本人も増えていますが、どちらの国も日本との歴史上の関りやそれへの意識の違いから、日本人の投稿に思わぬ反応や摩擦を生じる可能性があるでしょう。 とくに歴史上大きな出来事があった日は敏感・センシティブな日となりがちです。

 中国の場合、国が定めた 「国難記念日」 があります。 日本と関係がある代表的なものとしては、7月7日 (盧溝橋事件)、9月3日 (抗日戦争勝利記念日)、9月18日 (満州事変)、12月13日 (南京入城 (南京事件/ 南京大虐殺犠牲者国家追悼日) などがあります。 こうした日に日本人であるのが明確な状態で政治的・歴史的な解釈ができるような不用意な内容の投稿をするのはリスクが高いでしょう。 それどころか単に能天気な投稿をこのタイミングにたまたましただけでも、悪意のあるなしに関わらず炎上しかねない厳しい状況があります。

 過去には日本企業の中国法人などが偶然この日に新製品発表などを行い炎上やボイコット騒ぎ (日貨排斥) が起こり、それどころか 「国民感情を傷つけ世間を騒がせた」 として中国当局から厳しい批判をされたり罰金処分まで科される事態になっています。 歴史問題ではないものの、現在進行形の話題として、日本の尖閣諸島 (中国名 釣魚群島) も 可燃性 の高いものの一つでしょう。

 また対日感情に関するもの以外にも、台湾を中国とは別の独立した国のように表現する、天安門事件 (六四天安門事件) やチベット・ウイグル問題、中国共産党やその指導者、それらを連想する内容の投稿をするなども、リスクが非常に高い危険なものとなっています (いわゆる 「辱華」 だとして、実際に炎上騒ぎが日本以外の国を含めいくつも生じています)。

 一方の韓国も、8月15日 (光復節) はもちろん、2月25日 (日本の竹島の日)、3月1日 (三一節) などは、それぞれの主義主張はともかく、投稿内容に一定の配慮は必要かもしれません。 こちらも内容に関わらず、そのタイミングでの投稿というだけで、何かしらもっともらしい理屈や理由をこじつけて 叩かれ ることがあります。 視覚的なものでは、旭日旗やそれに近い放射状のデザインなども、2011年1月のサッカー日韓戦におけるキ・ソンヨン選手の 「猿マネ」 セレモニー事件 (イシマタラ騒動) を発端にあれこれと難癖をつけられて批判されることがあります。 日本の 「大正ロマン」(日韓併合をこじつけたもの) が忌避されるといった事件も起こっています。

 こうした日に、歴史的経緯を無視してことさらに現地に寄り添ったコメントを出すのも、それはそれで今度は日本の国民感情を傷つけたり消費者から批判を受けることにもなるでしょう。 2005年および2012年の尖閣諸島を発端とする中国の反日暴動の際は、それぞれ多くの都市で暴動や略奪が発生し、現地の日本企業の建物が破壊・放火されるなどして、一部の日系企業は被害を避けるために中国側主張に立ったコメントを出したり店舗に横断幕や プラカード を掲げるなどして、逆に日本国内から批判も生じています。

 これらについては 愛国無罪 を叫んで暴れまわる暴徒に対して破壊や略奪を防ぐための苦渋の対応だった、中国人の現地法人関係者が勝手にやったなどの情報もあって沈静化しましたが、一部にしこりを残すものにもなりました。 批判を覚悟で積極的に政治的なテーマを発信するつもりがあるのならともかく、そうでないのならその日を避けるというのはリスク管理として当たり前のものでしょう。

 これ以外にも日本とは直接的な関係が薄いものの、ユダヤに関する記号やマークにも注意すべきものがあります。 代表的なのは、ナチスドイツのシンボルであるハーケンクロイツと似た まんじ (卍) とか、六芒星と同じような形の籠目紋などです。 これらはユダヤ由来のものとは無関係で形状の一部や来歴なども異なりますし、日本古来のものでもあるため、一方的に規制されたり批判されるいわれなど全くないものです。 しかし相手側のコミュニティに参加し投稿するのなら一定の配慮をしたり、少なくとも誤解を基にした指摘や非難を受けた際にきちんと説明や反論ができるようにはしておきたいものです。 相手の無知や誤解から差別者扱いされるのは本当にばかばかしいことです。

海外旅行などで現地を訪れた際の、越境投稿に対するリスク

 越境投稿の中でも直接的な被害が生じかねないものに、海外旅行などで現地へ訪問しての SNS の投稿があります。 海外では多くの若者が日本人以上に特定 SNS を活発に利用していることがあり、都市部や観光地、とりわけちょっとマイナーな場所に訪れる外国人の投稿を追っているような人もいます。 情報収集のつもりで 「どこか美味しいご飯が食べられるお店はありませんか?」 などの問いかけを、国内感覚で行うのはとても危険です。

 それどころか、単にどのホテルに泊まっているか、今どこにいるか、これからどこへ行くかといった情報を現地で リアルタイム に発信するだけでも、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります (これは国内でも避けた方が良いですけれど)。 とくに女性だけのグループ旅とか、1人旅といったことが分かる情報発信は非常に危険です。

 せっかく訪れた海外ですし、現地の人とのふれあいも可能な範囲で楽しみたいものです。 また訪れる国の人達を悪者や犯罪者かのように警戒するのも申し訳ない気分がしてしまいますが (不快な目に遭っても、単にコミュニケーションにまつわる文化や常識が違うだけの場合も多い)、実際に被害に遭ってからでは遅すぎます。 旅の様子を投稿するなら、移動や旅を終えた後にしましょう。 また投稿によって万が一現地の知らない人から 「SNS で見たから会いたくて来た」「案内してあげる」「友達になろう」 などと声を掛けられても、絶対についていくことがないようにしましょう。

 まぁ海外の おたく っぽい イベント などに 遠征 すると、こちらが日本人というだけで親しみを込めて接してくれる方も 会場 には多いですし、それはとてもありがたく、また嬉しいものなので、このあたりは本当に難しいですけれど。

逆に海外企業の言動が日本で問題視されることも

 越境投稿が逆に日本で問題となるケースもあります。 海外企業が日本人向けの アカウント で不用意な投稿をして日本で炎上するパターンです。 例えば2015年8月9日に Twitter のディズニー公式の日本向けアカウントが、アニメ映画 「ふしぎの国のアリス」 の 「お誕生日じゃない日のうた」 を引き合いに 「なんでもない日おめでとう」 を投稿して炎上するという騒動がありました。

 これは同映画中で流れる音楽とそのシーンのメッセージと同じもので、「誕生日といった特別な日ではない平凡な日だけど、いつも感謝と祝福を」 といった程度のものでした。 別に悪意なども感じられず、また実際に投稿したのも日本法人の日本人なのでしょうし、本来なら炎上などするはずがないものでした。

 しかし8月9日はアメリカ軍によって長崎に原爆が 投下 され7万人以上が亡くなった日本人にとっては鎮魂の日であり、ディズニーはアメリカ企業です。 結果、「大勢の日本人が原爆で殺された日なのになんでもない日なのか?」「日本人をバカにしている」 と批判が集中。 同アカウントは当日中に 公式 に謝罪し、くだんの ツイート も削除する結果となっています。

 また2021年11月28日に公開されたナイキの PR動画 「動かしつづける。自分を。未来を。The Future Isn't Waiting」 も、プロテニスで活躍する大坂なおみ選手と日本に住む外国人や外国にルーツがある10代の少女3人を 主人公 に、日本人による差別やいじめにスポーツを通じて立ち向かう、勇気を得るといった内容で炎上しています。 もちろん日本にだって差別はありますが、それをよりによって人種差別による殺人事件などが頻発し、BLM運動 (直接的には 2020年5月の白人警官による黒人圧死事件への抗議運動) も燃え盛るアメリカの企業がこのタイミングで上から目線でやるのはどうなのかとの意見は、小さくないものでした。

 さらに世界各国でホテルやリゾートを展開している 「ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ」 が2023年10月24日に Youtube で公開した PR動画 「ヒルトン「とまるところで、旅は変わる。予定でいっぱいの休暇」篇」 も、日本の旅館を時間の融通が利かないせわしない宿泊施設だと揶揄するような内容で、「日本の旅館をバカにしている」「自分を上げるために他者を下げるとか最低だ」 などと抗議が巻き起こり、その後動画を削除 (非表示) にしています。

 この他、人権や環境問題に関する話題で日本や日本文化に対する無知、あるいは差別的な感情から上から目線の問題提起を行って炎上すると云ったケースはかなりあります。 代表的なのは捕鯨問題にまつわる欧米企業の日本バッシングともとれる声明や広告などですが (捕鯨問題に関するアメリカ企業パタゴニアのそれが有名)、前述した中韓で大きなビジネスをしている多国籍企業が、中韓に配慮して日本人にとって一方的で事実関係も誤った不快な主張を行って反発を受けるといったケースもあります。

 対日本と云う訳ではないものの、日本でも強い批判に晒されたものに、イタリアの高級ブランド、ドルチェ&ガッバーナ(D&G) の中国人差別のようなインスタグラムの広告動画もあります (2018年11月)。 内容は中国人女性が箸を使ってイタリア料理を不器用に食べるといったものでしたが、中国人差別というよりアジア人差別、あるいは東アジアの文化を揶揄するものとなっており、日本でも これはひどい と話題になりました。 同様の騒動は2021年11月にもフランスの高級ブランド ディオール (DIOR) のインスタグラム広告で起こっています。 中国人女性を欧米的なアジア女性観に基づく審美基準で用いたとして炎上したもので、写真は中国人女性で著名なカメラマン・画家によるものでしたが、「欧米の価値観に媚びている」 との批判を浴びることとなっています。

文化や宗教なども、ときに炎上では済まないほどの騒動になることも

 文化や宗教に関する投稿も非常にセンシティブなものになりがちで、日本国内の ノリ で投稿や イラスト の公開などを行うと、思わぬ反応を巻き起こすことがあります。 例えば国内では着物 (和服) やチャイナドレス (民族衣装)、巫女装束やサンタクロースコスチューム (宗教的衣装) などを身に着けたエッチな を描くこと (季節絵) は極めてありふれた存在ですが、これを国外で行ったら、あるいは別の民族衣装や別の宗教的衣装で行ったら、どのような反応が返ってくるかわからないようなコミュニティもあります。

 とくに日本と歴史上のあれこれがあった国、日本とあまり交流のない国の民族衣装とか、偶像崇拝を禁じるような宗教、厳格な規律を求める宗教の場合、炎上を超えるような摩擦が生じ、ネタや冗談では済まなくなる可能性もあります。 近年では 文化の盗用 という文脈も、その是非はともかく広がってきています。 ポリコレ (ポリティカル・コレクトネス) や多様性が人を攻撃するための道具として使われ、例えば黒人の キャラ を描いて 肌の色 が薄かっただけで差別だと見なされ攻撃されるようなケースすらあります。 悪意などなくとも、越境投稿が当たり前になりつつある中、ちょっとした行き違いで トラブル になる可能性が高まっていると云えるかもしれません。

 日本は 表現の自由 がある国ですが、それでも社会常識やモラルから著しく離れた表現は、とかくバッシングの対象になりがちです。 海外には表現の自由がない国、検閲が当たり前の国もあります。 文化や宗教、あるいは性や 児童ポルノ に関する意識も日本とはまるで違う国もたくさんあります。

 これらは個々人の主義主張や行為の是非はともかく 「そういうもの」 でもあるので、越境をする側が用心深く配慮すべき問題なのでしょう。 「郷に入っては郷に従え」 というやつです。 逆に異なる国や文化圏の人が日本で投稿する場合は、明確な ヘイト表現 でもない限りいちいち相手の悪意を疑ったりせず、できるだけおおらかに受け入れる寛容さを持って接したいものです。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 2012年4月9日)
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