絵を描く際には意識されがちな大テーマ… 「季節絵」
「季節絵」 とは、季節感のある 絵 や イラスト、あるいは季節そのものを お題 や テーマ にした視覚的作品のことです。 広い意味の 「お題・テーマ絵」 であり、また季節の移り変わりにお正月やクリスマスといった年中行事や イベント がつきものであるため、行事絵 や イベント絵 と呼ばれることもあります。
いわゆる キャラ絵 (キャラクター を描いた絵) の場合、それが オリジナル のキャラでも既存の アニメ や マンガ、ゲーム に登場する 版権もの の 二次創作 でも、季節感や季節を モチーフ とした要素を意識して作品に取り入れた途端、ぐっと 「私たちの世界」 に近づく印象があります。
日本は南北に長く絶妙な緯度に位置することもあり、世界的に見ても国内全域で比較的豊かに感じられる四季 (春・夏・秋・冬) を持つ国です。 季節の変化を敏感に感じることは日本人にとって日々の生活と切り離せないものであり、季節をあらわす自然現象とそこに暮らす人々の営みもそれに沿って作られ、複雑に 絡み 合っています。 四季の意識や感覚が強いのは詩歌の影響が大きいのでしょうし、それは漢詩からの影響でもありますが、私たちにも、それは遺伝子 レベル で組み込まれたものだと云って良いでしょう (逆に海外の四季はイメージしづらいです (後述します)。
限られた文字数で豊かな表現を可能にするため俳句に季語が必要なように、一枚絵 に季節感を取り入れることは最小限の 要素 で作品に奥行きや味わいを与えられます。 また描く人やそれを見る人の日常生活や生きている今現在と瞬時に リンク し、あるいは季節と結びついた過去の記憶とも重なり、自然と 感情移入 や自分ゴト化が図れるものでもあります。 季節感は 「あえて無視する必要がない最高の創作要素」 だと云えるかもしれません。
春は桜、夏は水着…季節感を取り入れるだけで物語も感じさせてくれる
例えば春先に描いた絵やイラストに舞い散る桜の花びらを描くだけで、一気に作品に物語や意味が生まれます。 花見の席のような背景を加えれば、そこでもまた物語や様々な想像を掻き立ててくれる作品となるでしょう。
夏なら大きな入道雲とか麦わら帽子、海、水着、花火に浴衣など、キャラがその場にいるだけで、あるは手に持つだけで、勝手に動いてくれる場面や小物がたくさんあります。 秋なら紅葉や焼き芋、お月見や読書といったモチーフがキャラを引き立ててくれますし、冬ならクリスマス、さらに雪だるまやこたつにみかん、鍋料理などもあります。 お正月をモチーフにすれば、作者 の年賀状代わりにもなります。
既存作品の二次創作の場合、あまりに元の作品の 世界観 から逸脱した季節感を加えるのはどうかとの意見もありますが、日本風の季節感を加えることで一気に身近な存在になりますし、ネタ にせよ パロ にせよ何にせよ、好きなキャラに自分たちと同じ時間軸を与え、こちらの世界観に引き寄せるのは、ある種の 王道・鉄板 と云えるかもしれません。
また行事絵などもそうですが、日々の年中行事、歳時記的なものに合わせて絵を描いて発表するには適した時期があり、それが漠然とした 締め切り となって絵を描く人、絵師 などにとって絵を描くきっかけやモチベーションとなることもあるでしょう。 絵描き の友人や ファン にとっても リクエスト絵 のお題にしやすいですし、事前にテーマがあることで描くときのお題探しに悩むこともなくなり、インスピレーションもわきます。
これは ネット で公開する作品もそうですし、アニメ誌やコミック誌、美少女コミック誌 といった 読者 によるイラスト投稿欄への作品掲載を目指す ハガキ職人 にとっても無視できない部分です。 季節感のある作品は、やはり選ばれやすいものです。
季節絵と密接な関係がある様々なテーマや要素
春 |
暦では、立春 (2月4日頃) から立夏 (5月6日頃) まで。 受験・卒業式・入学式・制服・桜・お花見・若葉・花粉症・マスク・菜の花・節分・鬼・豆まき・春一番・ひな祭り・甘酒・菱餅・うぐいす・いちご・つくし・桜餅・ゴールデンウイーク・子供の日・こいのぼり・しょうぶ湯・柏餅・たけのこ・リクルートスーツ (リクスー) |
夏 |
暦では、立夏 (5月6日頃) から立秋 (8月7日頃) まで。 海・海水浴・プール・水着・スク水・浮き輪・水鉄砲・カニ・スイカ・扇風機・花火・お祭り・かき氷・麦わら帽子・幽霊・お化け・肝試し・お盆・夏コミ・冷やし中華・そうめん・麦茶・ビール・梅雨・傘・てるてる坊主・カタツムリ・カエル・アジサイ・夏休み・うちわ・風鈴・入道雲・蝉・蛍・虫・ひまわり |
秋 |
暦では、立秋 (8月7日頃) から立冬 (11月7日頃) まで。 月・お月見・紅葉・食欲・夜長・読書・赤とんぼ・イワシ雲・栗・柿・コスモス・鈴虫・コオロギ・台風・サンマ・松茸・ハロウィン・運動会・体育祭・ブルマー・チア・文化祭・焚火・焼き芋 |
冬 |
暦では、立冬 (11月7日頃) から立春 (2月4日頃) まで。 雪・雪見・雪だるま・雪合戦・かまくら・七五三・千歳あめ・クリスマス・ケーキ・サンタクロース・イルミネーション・厚着・マフラー・手袋・イヤーマフ・カイロ・温泉・スキー・スノボ・こたつ・ストーブ・みかん・冬コミ・年越しそば・除夜の鐘・お正月・お年玉・鏡餅・年賀状・巫女・バレンタイン |
月や暦の和名や英名は、こちら 補足/ 月・暦の和名・英名一覧 もご参照ください。
季節感のある絵にはディテールが大切?
季節絵を描く上で重要なのは、季節感のあるディテールの再現でしょう。 例えば空に浮かぶ雲も、季節によって様々な違いがあります。 夏の雲と云えば入道雲でしょうし、イワシ雲 (鰯雲) は秋のイメージです。 季節絵を描く時に、服装は夏っぽいのに桜の花が舞い、かつ空にイワシ雲ではチグハグしておかしいでしょう。
このあたりは知識として知ってはいても、具体的にどのような形状でどう描くとそれっぽく見えるかが理解できていないと、おかしな絵面になりがちです (ネットのない時代は写真集や画集を買うか、図書館に行かないとどうにもできないことが多かったです)。
国や地域、文化によって異なる季節感や自然の風景
日本の四季は何となく想像できても、海外の四季はあまりイメージできないかも知れません。 四季らしい四季がないように見える常夏や常冬の国でもそこに住んでいる人には季節の移り変わりが実感できますし、同じように四季があっても緯度の違いや北半球・南半球の違い、内陸か沿岸か、それに伴う生活様式や文化の違いなどから、季節に対するイメージはだいぶ異なります。 このあたりはずっと日本にいると日々の生活で身に染みてないので、実感がとてもわきづらいです。
例えば厳しい冬が長く続く北方の国々では、春のイメージが日本とはだいぶ違います。 日本では寒い冬が終わり暖かくなり植物は芽吹き、ひねもすのたりとのんびりしたイメージが春にはあります。 春の嵐といった言い回しもありますが、基本的にはほのぼのした印象で語られることが多いでしょう。 流行歌で云えば 「う、ふ、ふ、ふ、」「不思議なピーチパイ」「春咲小紅」 みたいな。 一方ロシアの一部地域における春は、気温上昇とともに凍り付いた大地が裂け、山々で雪崩が起こり雪解け水が濁流となり、砕けた流氷がバリバリと轟音を立てて陸に押し寄せて、ほのぼのとは程遠い騒々しく暴力的なイメージで語られることがあります。 いずれも暖かい春の到来を喜ぶものでありながら、表現はかなり異なるのですね。
また南半球は日本を含めた北半球と季節が逆だというのは頭では分かっていても、いざオーストラリアの真夏のクリスマスとか、アイスクリーム片手に半袖・半ズボン の新年祝いなどを見ると、違和感がかなり大きいです。 それは逆に、南半球の人たちから見た私たちの印象に対しても同じでしょう。 また季節の夜空を描こうとしても、北半球と南半球では見える星座などがかなり違います。 いつもの癖で何となく北極星や北斗七星を描くと、まったく違う星空や意味付けになってしまうでしょう。
そもそも海外まで行かずとも、北海道に住む人の感じる冬と、沖縄で感じる冬、間にある東京や大阪・名古屋で感じるそれも、かなり違うでしょう。 それは地域地域で場所が違う以上少しずつ違っていて当然ですし、それに伴った地域文化などともリンクして、多様な感じ方や表現方法を持っています。 日本では海や雨に関する言葉や表現がたくさんありますが、内陸国で砂漠のある国では、風に関する言葉や表現が豊富だったりもします。 国や地域の違いにも思いを馳せると、文脈によっては 「冬と云えば雪だるま」 という考え方も、ちょっと乱暴に過ぎるのかも知れません。
このあたりを作品の世界観などとすり合わせしつつ、日本風の一般的な季節感・地域や民族の文化、気候風土ごとの季節感と織り交ぜながらどうアレンジするかで、作品の説得力や面白さ、奥深さが変わってくるでしょう。 こだわって凝りだしたらキリがありませんが、せっかく四季や季節の歳時記といった豊かな作品の素材・元ネタ がたくさんあるのですから、うまく利用して作品作りに活かしたいものです。