同人用語の基礎知識

萌え…その語源と定義

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超重要キーワード 「萌え」…

 「萌え」 とは、ある好きな キャラ や人物、ものに深い愛情 (♥) を抱く事で、「○○ちゃん萌え〜」 などと云います。 用語が定着し広まって行く中で、萌えの定義や意味は複雑になっていますが、「勃起を伴わない狂おしいほどの愛情」…あたりが代表的な意味するところでしょうか。

 何故 「萌え」 と云う文字を使うようになったのか、何故比較的頻繁に 「萌え萌え〜」 と云い重ねるのかには様々な説がありますが (後述)、取りあえず 1993 〜 95年あたりから、パソコン通信 など主に ネット で急速に広まった言葉です (それ以前にも複数の 草の根ネット (個人やそれに近いグループが立ち上げた非営利のパソコン通信ホスト局) によって確認されています)。 なお萌えの対義語は一般に 萎え になります。

音は 「恐竜惑星」 から、定義づけと普及は 「セーラームーンS」「太陽にスマッシュ」 からか…

 「萌え」 の語源の有力な説としては、全60話に渡って NHK教育テレビ 「天才てれびくん」 内で放送された アニメ 「恐竜惑星」 (1993年4月5日 〜 94年1月27日) に登場するヒロイン 「鷺沢萌」(結城萌) に対して、熱心な ファン が抱く ロリコン 感情から…と云うのがあります。 番組中では、この萌ちゃんがピンチになると、ヒーローである少年が 「萌ぇ〜!」 と名前を叫ぶのですが、これをファンが真似たのが、直接的なルーツの1つだと云われているんですね。

 ちなみにこの 「恐竜惑星」、子役が数多く出演する事からロリコン趣味な人の視聴率が高い 「天テレ」 内での放送であった点もさることながら、もう一つ 元ネタ たりえる重要なポイントがあります。 と云うのは、これまでの一般的なアニメ作品と異なり、普通のセルアニメと 3D コンピュータグラフィックス、さらに実写 (3次元) までを混在させて画面を作っていた、ある意味で非常に実験的な作品だったんですね。

 萌ちゃんはアニメ、少年は実写だったのですが (たまに世界を行き来して入れ替わりもしました)、この 「現実の男がアニメの少女と一緒に…」 ってな状況は、その後の美少女アニメ・ゲームファン、いわゆる おたく が頭の中で思い描く 「理想的な生活」 を一歩先取りして視覚化していたとも云える訳で、その意味でもその後の同人世界を予言した、極めて象徴的なルーツだと云えます (もっとも、逆にかえって強い違和感を覚える人も多かったようですが… ってか、僕はそのクチでしたが (^-^;)。

かくて萌えが定義され人々の会話の語尾を飾る…

萌え…って?
萌え…って?

 「萌え」 が、愛するキャラの “固有名詞” から、「愛する事そのもの」 を表す “形容詞” へと変化、定義され爆発的に広まったのは、1993 〜 95年あたりの パソ通PC-VANNIFTY-Sserve (当時) のシグやフォーラムの会議室 (掲示板) などの発言 (アーティクル) からで、主にネット上がその舞台となったようです。

 ネット上の隠語や流行り言葉には、過去ログや全体の文脈を見ずに特定の言葉だけを早合点して使ってしまう誤用から転化したものや、FEP (日本語辞書) の誤変換や語呂合わせなどを源とするものが数多くありますが、その極めて典型的なパターンだと思いますね。

 すなわち、「恐竜惑星」 ファンが、自発言の最後に決め台詞として 「萌ぇ〜!」 を使っているのを目撃した人が、「萌えって何ですか?」 と質問、「これこれのキャラが好きだってことさ」 的な説明を受けた…。

 パソ通のフォーラムなどは、会議室の他に CB や RT、OLT (PC-VAN) と呼ばれた チャット の機能を持つ物が多かったですし、当時似たような場にいた僕の記憶でも、意味や使い方の行き違いが原因で新語や造語が極めて発生しやすい土壌だったんですよね。 そして言葉を作り出した個人が存在しない言葉は移ろい、人と人の間を行き来し、使う人それぞれが自分なりの定義をして定着して行きます。

 そして当時、前後しておたく・同人の世界を強力に牽引していたアニメ 「美少女戦士セーラームーン」 の 「S」 シリーズ (1994年3月19日 〜 95年2月25日/ 全38話/ テレビ朝日放映) の放映が始まり、多くの萌ちゃんファンのストライクゾーンにはまるキャラ、セーラーサターン・土萠ほたるの登場により、「萌」 の字が一人歩きし (実際は 「萠」 なんですが… (^-^;)、後に濫用されて、対象を選ばなくなりながら今日に至る…てのが、「萌え誕生」 に関する筆者的な解釈ですね。 まぁ当時は、声優の久川綾さんファンが 「怪しい」 を 「綾しい」 と誤変換して使い、後に独自の意味や定義を付加されていたりしましたし、キャラやタレントさんの名前が、形容詞化しやすい状況だったんですよね。

 そいやほぼ同じ時期、セラムンファンの必読書とも云われていた 「なかよし」 (講談社) に、「太陽にスマッシュ」 って マンガ が連載されたんですが、(1993年1月号〜93年8月号/ 全8話)、これのヒロインも 「高津萌」 といい、「萌ちゃん燃え燃え」 なんてフレーズが出ていましたし、あろう事か “パソコン通信” が作中で描写されていたりもしました。

 当時は草の根ネット上でも 「鴨語」 や 「波動用語」 などと呼ばれる独特の云い回しがあちこちで沸いて出ていた時期でしたし、う〜ん…有力説が全て同じ時期に同じようなファン層に浸透する形で揃っていたのは、興味深いですね。 成立の過程で様々な原因が互いに影響を与え、複合増幅していったんだと思いますね。

 なお語源には他にも、「伝説巨神イデオン」 (1980年5月8日 〜 1981年1月30日/ 全39話/ 東京12チャネル(現:テレビ東京) 放映) の熱心なファンや、彼らの愛読雑誌 「ふぁんろーど」 での 読者 投稿欄で使われ始めたのが発祥との意見もあります。 意味や定義のされ方、使われ方も酷似しており、これをもって真の発祥とする意見も根強いようです。

 ただし 「パソコン通信」 などネット上に登場するまでに断絶の時期があり、前述した 1994 〜 95年あたりの本格的な 「萌え」 普及に一定のきっかけや影響を与えたのは確実ですが、詳細は不明です (後述しますが、「萌え」 はもともと日本語にある言葉なので、純粋な語源を探る営みは不毛かなとか思っています。 現在みんなが使っているおたく用語としての語源としてなら別ですが…)。

 ちなみになぜ多くの場合、「萌え萌え〜」 と云い重ねて強調するのか…ですが、「萌えちゃん燃え燃え」 が変形した…あたりが妥当な線でしょう。 蛇足すると、筆者の古い知人にセラムン登場キャラ、亜美ちゃんのファンがいて、彼が当時、同人話の際に 「○○です あみあみ」 と、意味もなく語尾に亜美ちゃんの名前を重ね付けていたのを思い出しますね (^-^;)。 元々この手の人種には、共通の行動パターンが前世の記憶として躰に刻み込まれているのかも知れません (はぁ?)。

そして全ての美少女アニメファンの合い言葉に…(笑)

 当時パソ通上で誕生し、今なお伝わる同人・おたく用語は数々のものがありますが、元々萌えには 「心にきざす」 意味もありますし、

堀河百首の和歌「雪の下草下にのみ萌えいづる恋をしる人ぞなき」
(堀河天皇の勅撰和歌集で 1105か 1106年に成立/ 堀河院太郎百首、もしくは堀河院御時百首和歌とも)
万葉集志貴皇子の和歌「石走る垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも」
(約 600年から 759年までの和歌を収録/ 平城天皇の勅撰、もしくは大伴家持の私撰からなるわが国最古の和歌集)

…なんて和歌もあります。

 また 1981年10月12日に発行された東洋経済新報社の単行本に 『萠える愛─あるがままの心とともに生きた半世記』 なんてのもありますし (著者はかなりあやしい人なんで論評しませんw)、元々愛情に関して使う言葉なんですよね。

 やはり 「萌え」 は、言葉として残るに相応しい美しさなのかな〜とか、個人的には思っていたりします。 まぁ多くの人は冗談で使う場合がほとんどでしょうけど、そいや最近は 「ハァハァ」 とか 「キター!」「イイ!」「ブヒる」 ってのも、キャラ萌えの際に良く使いますね。 これよりは萌えの方が、まだしもキレイな気がします(笑)。

 ちなみに語源ではこのほか、人気声優である長崎萠さん (1995年/ KOF'95/ 麻宮アテナ役、1996年12月/ GALLFORCE REVOLUTION VOL.1 =WAR STORM=/ キャティ役でブレイク)、またアイドルである高井萌さん (1996年10月25日 マキシシングル CD でデビュー/ ポリスター) らのファン発祥説ってのもたまに聞きます。

 しかし、うちのサークル内の会議室 (BBS) でも 95年には 「萌え」 が普通に通じる形容詞として流通していましたし、それ以前にも草の根のローカルパソコン通信上などヨソで見かけていたりします。 過去ログで 93年までは確実にさかのぼれますので、デビューやブレイクの時期から判断して、明確に誤りであると断言出来ます。

要素としての萌え、そして取り巻く環境…

 「萌え」 の主な対象がアニメや美少女ゲームのキャラクター、すなわち 「作られた個性」 であるがゆえに、キャラ全体としてではなく、ファンが好きになるパーツ…すなわち 「萌え」 るポイントを押さえるキャラ造形の方法論もさかんになってきました。 一般にこうしたポイントは 萌え要素 などと呼ばれ、そうした要素を意識的に足したり組み合わせたりしてキャラクターを作る場合も多いようです。 ファンの側でも自分の萌えるポイント、萌え属性 を自分なりに押さえていて、そうした 「萌え要素」 のある作品を意識的に探し出しているケースもあるようです。

 そうしたポイント、要素はそれこそ無数にありますが、代表的なところでは、ロリメイドメガネネコ耳ブルマー体操着スクール水着…なんて感じでしょうか。 人によっては検索エンジンでこれらのキーワードで好みのキャラを探し出す人もいたりします (大手 CG 画像系の検索さんでも、ジャンルカテゴリ と呼んで、こうした要素をデータベース化していますしね)。

 こうなると、「萌え」 そのものの言葉の定義の問題とも絡み、果たしてキャラ萌えなのか、単なる フェティシズム (Fetishism/ フェチ) なのか分からなくなって来ますが…恐らくはその両方なんでしょうね。 「このキャラかなりいい感じなんだけど…俺的には萌え要素が足りないな」 なんて話を聞くと、ちょっと複雑な気分です。

「俺の嫁」「孕む」「出産した」…新しい萌え的絶賛表現も登場

 「萌え」 に近いニュアンスの言葉で、2005年〜2006年頃にネットを中心に広まった言葉に、○○は俺の嫁 という言葉の使い方があります。

 面白いのはこの言葉、女性が男性に対して使う事もある点で、腐女子 が好きな男性キャラに対して 「○○は私の嫁」 とか、好きなキャラと好きなキャラとの カップリング に対して、「○○は××の嫁」 なんて云い方を、「○○×□□」 のようなニュアンスで使う場合もあります。 「旦那」 「夫」ではなく、あくまで 「嫁」 ってのが、流行り言葉の面白さですが、元々の発端が掲示板の 実況系 の板だったこともあり、そこらの場所では頻繁に見かけるキーワードとなっていますね。

 さらに男性が男性キャラや男性声優、歌手 (かっこいい兄貴キャラ) などに対し 「○○は俺の嫁」 と表現したり、逆に 「俺は○○の嫁」 と表現したり、さらには 「抱かれてもいいです」 「孕む」 「妊娠した」 「出産した」 などのように使う場合もあり、ある意味分かりやすいっちゃ分かりやすいですが、外部からみたら意味不明な使い方もあるようです。 ホモ的表現である 「アッー!」 ではなく、あくまで女性的な 「孕む」 「妊娠」 ってキーワードが出るところが面白いですね。

世界に広がる萌えと、国内の萌えのあれこれ

 さて、現在では 「Moe」 として、日本のアニメや ゲーム などのおたく文化、ポップカルチャー (HENTAI) に親しむ海外のファンからも認知されつつある 「萌え」 ですが、欧米ではこうした日本の諸作品類から影響を受けたクリエイターらの作品も、いろいろと出現しているようですね。

 日本では庶民の文化…というより下賎な娯楽として低い評価しか得られなかった浮世絵や春画が 19世紀末、ヨーロッパで画家や作家、音楽家などの芸術家に影響を強く与えたのは 「ジャポニズム」 と呼ばれ広く知られていますが、こんにちこれに当たるのがおたく文化、その1つの集大成である 「萌え」 なんだと筆者は考えています。 今後どのような発展や広がりを見せてゆくのか、楽しみな分野ではありますね。

 ところで、ことほど左様に良く使われる言葉、「萌え」 ですが、実は アンチ な感情を抱く 「アンチ萌え」 派な方も、たぶん同じくらい多くいらっしゃいます。 「萌え」 とか云っている人がキモい…なんて直接的な人もいれば、「萌え」 ファンに媚びた内容のアニメがあふれかえり、アニメ界全体をダメにした…なんて人まで、その立場は様々です。 多くの「萌え」ファンは、作品全体の評価や世界観に対する共感より、特定のキャラクターの好き嫌いだけで作品を評価する風潮がありますからね (実際はそこまで極端なファンって少ないのですが、ハタから見るとそう見えてしまうようです)。

 どの言葉でもそうですが、同人用語には使う人の立場や考え方、知識などを際立たせる効果を持つものが少なくありません。 ご自分の責任において使うようにしましょう… (ちなみに半可通のくせに得意げに使うのが一番嫌われたりします…これはちょっとでも専門性のある言葉なら、どんなものでもそうですけどね (^-^;)

2004年には、いわゆる流行語大賞にも 「萌え」 がノミネート

 ところでこの 「萌え」、どういう訳か2004年になって、いわゆる流行語大賞に 「アキバ系」 と共にノミネートされました (どちらも落選)。 前年に発売されて一世を風靡した 「萌える英単語 (萌え単)」 とその後の萌え本ブームが影響しているんでしょうけど…一般人のアンテナ、感度が鈍すぎますね。

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(同人用語の基礎知識/ うっ!/ 1999年12月26日)
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