絵を描くから 「絵描き」、行為を指したり人を指したり
「絵描き」 とは 絵 を描くこと、転じて 趣味 や仕事で絵や イラスト を描いている人のことです。 趣味なら 同人 はもちろん、近所の公園でスケッチしている人なども含め、画材 や活動内容を問わず、非常に幅広い ジャンル を指す言葉でしょう。
また職業で云えば画家やイラストレーター、グラフィッカー、アニメーターや漫画家、画職、場合によっては ドット絵 を描くドット職人 (ドッター)、3D CG のモデルを制作する人 (モデラー)、2020年代 (とくに2022年後半) からは、機械学習 (いわゆる AI) の生成に長けた人 (AI絵師) なども該当すると考える人もいるかも知れません。 その他にも画家と呼んだり、これらをひっくるめて、もっぱら他称として使われる 絵師 という表現もあります。
言葉としては 普通の 日本語であり、自称他称問わず使われる言葉ですが、とりわけ同人やら 商業 やらで マンガ を描くことを日常としている人、あるいはその周辺の人たちの場合、画家と呼ぶのはちょっと堅苦しいし、かといってコマ割りされたマンガをたくさん描いているわけでも連載を持っているわけでもない場合に漫画家も使いづらいとなると、自称にしろ他称にしろ全てを包括して変に美称の ニュアンス もないフラットな絵描きという言葉は、気取らずに使いやすいという部分はあるかもしれません。
また似たような活動をしている人たち以外の人たち、一般人 に対して自称する場合にも、変に説明しすぎることもなく、これまた使いやすい部分はあるかもしれません。 同人で活動している人が一般人を相手に 「漫画家です」 と自称した場合、一般人が知っているメジャーな商業誌への掲載を前提に 「どの雑誌に連載してるの?」「作品名は?」 と詮索されるのは面倒ですし、同人の 概念 のない人に同人マンガの説明をするのも疲れます。
ちなみに画伯という尊称もありますが、これは ネット の世界では壊滅的に絵が下手で、逆にそれによって面白みや個性が際立つような独特な絵を描く人を揶揄したり親しみを込めた軽口として使われることが多いでしょう。
なお同じ同人や商業の創作活動でも、文章を主体にしている人の場合は、字書き と呼んだり自称することが多いでしょう。 一方、絵も描くし文章も書くし、その他 歌を歌ったり 踊ったり動画を配信したりと何でもありの活動を行う人は、表現者とか 活動者 と呼ぶこともあります。
普通の勤め人は無理でした…絵描きの自負と劣等感
職業として絵を描いている人が絵描きを自称する場合、そこには様々なニュアンスが含まれます。 これは個人の考え方によって人それぞれですが、「絵でご飯を食べている」 という自負やプライドがある一方、「一般人のように普通の仕事ができない」「会社勤めが無理だ」 という、ちょっとした謙遜というか卑下や 自虐 が含まれることもあります。
こうしたニュアンスは、それ以外の職業でもまま見られることではありますが、絵描きにしろ字書きにしろ、あるいは音楽でもダンスでも芸能活動でも何でもそうですが、クリエイティブな印象があり、才能と運が必要で憧れの職のひとつに挙げられることも少なくない一方、不安定で社会的に見たらよくわからない仕事に就く人特有の色々な感情が含まれていることも多いものです。
とりわけ同人の世界では、絵を描ける人はやっぱり強い (注目を集めやすい) こともあり、絵を描くのが本当に好きな人ならともかく、むしろ絵を描くことで 承認欲求 を満たしたいと思っているような人の場合は、ある種の特権意識らしきものが透けて見えてしまう人も少なくないかもしれません。 絵だろうが文章だろうが何だろうが、創作の形にどちらが上だ下だなどはありませんが、とはいえ現実に 同人イベント で長蛇の列ができるような サークル はやっぱり絵描きさんが多いため、このあたりは参加する人によって様々な考え方や 解釈 があります。
どんな絵を、何を目的にどれだけの熱量で描くか
ちなみに先ほど絵描きの分類として画家やイラストレーター、漫画家などいくつか上げましたが、これらの境界線ははなはだ曖昧かつ、どこに軸足を置くかで意識の差も極めて大きいかもしれません。 例えば油彩画の画家の場合、たった1枚の作品に数週間から数か月を要する場合もありますが、一方でアニメーターや漫画家などは、それこそ一日に何枚どころか何十枚も絵を描きます。 カテゴリ が同じでも、絵描きさん個人の絵柄や個性の違い (みっちり描き込むタイプか、あっさり描くタイプか) でも制作コストが異なりますし、そもそもその人本人の描く速さも違います。
しかもいったん完成した作品の人気や経済的価値は、それらとはほとんど無関係に決まります。 誰かが技巧や工夫を凝らし1年かけて描いた作品より、別の誰かがサインペンでさらっと3分で描いた絵の方に価値があると見なされるなどは当たり前の世界です。 二次創作 の場合は、元となる作品の人気のあるなしでも見る人の数や評価が変わるでしょうし、場合によっては絵描きさんの容姿が影響することもあります。 2023年頃から生成系の AI による作画も増え、こうしたある種の格差や価値観の大変動は今後ますます広がるでしょう (すぐに収まるべき状態に収まるとは思いますが、じっくり時間をかけて描くタイプの人にとってはかなり厳しい状態になると予想されます)。
その意味では自分の絵の価値を他人に委ねるのは意味がないし、一攫千金を狙える夢や ロマン がある活動だと云える一方、残酷で救いのない活動でもあるのが絵描きなのでしょう。 今さら云うまでもない話ですが、文字通りの弱肉強食の世界ですね。 別に絵を描く理由など何でも構いませんが、人に認められたい・承認欲求を満たしたい系の動機で描いている人は、これからはきついだろうなという気はします。 結局は 「好きだから描く」 が、一番その人にとって幸せな絵とのつき合い方なのでしょうね。 これは絵以外の趣味や仕事もそうですけれど。
筆者 は絵描きとして配布を目的とした同人は1970年代から、商業は1980年代から、それなりの密度で関わっていますが (専業としては商業で7年くらいは絵だけで食べていました)、1990年代から2020年まであたりは、ある種の 「絵描き黄金時代」 だった印象があります。 1970年代はマンガという ジャンル の人気は上がる一方でしたし、マンガ雑誌はもちろん、雑誌業界全体の活気がありましたから、大量のイラストや挿絵の 需要 がありました。 その後 ゲーム も出て、さらに絵描きの活躍の場が広がりました。 同時に コミケ をはじめ 同人イベント が生まれ盛り上がりましたし、1980年代から1990年代にかけて同人バブルも生じ、前後して 書店委託 という独自の流通ルートも登場、人気さえでれば大金を稼ぐチャンスも生まれました。
その後 ネット の時代となり雑誌は縮小しつづけますが、逆にネットを通じたマネタイズもしやすくなります。 とくに2010年あたりからは、電子化 された同人作品の発表の場がたくさん現れ、クラウドソーシングサービスやコミッションサイトによる受注方式の絵の制作も可能になります。 やる気があって、時代や流行に乗ったある程度の レベル の絵が描ける人は SNS でも注目を集め、プロからセミプロ、専業からおこづかい稼ぎまで、絵描きにとってこれほど経済的・精神的に恵まれた (ただし競争は激しい) 時代は、過去にもないし今後もきっとないでしょう。